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「アタシが危惧しているのは外国人による買い占めだよ。つまり、お前のボスだ!」
ビシッとチカ丸に指さすと、彼女は顔を横に向けた。
「シカトしやがって!」
「私のボスじゃない。バーバのボス」
「100歩譲ってボスはオタクらしいし、コレクションしたくなる気持ちは分かるよ。けど、さっき言った投機マネーは市場をおかしくしてしまう。既に1本のソフトに億の値段が付くと実証されてしまった。その事によって新品未開封だけじゃない、希少というだけでゲーム市場全体で買い占めが始まっているんだよ。次の億越えソフトを狙ってね。それがアタシみたいに少ないお小遣いはたいて昔のゲーム集めてる様なオタクまで煽りを喰らっているのさ」
「月光ちゃん、お小遣いは全部ゲーム買うのに使っちゃうよね。良くないよ」
「食べ物に全てつぎ込んでしまう、はなっちにとやかく言われたくはないよ」
「どっちも似た様なものよ。でも、ゲームってそんなに買えないものになってるの?」
「たぶん多くの日本人は気付いていない。なぜなら、本数が少なくて希少でタイトルも聞いた事ないような昔のソフトから姿を消していってるから。最近のゲームなら買おうと思えば普通に買えるよ」
「だったらそんなにこだわらずに、今あるゲームをすればいいじゃない。それに昔のゲームより今のゲームの方がリアルでよく出来てると思うけど?」
「もちろんそうだよ。だけど、オタクという生き物はね細かい事が気になるのさ『今あるゲームより、まずは先に発売されたゲームを順番に追っていくのがゲーマーだよな』とかね」
「はい、はい」ふーみんが呆れている。オタクなんてこだわるからこそオタクなんだよ?
「かいちょがさっき美術品みたいだって言ってたよね。ゲームは美術品と同類のステージに上がってしまったのさ。よく分からない抽象画でも希少で有名と言うだけで高い値段が付くでしょ?それはいわば絵自体の価値より、価値がある絵として見られてしまうという事。最近注目されているNFTアートなんていい例だよ。アレなんて最初から売り買いありきで作られている様なものだからね」
「えぬ・えふ・てぃ・・・・・・」ふーみんが話についてこれていない。
「Non Fungible Token の頭文字を取ってNFT。代替不可能なトークンという意味だよ。偽造や改ざんが難しいブロックチェーン技術によってトークン、つまりデジタル資産なんかを保障しているんだ。デジタルアートにもそれぞれ固有のアドレスを割り振っているから現物がない情報でも唯一の物として安心して取引できるんだよ」
「へー・・・・・・」
(理解していないな?コヤツ)
のっぺりしているふーみんに代わってチカ丸が言った。
「ママ、NFTアートで一攫千金狙ってる」
「ああ、それで手描きからデジタルに移行したのか。ママさんは既に名が売れてるから一攫千金も夢じゃないかもしれないよ。イラストレーターもAIによって駆逐されるんじゃないかって言われてるけど、活路がない訳じゃない。実際、小学生が描いた絵が何百万の値が付いた例もあるしね」
「小学生・・・・・・もう私には付いていけないわ」ふーみんの顔がのっぺりから虚無へと変わっていく。
「これだって高値が付いたことで話題になり、参加する人が増えて、投機マネーを呼び込み、更に高額で取引されていくという流れが出来てしまった」
「お金持ちっているんだねぇ」はなっちまで目がうつろになっている。闇落ちしなければいいけど、
「まあ、デジタル情報でも投機の対象になるって事だよ。ゲームだってそういう投機対象になってしまったんだ。知ってるかな?日本を代表する絵として海外でも人気のある浮世絵は、もともと庶民が楽しんでいたものだったんだ。誰でも買える値段で、飽きたら次の新作に買い換えるぐらいのね。それが世界的に注目され、売れると分かった途端コレクターが買いあさった事で庶民が気軽に買うものではなくなってしまった。今のレトロゲームはそんな浮世絵みたいな道を歩み始めているんだ。気付いた時にはもう遅いんだよ?一度海外に流出すれば、もう二度と欲しくても手にできないんだから」
アタシはもう一度、気を張って立ちあがりビシッとかいちょを指さした。
「残された希望はかいちょだけだ!」
「え?私ですか?」
彼女は自分に振られるとは思っていなかったらしく、ハトが豆鉄砲をくらった様に目を丸くした。




