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「人食い族は置いておくとして、ミドルネームってなんだかいいなぁ。私も欲しいかも。付いてるとどこかの国の貴族みたいじゃない?」
「ふーみん、ミドルネームが欲しいならカンタンだよ。ブラジル人と結婚すればいいんだから」
「簡単に言うな」
ふーみんの視線がチカ丸に向いた。
「ねえ、チカはミドルネームとか付いて無いの?」
(コヤツ、もう名前呼びしやがった!しかも呼び捨て!パイセンには名前で呼んでたこと謝っていたのに)
気に障ったのかチカ丸は横を向いてしまった。
「シカトされた⁉」
彼女が顔を向き直して言う。
「ミドルネーム、よく分からない。日本とアラブでは名前の付け方だいぶ違う」
「関ケ原千鹿っていうのは?日本の名前そのものだけど、」
「関ケ原はママの方の名前。日本で使ってる。日本らしくてイイ」
「お母さんが日本人なのね」
(あれ?でも・・・・・・)
アタシは気になったので聞いてみた。
「チカ丸のお母さんも、もしかしてハーフじゃない?」
これまでクールな表情だったのが分かりやすく驚きの表情へと変わった。
「なんで分かる」
「だってチカ丸、金髪だから」
彼女があわててヒジャブをおさえた。
「見えてた?」
「見えてないですよ」かいちょが優しく応える。
彼女のヒジャブはおでこから耳まで隠す様に被っているので髪の毛はまったく見えていない。
ヒジャブが乱れていないか確認するチカ丸に変わってふーみんが話を進める。
「チカが金髪だからってお母さんがハーフとは限らないじゃない。お父さんの方が金髪かもしれないでしょ?」
「うーん。ねえ、ドバイの人って髪は何色?」
「・・・・・・黒」
「そっか。じゃあ、お父さんもどこかの国とのハーフでしょ」
彼女の顔がまた驚きの表情へと変わる。
「なんで分かる・・・・・・コワイ」
「一年生を怖がらせるんじゃないっ!」
ふーみんのチョップが飛んできた。
「あでっ!」
「月光ちゃん、なんでチカちゃんの髪が金髪だって分かるの?見えてないのに」
不思議がるはなっちへ説明する。
「まつ毛だよ。金色でしょ?」
皆が一斉にチカ丸の目に注目したものだから彼女は恥ずかしがったのか横を向いてしまった。けど、逆に横を向いた事でその長くクルンとカールしたまつ毛が良く見えた。
「わぁ!キレイ」はなっちの感嘆の言葉に今度は後ろを向くチカ丸。
「マスカラで塗ったりしてると分からないけどね。眉毛の方は描いてるんでしょ?」
彼女はフードを深々と被り直すと、こちらに向き直ってコクリと頷いた。その眉は黒色でくっきりと切れ長に整えられている。整った両眉の間には戸惑いを表しているのか少しシワが寄っていた。
(嫌がられたかな?)
空気を換える為、ちょっと茶化してみる。
「ちなみに、まつ毛の色はアソコの”おけけ”と同じ色なんだよ」
⁉
アタシが何を言っているのか理解したみんなは一斉に目を押さえて隠した。
「ばっ!バカじゃないのっ⁉ほんとっアンタ、バカじゃないの‼」ふーみんが目を押さえつつ喚きたてている。
「くくくっ、気にする事ないよ。日本人はほとんど黒色だから。アニメでもまつ毛に注目するとおもしろいよ。よく、『日本人なのになんで金髪なんだ』とかツッコまれるけど、まつ毛はちゃんと黒色だからね。髪は染めているという設定なんだよ」
一人だけ腕組みしてこちらを見ているパイセンと目が合った。
「ふふふっ、パイセンの色は・・・・・・」
彼女のまつ毛はよく見れば濃い茶色だ。
(あれ?パイセン、髪は黒いのに・・・・・・もしかして染めてるのかな?)
「フッ、なんだ海津。」
「いえっ!何でもありませんっ!」
大雑把に見えて案外こういう事を気にしているのかもしれない。かいちょも気を遣っている様子だったし。アタシはこれ以上突っ込まないことにした。
パイセンの視線が鋭いままなので、慌てて話を戻す。
「金髪っていうのは劣勢遺伝なんだよ。両親が黒髪と金髪だとその子供は必ず優性である黒髪になる。金髪が生まれるには両親の二人ともに金髪の遺伝子を持っていないといけないんだ」
「メンデルの法則ですね」かいちょがダブルピースサインで目だけ出して答えてくれた。隠せてないよソレ。
「チカ丸のお母さんがもし純粋な日本人だとすると日本人はほぼ黒髪の遺伝子だから生まれてくる子供は黒髪なんだよ。お父さんも黒髪みたいだし、チカ丸が金髪って事は両親共に金髪の遺伝子を引き継いでるハーフってことさ・・・・・・まあ、複雑な家庭環境っていう場合もあり得るけど」
クールな表情に戻ったチカ丸が説明してくれた。
「バーバが言ってた。私達の家系にはそういう血が流れているから、私みたいに金髪の子が生まれることもあるって。でもうちのバーバはエミラーティ」
「エミラーティって?」
彼女が少し考えてから応えた。
「アラブに生まれたアラブ育ちの人の事」
「生粋のドバイっ子て事だね」
「エミラーティは全人口の10%くらいしかいない」
「他は外国人ってこと?」
「ほぼインドから来た労働者か観光客。エミラーティを見ることはほとんどナイ」
「へぇ~、それだけ出稼ぎに来てるって事はドバイはやっぱりお金持ちなの?」
「王族はベリィベリィお金持ち。エミラーティもお金持ち」
「ウワサは本当だったのか、羨ましい」
チカ丸がにやりと口の端を上げて言った。
「うちのバーバは王族、」
「ホントにっ⁉」
一同、声を上げて一斉に驚く。
「ドバイの石油王?リアル石油王?」
彼女がフフッと笑う。
「王族・・・・・・の専任運転手」
「なんだぁ」
がっかりする一同に今度は少し怒ったように言い返す彼女。
「うちのバーバは日本の社長より沢山お金もらってる。タブン」
彼女の表情もだいぶほぐれてきた気がする。無表情だったのは慣れない生活で緊張していたからかもしれない。
「流石お金持ちの国。王族専任なら尚更か。でも大丈夫なの?おばあちゃんが運転手なんかして」
チカ丸は不思議そうに首を少し傾けた。それから小さくうなづく。
「バーバはお婆さんじゃない。英語のパパの事。アラビア語にPは無い。Bで言う。だからバーバ」
パパという時、少し言いにくそうにしながら説明してくれたチカ丸。
「パパなのにバーバとは・・・・・・ややこしいな。アラビア語って」
「日本語程じゃないだろ」と、パイセン。




