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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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部室に向かう途中、あおたんがいつものやり取りをしていた。

「青ちゃんさようならー」

「先生と呼んでください。さようなら」

「青ちゃんせんせー、さようならー」

「先生だけでいいですよ」

「青ちゃんまたねー」

「はい。新学期は先生と呼んでくださいね」

やりとりを眺めていたら、集団の中に居たふーみんとまた目が合った。

(今日はよく目が合うなぁ)

そのまま通り過ぎようとしたら、モブの方がちょっかいをかけてきた。

「あ、クロネコ」

アタシはすぐさま切り返した。

「誰がヤマトだ!」

「フフ、クロちゃん本当は面白い子だよねー」

頭を撫でようとする手を払い、威嚇する。

「シャー!」

「アハハハハハッ!」

よし!笑いは取ったからこれくらいでいいだろう。アタシはトコトコ駆け足でその場から逃げた。


我が聖域(部室)に避難し、はなっちといつもの様にたわいのない話をしていると遅れてふーみんもやってきた。手にはお菓子が入っていると思われる袋を下げている。しかもいつにも増して量が多い。

「お菓子買ってきたの?」

「食べるでしょ?」

「いや、もうお昼だし今日は帰ってご飯食べようと思ってるから」

「そ、そう・・・・・・花は?」

「うん。食べたいんだけど、私も今日は帰ったらお父さんが新しい物件見に行くぞって言ってて、外でお昼食べる予定が入ってるんだよぉ」

「そう、なんだ・・・・・・」

(なんだか様子がおかしいな。アノ日かな?)そんな事言ったら叩かれそうだから言わないけど。余計な事はしないで、おとなしく帰った方が良さそうだ。

「かいちょも今日は生徒会があって忙しいみたいだし、ふーみん一人でお菓子食べててもいいよ?」ちょっと茶化してみたつもりだったのに、いつもの様なツンツンとした返事は帰ってこなかった。代わりに聞こえてきたのは震えるふーみんの声だった。


「私だけ張り切って、バカみたい、」

堰を切った様に彼女の目から涙が流れ落ちる。

⁉ ⁉

アタシとはなっちはお互い顔を見合わせた。

小声で確認する。

「アタシなんかした⁉」

ブンブンブンと首をふるはなっち。


すぐさま立ち尽くすふーみんに駆け寄る。

「ど、どうしたの?ふーみん」

「風香ちゃん、どこか調子悪いの?」

彼女は話してくれず、首を振るのみだ。

どうしていいか分からず、イスに座るよう促すと一応席についてはくれた。しかし、下を向いていて何を考えているのか分からない。

(どうするの!コレ!)

(わかんないよ!)

言葉を発せずとも、はなっちとなら意思疎通できる。


オロオロするうちにふーみんがポツリと言った。

「部活、楽しみにしてたのに」

⁉ ⁉

アタシとはなっちはまたお互い顔を見合わせた。

「そ、そうかー、ふーみんは部活がしたかったのかー」

「そうだよ!月光ちゃん!部活しなきゃ」

部活と言ってもいつもお喋りしているだけなのに。しかもこんな状況でどうしろと?

「そうだ!お茶飲む?」

「いらない。」

端的な言葉が返ってきた。

「だよねー。アハ、かいちょが淹れないと美味しくないもんねー」

「暑いから」

また一言だけ返ってきた。やりにくいぞふーみん!いつもの様にズバズバ返してくれよ!

「はなっち!暑いんだよ!何か無いの?」

「え?私⁉あ!アイスクリームは?」

「アイスは?アイスなら食べる?」

ふーみんはコクリと頷いた。


「私、買って来るよ!一番おっきいヤツ」

すぐさま部室を飛び出したはなっち。

(しまったーーーー!)

気まずい空気の中、取り残されてしまった!

一人で喋り続ける事も苦にならないアタシだが、流石に空気がこれだけ重いと言葉なんて出てくるわけないじゃないか。そもそもアニメやゲームの話ならいくらでもできるけど、泣いている女の子を慰めるスキルなんてアタシは持ち合わせていない。

(そうだ!)

こういう時、乙女ゲーの美男子達はどんな言葉をかけていただろう?参考にならないかと思い出してみる。


正統派王子様系男子。

『何をそんなに泣いているんだい?いや、いいんだ言わなくても。キミが気の済むまでボクの胸をかしてあげるよ。ホラ、いつもの様に笑って。ボクは君の笑っている顔が一番好きなんだ。』

オレ様系男子。

『ナニ泣いてんだよ。ったく、メンどくせーな。お前がそんなだとこっちも調子が狂うだろうがよ。あーーーッ!オイ、飯食いに行くぞ。今日はオレのおごりだ』

小悪魔系男子。

「んー・・・・・・(じっと見つめて来る)見ないでって?フフッ、泣いている顔もカワイイと思って、」

(ダメだーーーぁ!全然参考にならねーーーぇ‼)

願望で塗り固めたセリフなんて現実世界では何の役にも立たない!


(はなっち!早く帰って来て!)

アタシは耐えられなくなり、はなっちの意識とシンクロさせた。

見えたのは靴に履き替えたばかりの足。(まだそこ⁉)

エントランスでは生徒達がお喋りしながら、たむろしていた。こんなに暑いんだから早く帰えればいいのに、数日ぶりに会う友達との会話に忙しいらしく賑わっている。

急ぎたいはなっちが早足で進む。だけど、下校中の生徒に阻まれて上手く進めない。

コンビニまでわずか数100mの距離だけど、これでは時間がかかりそうだ。しかも彼女が向かおうとしているセ○ンはお昼時となればうちの生徒でごった返すことで有名なお店。更に時間はロスするに違いない。

(ダメだーーーぁ‼)

アタシはシンクロを切った。


(なんでこんな時にかいちょは居てくれないのさ!)

人を扱うのに長けたかいちょならば、あっという間にとりなしてくれそうなのに。

その時、

「遅れてすいません。」

入り口から天使の声が聞こえた。

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