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4 妻

 

 そもそも旦那様のことを愛しているわけでも信頼しているわけでもない。ましてや女主人としての権力にもまったく興味はない。お飾りの妻になることで自由に過ごせるのなら最高ではないだろうか。



「自由に過ごしていいってことは、図書館に行ってもいいのよね?」



 メルトハイン公爵家のタウンハウスからは図書館が近い。なんなら歩いていける距離だ。お飾りの妻のために毎回馬車を出してもらうのも悪いので歩いていこうと思う。



「家の仕事をしなくていいのなら時間が余って暇だわ。…それなら外で仕事をしてもいいわよね?」



 おそらく三年後には白い結婚を理由に離婚されるはずだ。離婚するのは構わないが、その時に手に職があった方がいいし、今から離婚後の生活のために貯金しておけば安心だ。


 あと一つ、私にとっては一番重要なことがある。それは…



「今ならまだ採用試験に間に合うわ…!」



 司書の採用試験は今から一ヶ月後。結婚して公爵夫人となれば試験を受けることなど絶対に無理だと思っていたが、私はお飾りの妻になるし、旦那様からも自由に過ごしていいと言われている。それなら挑戦する選択しか私にはない。



 (挑戦してダメだったのなら他の仕事を探さなくちゃいけないけど、もしも合格できれば…)



「こうしてはいられないわ…。サーシャ!サーシャはいる?」



 サーシャは私の専属侍女だ。今回の嫁入りに一緒についてきてくれた信頼できる侍女である。部屋の前で控えていてくれたので呼ぶとすぐに部屋へと入ってきた。



「いかがされましたか?」


「サーシャ!あのね私、お飾りの妻になって司書になるわ!」


「…はい?」


「だからサーシャも協力してね」


「え、お、お待ちください!ユリアさ、いえ奥様!詳しく説明を…」


「サーシャ。私はお飾りの妻なの。だから奥様って呼んではダメよ。今までどおり名前で呼んでね」



 お飾りの妻は奥様などと呼ばれるべきではない。本当に奥様と呼ばれるべきなのは旦那様が愛する女性、ただ一人だけだ。



「…とりあえず質問してもよろしいですか?」


「ええ。なにかしら?」


「先ほどの発言について詳しく説明していただきたいのですが…」


「あら、そうね!説明がまだだったわ。…ふふっ、どうやら私少し浮かれていたみたい。実はね―――」



 私はサーシャに先ほどの旦那様とのやり取りと、今後のことを説明した。



「―――ということなの。だから私は旦那様の望みどおりお飾りの妻になるわ!そして司書を目指すつもりよ!」


「…ユリア様。その…」


「なぁに?」


「公爵様の口からユリア様にお飾りの妻になれ、と仰ったわけではないのですよね?」


「そうよ。直接言われたわけではないけど、初夜を拒否するってことはそういうことじゃない?」


「……」


「…サーシャ?」


「…いえ、なんでもありません。よろしいかと思います」


「やっぱりそうよね!ふふ、楽しみだわ!…ふわぁ」


「今日はお疲れでしょうから、そろそろ休まれた方がよろしいかと」


「そうね。他に寝る場所もないし今日だけはここで休ませてもらうことにするわ」


「着替えはいかがされますか?」


「うーん、このままでいいわ。どうせ誰もこの部屋には来ないもの」


「かしこまりました」


「じゃあ明日からよろしくね」


「はい。それでは失礼いたします」



 サーシャが部屋から出ていき再び部屋には私一人となった。私は初夜用の透けた夜着の上にガウンを羽織り、布団に潜り込んだ。さすが公爵家。ベッドの寝心地が最高である。疲れもあり、目を閉じたらすぐにでも寝てしまいそうだ。



「そういえば明日は旦那様が領地に向かうのよね。お見送りは……まぁいいわよね」



 一応妻として見送りをした方がいいのかなと考えたが、私に見送られても嬉しくないと思うのでやめておこう。



「ふわぁ~。…そろそろ寝なくちゃ」



 明日からは忙しくなりそうだ。私は明日からの日々を想像しながら目を閉じた。



 (いい夢、見られそう…ふふ)



 今日一日緊張していたのか自分が思っていたより疲れていたようで、ふかふかの布団に包まれ私はあっという間に深い眠りに落ちていった。


 結婚して初めての夜。旦那様に愛する女性がいることを知り、私はお飾りの妻になることを決意したのである。


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