グルメな妖怪
人喰いの妖怪が少女を捕まえた。
「久々の飯だ、お前を喰ってやる。」
妖怪の歯が少女の首筋に刺さり柔肌を切り裂かんとするその時。
「ちょっと待ってください、私にいい案があります。」
少女が妖怪を制止する。
「…ふむ、この状況でなんとも肝が据わっている。聞いてやろう。」
「私は女です。子を残せます。生まれてくる多くの子を食べたほうが腹も満たされるのでは?」
「…ふむ一理ある。して、どの位待てばいいのか・」
「そうですね、愛を育むのに1年、子を産むのに1年。なので2年ですかね。」
「我は腹が減っているのにそんなに待てと。」
「あなたは見たところ食通のようですね。きっと少なくて美味しくもないご飯よりも、未来のごちそうを取るはずです。」
「確かに、我は味にうるさいからな。」
その言葉を聞いて妖怪は待った。少女と愛を育み、子を作り、ごちそうを待ったのだ。
「そこにごちそうがあるのか?」
「そうです、ここにごちそうがあるんですよ」
少女は腹をさすりながら答える。
1年後元気な双子が生まれた。
「さて、待ちに待ったごちそうだ。いただくとしよう。」
「ちょっと待ってください、私にいい案があります。」
「…なんだ」
「この子らが更に子を残せば、もっと沢山のごちそうが食べられますよ。」
「…ふむ一理ある。して、どの位待てばいいのか」
「20年といったところでしょうか。」
「2年も待ったのに更に待てと?」
「あなたは賢い、きっと未来のごちそうをとるでしょう。私は知っています。」
「そうだ。我は賢い。」
その言葉を聞いて妖怪は待った。子はすくすくと成長し、更に子を残し、更にそれらが子を残すまで。
その頃には少女は老い、病床に伏せた。
「…さぁ、ごちそうがたくさんですよ。」
「…そうだな。」
外では多くの子どもが遊んでいる声が聞こえる。
「…食べないのですか?」
「…そうだな。」
「…50年も待ったのです。もういいんですよ。」
「…そうだな。」
妖怪は彼女の手を握る。
「…なんですか、貴方らしくない。」
「…そうだな。」
二人の間を静寂が通り過ぎる。
「…やっぱり、あそこでお前を食っておくんだった。」
「…んー、そうですね、では。」
体をもそりと動かし妖怪の方を向く。
「私が生まれ変わったら私を食べるというのはどうでしょう。」
「…あぁ、それがいい。」
「…じゃあなるべく早く帰ってきますから。」
「…あぁ。」
妖怪の返事を聞いた老女の手から力が抜けた。
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「それでおじいちゃん、そのあと妖怪はどうしたの?」
「あぁ、子ども達に囲まれて幸せに暮らしたそうだ。」
「じゃあ一番じゃないにしても、ごちそうがあるのに食べなかったんだ。」
「そうみたいだな。」
「なんでだろうね。」
「そうだな、わしはよくわからないが。」
白髪の男性は髭をを撫でながらこう呟いた。
「最高のごちそうを待ってるからじゃないかな。」