彼女のコスプレが重すぎてHどころじゃない
付き合って半年になる彼女が、俺の誕生日に「何が欲しい?」と聞いてきたので、俺は五秒ほど考えてコスプレを所望した。コスプレとはコスチュームプレイの略称であり、詰まるところメインはプレイだ。
そう、俺は今日……童の貞を卒業する!!
「うへへへ……どうかな?」
オッサン臭い笑い声は照れ隠しなのだろう。彼女が恥ずかしそうに俺の前へとやって来た。シャワールームから現れた彼女に、それまでベッドに腰掛けて瞑想していた俺はそっと笑顔を向けた。
しかし、マントでコスチュームを隠しているが、頭にウサギの耳が見えたのでバニーガールが既に確定している。まあ、これでウサ耳に柔道着だとしたら、それはそれでアリなんだろうがな!
「期待と興奮で昨日は眠れませんでした。本日は宜しく御願い申し上げます」
「ふふっ、やだ緊張してるの? 可愛い」
自分の感情については正直に申し上げる。これは彼女との半年の間で俺が学んだ事だ。大抵は上手くいく。
「じゃあ……見せるね?」
「オ、オナッシャス……」
彼女がそっとマントを外した。
「……なんだか恥ずかしいね」
「彼女は恥ずかしそうに頬へ手を当てた。細過ぎず、それでいて出る所はしっかりと出ている彼女のバニー姿は、見る者(俺一人だが)を確実に虜にした。これからこんな素敵な彼女と一戦相見えようとするわけだ。俺の童貞力では確実に返り討ち間違い無しだ」
「大丈夫? 謎の語りが漏れてるよ?」
「あ」
緊張のあまり思わず口に出てしまったらしい。咳払いを一つして、そっと座っていたベッドから立ち上がった。今日だけは芸者にお触りしても係の人に怒られない。しかし何処から触ろうか……誰か教えてくれ。
「バニーは何処で買ったの?」
「え? これ?」
彼女が恥ずかしそうにウサギの耳を撫でた。一人でドゥンキ辺りに買いに行ったのかと思うと、軽く興奮を禁じ得ない。
「昔ね、お姉ちゃんがカジノで働いててね」
「!?」
まさかの本物!!
しかも彼女のお姉さんが着用していたとか、これはある意味間接なのでは!? そうなのでは!?
「でもね、カジノ……潰れちゃったんだ」
「そう……なんだ」
「違法カジノでお姉ちゃんも捕まっちゃって……」
「…………」
何というか、急転直下とはこの事だろうか。先程まで水銀球をぶち破らん勢いで帯びていた熱が、一瞬で引いていくのが分かった。ちょっともう、その服では致す気にはなれそうにない。
「ほ、他のコスプレも見てみたいな……」
「うん、いいよ♪」
彼女は笑顔で隣の部屋へと向かった。俺は再びベッドへ腰を下ろした。そう言えば言ってなかったが、ココは彼女の部屋だ。詰まるところタンスを開ければ下着が入っている。きっと金庫破りが大金が入った金庫を目にした瞬間の気持ちって、こうなんだろうな。
「おまたせ」
またもやマントでコスチュームを隠した彼女が、ひょっこりと顔を出した。世界一可愛い彼女の頭の上にはねじり鉢巻き、そして手には岡持ち(出前の人が持ってる箱にギロチンみたいなのついてるやつ)を持っていた。
相変わらずマントを取る前からコスチュームが確定しているが、これで中がナース服だったとしても悪くはない。出前ナースが容赦無く高カロリーを運び患者にとどめを刺してゆく。なんて素晴らしい死神なのだろう。
「ジャーン」
彼女は白いTシャツを着ていた。『なんだぁ?』と思ったが、胸の所に【ラーメン処 菊田】も文字が見えた。やはりラーメン屋のコスプレに違いないようだ。
「その服は?」
「うん。ウチのお父さんがやっていたラーメン屋の服」
お義父さん。娘さんは熱いうちに頂きますよ……!!
「でもね、食中毒でお店潰れちゃってね……」
「……」
なんだろう。凄く申し訳ない気持ちがいっぱいだ……。
「ほ、他のも見たいな……」
「うん」
彼女が着替えに行く間、何とかマイカーのキーを回してエンジンをかけようとするが、一向にアイドリングの気配がしない。このままでは廃車も止む無し……!!
「おまたせ」
彼女はマントで体を隠してはいるが、頭に三角巾を着けていたので、恐らくはエプロン姿なのだろうと推測できた。裸エプロンだと役満だ。
「じゃーん」
予想通り彼女は裸エプロンで、マイカーは一瞬でエンジンが吹き飛んだ。
「位置について……よーい」
ベッドから床に手を着き、クラウチングの構え。ドンの合図でドンしてドンドン、だ。
「このエプロンね。お母さんが最後に着ていたやつなんだ……」
嫌な予感がする。それも最大にして特大のやつだ。
「お母さんね、この前死んじゃって……」
彼女がそっと涙を拭った。
横にあった彼女の机には、笑顔のお母さんの写真が飾られていた。
俺はそっと彼女の肩に手を置いて、慰めることにした。やるのはまた今度にしよう。今じゃなくてもいいじゃないか。
「ほら、風邪ひくから着替えよう?」
「……う、うん」
肩を落とした彼女は、そのまま着替えに行った。
「ごめんね」
彼女は童貞を殺す服を着ていた。
「それは?」
「近所のオジサンから貰ったの」
俺はちょっと迷ったが、性欲には勝てなかった。