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安心したかいちょが伸びをした。
「んーーーーーっ!・・・・・・はぁ、」
つられてそれぞれ伸びをする。みんなスッキリした表情だ。
「ねぇ?ホラーがなんでずっと受け入れられていると思う?怖いものなんて本当は見たくもないでしょ?」
かいちょが苦笑いする。
ふーみんが応えた。
「怖いもの見たさ?」
「それもある」
アタシは壇上でカッコよくポーズをとり言った。
「カタルシス!」
「なによそれ?またアニメか何か?」
「声に出して言いたいカッコいい言葉」
また、何やってんだか。という表情でふーみんがこちらを見ている。少し笑顔も戻ったか。
「カタルシスというのは哲学の用語だよ。アリストテレスが提唱したんだ」
「哲学とホラーがどう関係してるのよ?」
「カタルシスはギリシャ語で浄化という意味で、哲学では普段は行えない事を劇中で主人公が代わりにやってくれることで心が浄化される状態を言うんだ。例えばゾンビを銃で撃ったり、」
アタシは肩に背負っていたレミ〇トンM870を取り出した。とても頑丈で信頼性が高く、軍や警察、狩猟にまで幅広く普及しているショットガンだ。アタシが好きなバ○オハ○ードにも登場する。
右足を引き体は半開きにして踏ん張り、銃はしっかり肩に銃床を当て構える(もちろんフリだけど)狙うははなっちだ!
「バンッ!」と、口で言う。
「ぐはっ!」と、のけ反る彼女。「うっ、うううぁぁぁあー」弾を喰らったというのに体がむくりと起き上がる。一撃で仕留めそこなったか!ショットガンを使ったというのに弾がもったいない!
カシャン!と先台をスライドさせる。ポン!と空の薬きょうが飛び出す。同時に次弾が装填され、アタシは間髪入れず引き金を引いた。
「バンッ!」
「う、ぅぅぅー」はなっちは机に突っ伏した。
さすがアタシにつき合わされているだけの事はある。ノリがいいし、一撃でやられないところがちゃんと分かってる。嬉しくなっちゃうね。
ふー、と額を拭いてみせたら、かいちょが目を見開き口に手を当て驚いていた。アンタのそれはノリじゃないよね?本気で驚いてるの⁉ただのごっこですよ。分かってます?
「銃を撃ったり、モンスターを倒したり。主人公が代わりに演じてくれているのは普段の生活では味わえないものでしょ?それを見終わった後、緊張や恐怖から解放される訳ですよ。その時の心の状態がカタルシス。心の浄化。映画館で映画を見終わった後、照明が付くとスッキリした気分になるじゃん?アレだよ」
「今の私達の状況という事ですね。実は私、ところどころ月光さんのお話を聞いていたんです」
「おや、苦手なのに?」
「はい。怖いもの見たさで。フフ、お話が終わって今はとても清々しいというか、これがカタルシスなんですね」
「ホラーというのは非日常が鮮明に描かれているから、より日常に戻った時の解放感が得られやすいんだ。ギャップが強ければ強いほど解放感も強くなるってね。この解放感を無意識に求めてまたホラーを見る。また解放感を得られる。そうやって受け入れられているんだろうとアタシは考えてるよ」
「私もやっとアンタの長い話、聞き終わって清々してるわ」
「長くて悪うございました。別にホラーじゃなくてもいいんだけどね。もっとアニメの楽しい話をしてあげればよかったかな?恋愛ものでも、コメディでも何でもいいんだ。要は非日常から日常へと戻った時の解放感の事を指しているんだから」
「月光ちゃんがアニメの話をしだしたらもっと長くなるよ」
フフフ、と笑う3人。みんな解放感で笑顔も戻った事だし、アタシは最後の締めに言った。
「不満が満ちたこの世界に必要なのはこうしたエンタテイメント作品じゃないのかな?小説や漫画、映画にアニメ、ゲーム、非日常を提供してくれるオタク文化が世界を救うのだよ!」
フフッと笑ってふーみんが立ちあがった。
「じゃあね!楽しかったわ」
そう言って教室を出て行く。
遠ざかる彼女を見てアタシは思った。同じクラスメイトだけれど、これからは挨拶をかわす程度の間柄に戻るんだろうと。時々話しかけられても二言三言、言葉を交わすだけ。人気者の彼女とオタクのアタシとでは住む世界が違う・・・・・・
(アタシも楽しかったよ)
次の日の放課後。
「おっそーーーい!」部室の前に居たふーみんに怒られた。
「なんでいるの?」
「何でって、ゾンビの証明は前置きだって言ってたじゃない。街にゾンビが溢れた時の対処法はこれから話し合うんでしょ?」
「んーーー?まあ・・・・・・」そんな本気でゾンビの研究するつもりは無かったんだけど・・・・・・ただのごっこだし。
「そっ、それに」
ふーみんがまた髪をクルクルといじりながら、目を合わさず横を向いた。キツネの様に澄ましている。
「来たければ来ていいって言ったの・・・・・・アンタでしょ」
(がはっ‼)ちょっと!この空間でイベントスチル発生してません⁉
「しょ、しょーがないなー。じゃあ、今日も、部活、始め、ようか、」
こうしてアタシ達のゆるい部活動は続くのであった。