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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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「もう終わったの?」

ふーみんが拍子抜けした様子で聞く。

「終わったよ」

「アンタいつも茶化したり変なポーズとったりして話が長いのに、随分あっさりしたもんじゃない」

「可愛い後輩が恥かしさを堪えて意見を聞きに来たんだよ?茶化したりなんかしないよ。それに偉大なる先輩として威厳を示さないといけないからね。そのために昨日は深夜アニメをリアタイするのも我慢して小説読み切ったんだから」

どうだ。と胸を張り、腰に手も当てる。

「アンタのそういう所よ、まったく」

このやり取りを聞いていたかいちょがにこやかに言う。

「ふふっ、お茶を淹れましょうか」彼女は一体、今回の事をどう受け止めたんだろう?その笑顔が怖い。


お茶をすすり、落ち着いたところでふーみんが聞いてきた。

「ねえ、どんな小説書いてるの?」

「えっと、、、」ヒメの視線が助けを求めてこちらに向く。

「恥ずかしがってちゃダメだぞ?ヒメ。創作活動なんて己の性癖をさらけ出す作業なんだから」

「ハイ・・・・・・ジャンルは百合でしょうか?あ、そんな重いものじゃないんです。ゆるい感じなので、」

(え?アレ、百合だったの?日常モノかと思った)

ヒメが書いていたのは女子高生達のごくありふれた日常を描いたものだった。主人公は、いつも冗談を言って周りを茶化しているけど実は天才肌の娘。他に主人公の幼なじみや、いつも皆を優しく見守ってくれる品行方正な名家のご令嬢、そして何かにつけて主人公にちょっかいをかけてくる素直になれないツンデレ。この4人をメインにちょっと怖い先輩や主人公の事を慕う後輩、金髪美人の留学生まで登場する。キャラセレクトとしてはありふれた部類だと思ってアタシは読んでいた。

(あれぇ?よく考えたら、これって・・・・・・まあ、いいか。現実を元にインスピレーションは広げていくものなんだろうし・・・・・・それより、んーーー、ヒメ。百合に興味あるのか、)


オタク知識のないふーみんが聞く。

「ねえ、百合ってなに?」

「え?・・・・・・っと、」また助けを求めてヒメの視線が飛んできた。けどアタシが応えないと分かると、その視線ははなっちへ向いた。

(えっ⁉私?)みたいな顔して驚いた彼女は、かいちょの方を見た。

かいちょは目をぱちくりしている。実際に知らないのか?いや、物知りなかいちょだから知っていそうな気もする。都合の悪そうな時だけすぐに防衛線を張るなんてズルいぞ!

はなっちが諦めてチカ丸の方を見る。彼女は顔をプイっと横に向けてシカトした。その反応、日本のオタク文化を知っているな?

困ったはなっちの視線がこちらに向く。(しょうがないなぁ)

「百合は隠語だよ」


無言の譲り合いを見ていたふーみんが呆れて言った。

「ハイハイ。自分で調べろって事ね。どうせアニメかゲームの話でしょ」

スマホで検索をかける彼女。しばらくして、その表情は何を見てしまったのか恥じらいの表情へと変わる。

小声で「ばっかじゃないの」と聞こえた。

ふーみんよ、オタク界の深淵を覗いてしまったな。くっくっくっ、そこはまだほんの入り口だぞ?

アタシは言った。

「バカにするもんじゃないよ。百合は最近のアニメでも流行りだからね」

「今のアニメって・・・・・・そうなの?」

ふーみんは検索で一体何を見てしまったのだろう?性癖が歪んでしまわなければいいけど。

「流行りなのはライトな百合だよ。一見すると女の子達がわちゃわちゃしているだけなんだけど、オタク達はそこに尊さを見出し、妄想の中でお気に入りをカップリングさせ楽しんでいるのさ」

ふーみんの顔が訳わからないといった感じに、のっぺりする。


「原作やアニメなんかは場の提供だね。本当にがっつり百合を描いたものは2次創作の同人誌がメインだし、アニメにはそこまで望まれていないと思うよ。そこは住み分けている。まあ、どちらかと言えば多くのオタクはわちゃわちゃした様子をそっと覗いていたいだけだろうね。だから原作はシュチュエーションなどのネタを提供するだけでいい。踏み込み過ぎると逆に敬遠される」

「あ、分かります。原作にそこまで求めていないというか、確定事実を作らないでほしいというか、妄想の余地は残しておいてほしい感じ」ヒメが同意してくれた。

「そうそう。それが分かっている制作側とオタクとの間には無言の了解みたいなのができ上がるんだよ。エロも隠し味程度で、ほんの少し匂わせるくらいでいい。だから百合と言っても幅広いし見やすいものも多いよ。これは百合だけじゃなくBLにも通じるところがある」

「びーえる?」ふーみんがまた検索をかける。ナニを見たのか彼女はテーブルに突っ伏してしまった。


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