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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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どこかに隠しカメラが仕込まれているのかもしれない!アタシは思わず部屋の隅へと駆け寄った。壁を背にして思考を巡らす。

(部屋のカギを、、、いや、先に家のカギ?かーさんちゃんと閉めてくれた⁉そ、そうだ。もしもの時の為に武器を、ぶ、ぶき?金属バット?)

ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー、

またスマホが鳴った。今度はラ○ンじゃない。直接電話が掛かってきている。相手はもちろんヒメだ。

怖くて取れない。けど取らないと。向こうにはアタシの行動が筒抜けなのだから。


震える指で通話ボタンをタッチする。

「もし、もし、」

「あ、先輩。急に申し訳ありません」

電話越しの声は至って普通だった。アタシも平静を装って聞く。

「なに?」

「いえ、突然見えなくなったので何かあったんじゃないかと、」

(ひーーーーーーッ!やっぱり見られてた‼)

「どうかされました?先輩?あの、もしもし?」

恐怖で喉がキュッと締まり声も出せないアタシの事を、ヒメが不思議がっている。

アタシには彼女がどうして平然と喋っていられるのか、そっちの方が不思議だ。その落ち着いた喋りが、かえって異常さを煽って恐怖が増す。


やっとの思いで、喉から絞り出すように聞いた。

「ずっと、見てたの?」

「はい。見てましたよ。先輩、窓の側に立ってください」

ヒメはアタシの家の前にいるのだろうか?恐る恐る窓辺に立ち、下を見た。

いない。

「こっちですよー。ほら、せんぱーい」

恐怖するアタシとは対照的にヒメの明るい声がする。それはスマホ越しに聞こえるもので、辺りから聞こえてくるものではない。

「運動場の向こう側です。手を振ってるんですけど、見えませんかー」

(運動場の?)

アタシの家の前は高校の運動場だ。見通しは良いけど、その向こうと言われてもよく見えない。

「先輩、いつも夜遅くまでゲームしてるから目が悪くなっているんじゃないですか?カメラを起動してください」

(カメラ?)

通話したままカメラを起動する。

「そちらからだと、右手に体育館があるじゃないですか。で、左手に部室棟があるでしょ?そのちょうど間をズームしていってください」

言われるままカメラのズームをめいいっぱいにすると、家の窓から手を振る人物が確認できた。最大までズームしているので画質は粗く、それがヒメかどうかは判断が付かない。


「見えました?」

「うん。」

「・・・・・・あれ?先輩、なんだか怒ってます?」

「いや、べつに」

本当は怒ってる。けど、それよりも安堵する気持ちの方が上回っているのでそれ程腹ただしくはない。全てが腑に落ちた気がする。

(ヒメの家はお向かいさんだったのか。)

それならこちらの家から誰か出て行けば分かるだろうし、アタシが窓辺に立てば見える訳だ。牛乳は・・・・・・以前、彼女に喋ったことがあるのかもしれない。

(はぁーーーー、)

力が抜けた。


「ヒメ、」

「はい?」

「コレ、覗きだよ?」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

声にならない声がスマホの向こうで聞こえた。

ゴンッ!バンッ!と、もの凄い音も聞こえた。たぶんスマホを落としてしまったに違いない。

直ぐにスマホを拾い上げたのであろうヒメが慌てて否定する。

「ち、違うんです!これはっ!私の部屋から先輩の家がちょうど見えるから、いつも眺めていただけでっ!」

(いつも見られてたのか、)

「そんなッ、覗きとかそういうつもりは全く無いんです!信じてください!」

(カメラの使い方が随分慣れた様子だったけど、)

「せんぱいっ!ごめんなさいっ!本当に、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ッ!うぅう」

アタシが無言だったのがよっぽど怒っている様に感じたのかヒメの謝罪はすすり泣きに変わった。泣かれてしまうとこちらも気が引ける。

「ちょ、ちょっと待った!な、泣かなくてもいいじゃん」

「ごめんなさいっ!ごめんなさい!ごめんなさい!ゆるして、せんぱい」

「いや、怒ってないから!ちょっとびっくりしただけ!だから落ち着こう?ね?」

「本当に?」

「ほんと、ほんと!」

「・・・・・・はい。」


・・・・・・


何か話を繋がないと、またヒメが取り乱してしまう。アタシはそもそもの用事を訊ねた。

「さっきの、これから会えないかってメッセージなんの用だったの?」

「えっと、その、」

彼女は言うのをためらっている様だ。

「あした、説明しますっ!今日は本当に申し訳ありませんでした‼」

ヒメはそう言うと通話を切ってしまった。


「うーーーん、」

アタシはベットに倒れ込んだ。

(明日、なに言われるんだろう?)まだ少し怖い気がする。

それにしても、ヒメにずっと見られていたとは。アタシは彼女が向かいに住んでいることを知らなかった。それどころか、ほとんどヒメの事は何も知らない。図書委員で2年も一緒だったというのに。あの頃はいつもアタシが一方的に喋っていただけだ。それを彼女は楽しかったんだと言ってくれた。

(ちゃんと向き合ってあげないといけないなぁ・・・・・・はぁ、)

気が抜けたら急に眠気が襲ってきた。

(危うく惨劇に発展するところだったんだぞ?ヒメ。こっちは本当に怖かったんだからな。うちに金属バット無くてよかったよ。あーぁ・・・・・・)

外の運動場に生えている桜の木ではひぐらしが鳴き始めていた。単調なセミの鳴き声が更に眠気を誘う。

カナカナカナカナカナカナカナカナ・・・・・・

もうすぐ夏が終わる。


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