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2 妻

 

 私の名前はユリア・ルーセント。ルーセント伯爵家の娘だ。


 家族は両親と兄が一人いる。家族仲は良いわけでも悪いわけでもなく普通だ。家格も公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵とあるなかでの、高くも低くもない伯爵。ルーセント伯爵家は領地を持たない法衣貴族だ。特に何かに秀でているわけでもなく、数ある伯爵家の中でも真ん中辺りの普通オブ普通だ。


 それに私の容姿もこれまた普通である。ミルクティー色の髪に空色の瞳。特別美人でも不細工でもない。普段は眼鏡をかけているので、不細工寄りかもしれないが。


 そんな何の取り柄もない平凡な、普通オブ普通の私にも趣味がある。それは本を読むことだ。私は本を読むために暇さえあれば王立図書館に足繁く通っていた。通いすぎて図書館の司書の人とは顔見知りになるほどだ。

 図書館には家にある本すべてを読み終わってしまったことをきっかけに通い始めた。私が八歳のことである。それから十年、私は十八歳になるまで図書館に通い続けていた。図書館には十年も通っているが、いまだにすべての本を読むことはできていない。というよりすべて読むなど不可能だろう。蔵書の数は我が家とは比べ物にならないし、定期的に新しい本が入荷されるので、蔵書の数は増え続けているのだ。

 図書館の存在は、本好きの私から言わせれば最高の一言に尽きる。図書館に住みたいと何度思ったことか。


 しかし十八歳になったばかりのある日、顔見知りの司書にかけられた言葉に衝撃を受けた。



「実は司書を辞めるんだ。私もだいぶいい歳だからね。それで十年ぶりに採用試験が行われるんだが、よかったら受けてみないかい?」



 いつもどおり図書館へとやってきた私に、顔見知りのおじいちゃん司書がそう言ったのだ。

 王立図書館の司書は簡単になれるものではない。本の専門家である司書は様々な知識が求められるし、そもそも欠員が出ない限り新たに採用されることはないのだ。私も図書館に住めないのであれば司書になりたいと考えもしたが、ここ十年は欠員がなかった。司書は本好きには堪らない仕事であるし、給金もいい。だから辞める人は殆んどいないのだ。

 家は兄が継ぐので私はどこかの家に嫁入りするか就職することになる。しかし嫁入りの話は全くないので、自力で働き口を探さねばと思っていたところにこの話だ。これは運命ではないかと思った。もちろん採用されるかはわからないが、この機会を逃せば後悔することは間違いない。だから挑戦してみたい、そう両親に伝えようとドキドキしながら家に帰ったが、父に会うと開口一番に言われたのだ。


『お前の嫁ぎ先が決まったぞ』と。



 婚約期間がほとんどないまま嫁いだのはメルトハイン公爵家。お相手であるカイル様は弱冠二十歳にして公爵家の当主となった非常に優秀なお方だ。

 平凡な伯爵家の普通の娘である私に、貴族の頂点の公爵家当主であるカイル様からなぜ結婚の申し込みをされたのかわからない。両親も始めはどうして私なのかと不思議に思ったようだが、最終的には考えても仕方がないと言って喜んでいた。メルトハイン公爵家に何か利益があるのかは不明だが、ルーセント伯爵家は公爵家と縁付きになれるのだ。これ以上の利益はない。

 だから私は司書の採用試験を諦めるしかなかった。それに公爵夫人となったら図書館へ通うこともできなくなるはずだ。今思えばこの展開もまさに小説のようであるが、この時は本気で落ち込んでいたのでそんなことは微塵も考えられなかった。


 婚約が決まってからは慌ただしい日々を送ることになり、図書館にも行けず、おじいちゃん司書に挨拶できぬまま私は公爵家に嫁ぐことになったのだ。


 そして迎えた結婚式当日。

 旦那様と会うのはこの日が初めてであったが、目が合うことも言葉を交わすこともなかった。結婚式も公爵邸に神父様を招き、結婚証明書に名前を書くだけの簡素なものだったので、ものの数分で終了した。

 結婚式が終わると旦那様は急ぎの仕事があるからと私は一人で夕食を食べ、そのあとは公爵家の侍女に全身を磨かれ、透けた夜着を着せられ夫婦の寝室で旦那様の帰りを待った。しかし待てど暮らせど旦那様は部屋に来ない。来ないのであればそろそろ眠りたいなと思っていたところにようやく旦那様がやってきてのだが、初夜を拒否され一人ベッドに取り残されてしまった。


 そうして先ほどの発言へと繋がるのだ。


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