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三十話:視線

「最近、視線を感じるな。」


千種庄兵衛は最近、千種屋を見張る謎の視線に気になっていた。千種だけではなく奉公人たちもどこぞの侍がこちらを見ていたと報告があり、何者かがこちらを監視していると思えてならなかった


「旦那様、また例の侍が・・・・」


「またか。」


太吉から例の侍たちがこちらを監視している事を聞いた千種は溜め息をついた


「太吉、向こうの狙いが分からぬ以上、迂闊には行動するな。外へ出る時も1人で行動せずに複数で動くよう奉公人たちにも伝えよ。」


「畏まりました。」


太吉から去ると同時に入れ違いで登代が心配そうに私室に入ってきた


「またですか。」


「あぁ、目的が何なのかは分からぬが迂闊には動けぬ。」


「町奉行にこの事を知らせますか?」


「いや、それは出来ん。」


「それは何故?」


「忘れたのか、我等は不忠者の赤穂浪士とその家族連れだぞ。もし此度の事で我等が討ち入りに参加しなかった赤穂浪士だと露見すれば千種屋は終わりだ。」


それを聞いた登代は顔を歪ませた。三次藩にいた頃、自分たちに罵声を浴びせる武士や町民たちに登代は今でも忘れずにいたのである。登代の顔を見た千種は「今は堪えてくれ」と諭した


「・・・・畏まりました。」


「子供たちにも目を光らせてくれ。」


「はい。」


何者かの監視の中で千種屋全体が一致団結して警戒にあたり、護身用に脇差を持たせており、有事以外は使わぬよう厳しく厳命した。千種も1人では行動せず奉公人と共に行動していた。万が一の場合は辻番や自身番にも念のために付け届けを出して警備に当たらせている。それが効いたのか例の侍たちは千種たちの前に現れる事はなくなった。監視の目が無くなった事で太吉と加代は安心していたが千種は安心できなかった


「取り敢えずは監視の目が無くなりましたな。」


「旦那様、もう宜しいのでは?」


「いや、油断は出来ん。しばらく様子をみよう。」


「「はい。」」


引き続き警戒にあたりながら日々が流れていったが突然、その侍たちが押しかけてきたのである


「御免。」


「へい、何でございましょうか(見張りをしていた侍だ!)」


「店の主を呼んで貰いたい。」


「し、失礼ながらどちらの御武家様で?」


「拙者は三次藩物頭、三井主水武庸(みついもんどたけつね)と申す。」


三井主水武庸【25歳、三次藩物頭(150石)】は自身の身分を明かすと奉公人は「少々お待ちを」と返答し、千種屋に入ると真っ先に太吉に知らせた。太吉はそのまま千種の下へ向かい例の侍たちが三次藩の武士だという事と千種に呼べと知らせてきたのである。三次藩だと聞いた千種は耳を疑った。登代も何故、三次藩の者が会いに来たのか警戒し始めた


「取り敢えず会うだけ会おう。」


「お、お前様!」


「向こうが直接参った以上、会わぬわけにはいかぬだろう。流石に道中で斬りかかる事はないだろう。」


「は、はい。」


そういうと千種は身嗜みを整えた後、三次藩士たちと直接対面した。千種は一目確認したが知らない顔ばかりであったが平静を装いつつ対応した


「お待たせ致しました。手前が千種屋の主である千種庄兵衛にございます。」


「そなたが千種庄兵衛か。」


「左様にございます。」


「突然ではなかった我等と共に来てもらおう。」


「・・・・今からでございますか?」


「そうだ。」


「分かりました、少々御待ちください。」


千種は一旦、店の中に入るとそこへ登代が心配そうに千種を出迎えた


「登代、出掛ける準備を致す。」


「出掛けるとはどこへ?」


「分からん。」


目的は分からないが向こうは自分が目的である事は明らか、自分が五十嵐十郎太である事は内密にしたいがもし自分の事を知っている者がいたらと思うと不安で一杯であった。登代も、もし夫が戻ってこなかったらと思うと不安であったが自分が不安な様子を夫に知られればいけないと思い、夫を激励した


「お前様、私たちの事は心配いりません。どうかお役目を果たしてくださいませ。」


「登代。」


気丈に振る舞う登代の姿に千種は「子供たちを頼む」と告げた。登代は「はい」と告げた。着替えを済ませた後、登代の他に菊丸や千代、太吉と加代等の奉公人たちが見送りにきた


「皆、留守を頼んだ。」


「「「「「はい。」」」」」


「父上。」


「菊丸、母上の事を頼んだぞ。」


「はい!」


「千代、父は行ってくる。」


「行ってらっしゃいませ!」


「登代、行って参る。」


「お気をつけて。」


千種は家族と奉公人たちに別れを告げた後、待っていた三井たちと合流した


「御待たせ致しました。」


「では参るぞ。」


三井たちと共に歩みを始めた。道中は誰1人会話せず不気味なほどの静けさであった。その異様な雰囲気の中で千種は水を飲みたいほどの喉の渇きを覚えた


「(早く着いてほしいな。)」


そんなこんなで千種は目的の場所に辿り着いた。そこは、とある由緒ある寺であった。千種は何故、ここに案内されたのか気になったが三井たちに従い、寺の中に入った。そして千種は三井たちに寺の広間に案内された


「ここで待て。」


三井がそう告げると千種は待つことにした。待っている間は寺の庭園を眺めつつ、不安と恐怖が千種自身の心身を支配した


「(我が人生もここまでか。)」


現世とおさらばする覚悟しつつ長い時を千種は、じっと待ち続けるのであった





【架空の人物】

・三井主水武庸「三次藩馬廻役」

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