1話
更新は不定期となります。
ロープを吊るす。
椅子の上に立つ。
これで楽になれる。
今から......
今日は楽しかったな。
特に...あれ?
私は何をしていたんだっけ?
楽しいって?
ここはどこ...私の部屋じゃない。
周りを見渡しても誰もいない。
おかしい。
どうなっているんだ..
焦る気持ちとは裏腹に何だかとても眠くて仕方がない。目蓋がどんどん重くなっていく。私は寝てしまった。
動けない....
体が重い。
まるで鉛のようだ。
私の上に何かがいる....
怖い..
これは何だ...
見たくないと思って目を強く閉じても何かは脳裏に写る。
しかも、知りたくもない情報がどんどん頭に入っていく。
嫌だ。聞きたくない。
私の決心を揺さぶってくる。
あれ、体が少し軽くなったような気がする...やっと体が動いたと思ったのも束の間、私はまた違う場所に移っていた。
ここは、病院?
しかも、産婦人科だ。
足は私の意思に従わずどんどん廊下を歩いていく。
どこに向かっているんだ?
足が急に止まった。
ここは...
そこには新生児がたくさんいた。
あっ、あの子は..私だ。
赤ちゃんの時の私がいる。
そう思った瞬間、私は又もや移動していた。
でも、そこは白い空間だった。窓もなければ扉もない。つまり、ここから出ることはできない。
まるで、真っ白な箱の中に囲われているようだ。
今度は体は自分の意思で動かすことができた。
とりあえず歩いていると、赤ちゃんの後ろ姿が見えた。
こんなところに?
私は赤ちゃんに駆け寄った。
そして、抱っこをしてその子の顔を見た。
この子は...自分だ。
私が驚いていると、急に視界が真っ暗になった。
すると、急に首が苦しくなった。
くっ、苦しい...
自分の首に手を伸ばすと、既に手があった。
さっきの赤ちゃんの手だった。
「わぁっ」
私は飛び起きた。
変な夢を見てしまった。
「夢ではありませんよ。」
急に声が聞こえた。
いつの間にか男が目の前に立っていた。
艶のある黒髪に切れ長で真っ黒な瞳が何とも美しい。だが、綺麗すぎて不気味でもあった。
「私は零と申します。
先ほどのことは夢ではなく私が作った仮想空間です。」
さっきのは夢ではなかったのか。
でも、仮想空間ってことは...作り物。
「ですが、事実に基づいています。
ですから、貴女自身の想い、そして、あのこの子の気持ちは現実のものです。」
私自身の想い?
あの子?
「貴女はそれでも死にますか?」
男は唐突に言い放った。
この男は何故知っているのだろう。
私は、確かに死のうと思っていた。
だから、ロープを吊って....
あれ?
「貴女はまだ生きています。
これからの判断は自由です。」
「ですが、貴女はまだ死ぬべきではないと私は思います。」
そう言うと男は消えていった。
男が話していた仮想空間が思い出される。
何かは、私だった。
そして、必死に私に訴えかけていた。
「頑張って、生きて。
貴女には大切な家族がいるってことを思い出して。
それに、貴女が死んでしまったらあの子だって悲しむわ。
あの子は貴女の幸せをずっと願っているの。
だから、あの子のためにも頑張って。」
あの赤ちゃんは、私ではなかったのか。
あの子は、私の子だったのか。
以前、母親は言っていた。
「あんたが生まれた時はびっくりしたよ。
私が赤ちゃんの時と瓜二つなんだもん。
あんたの赤ちゃんもきっと、そっくりなんだろうね。」
あの子は怒っていたのか。
私が死のうとしたから....
私は首を絞められて苦しかったし、もう死ぬのかなって思った。
でも、心のどこかでまだ死にたくないとも思った。
気がつけば、私は椅子の上に立っていた。
今から私は生きる。