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「それでですね、先輩。ある時、千鹿さんのお母さんが同人誌を売っている会場にアラブの石油王がやってきたそうなんです」
「プッ!」静かに聞いていたかいちょが吹き出した。
「いや、それネタでしょ?知ってるよ。そういうコスプレしてる人がいるって」
「確かにコスプレしている人はいますけど、そうじゃなく、やってきたのは千鹿さんのお父さんなんですよ」
「どゆこと?チカ丸のパパさんは王族専任の運転手でしょ?」
少し興奮気味で要点が掴めないヒメに変わってチカ丸が説明しはじめた。
「バーバのボスはオタク。アニメやゲーム好き。バーバは命令で日本にグッズを買いに来てた。それママ勘違いした」
「石油王キターーーーー‼ って?」
チカ丸がニヤリとする。
「アラブの男の人って、みんな白い布で体を覆っているイメージあるわよね」
「アレだと確かに石油王に見えるかも」
二人の言葉に彼女は首を振った。
「バーバ日本初めてだったから目立たない様に変装してた。スーツにサングラス」
「プッ!」かいちょがまた吹き出した。
「日本人のイメージってスーツにメガネって事?」ふーみんが呆れている。
「でもサングラスなんてかけてたら逆に目立つでしょ?」
「ママ、有名人が来たと思ったらしい。それで声かけた。英語、通じる」
「あぁ、意気投合しちゃったと、」
「ママ、どこから来たのか聞いた。バーバがドバイと言ったから勘違いした」
「プッ!・・・・・・ククッ」かいちょがお腹を抱え笑いを堪えている。
「お忍びで石油王が来てるって思っちゃった訳だ。アタシも少しドバイについて調べたけど、そもそも石油王なんていないらしいね。石油の収入は国が管理してるから個人が大儲けしてる訳じゃない。勝手なイメージが出来上がっただけなんだって」
チカ丸が頷く。
「ママ、知らなかった」
「でも千鹿ちゃん、それだとお父さんひどくない?石油王に思わせてたんでしょ?」
はなっちの言葉にまた首を振る。
「ママが悪い。ママ、グランバ呼んだ」
「ぐらんば、、、あぁ、おじいちゃんか」
「先輩。アラブの習慣は面白いんですよ」
ヒメが手帳をめくりつつ言う。
「えっとですね、男女が付き合うには両家の了解が必要なんです。まず、男性が女性側の父親と会って了解を得たら、次に女性が男性側の母親に会って了解を得ないとお付き合いが始まらないんだそうです」
「それって、結婚する時の顔合わせじゃなく?」ふーみんが驚いている。
「はい。お付き合いするかどうかにも両家の同意が必要なんです」
チカ丸が補足する。
「ドバイ、教えで女は男の前に姿を現さない。男女で別々に行動する。出会いがほとんどナイ。だから親が決めた相手と結婚するのが普通だった。今はだいぶ緩い。ママは昔の習慣を持ち出した」
「石油王と勘違いしてたから千載一遇のチャンスだと思ったわけだ」
チカ丸がコクリと頷く。
「でもママさん、よくそんな習慣知ってたね。もしかして中東にルーツがあるとか?」
「けーたい?使ってすぐにドバイの事調べたって言ってた」
「ああ、まだスマホの無い時代だね。少なくとも16年以上前の出来事だからユー○ューブやツ○ッターも始まったばかりじゃないかな?今なら石油王のコスプレしてる人がいればあっという間に拡散されて知れ渡るけど、携帯の頃だとそこまで情報は入ってこないし、勘違いだって気付かないのもしょうがなかったかもね」
「グランバ、ママを迎えに来た。そこでバーバを紹介されて驚いたけど、やっと彼氏ができたと喜んだ」
「おじいちゃんもまさかその日に出会った人を紹介されるとは思わないよね。第一関門はあっさりクリアできたわけだ」
「ママ、バーバに言った。次はグランマム紹介してと」
「そんな簡単に?お父さん、それでいいの?」
呆れるふーみんにチカ丸が首を振る。
「バーバ舞い上がったらしい。女に積極的に迫られる事ないから。だから帰りの飛行機、チケット2枚買った」
「クックックックッ、」かいちょが息を殺して苦しそうだ。
「千鹿さんのお母さんは習慣に従う事でみごと玉の輿に乗ることが出来たんですよ」
「でも結局は王様じゃなかったんじゃない」
「ママ、グランマムに会って初めて気付いた。Oh my goodness」
チカ丸はその時の様子を再現しているのか、両頬に手を当てムンクの叫びの様に口を大きく開けた。
「ざ、That’s hilarious! クックッ!」かいちょが笑いながら英語で返してる。
「玉の輿には違いないよ。社長並みにお給料はもらえてるみたいだし」
「ママ、ドバイの生活気に入った。外は暑いから出なくていい。特に女は外に出なくてもいい。だからずっと部屋でゲームしてる。家事もメイドがしてくれる」
「なッ⁉なんて、うらやましい・・・・・・」




