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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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放課後。

いつもの様に理科室へ・・・・・・じゃなかった、部室へ向かって歩いていると既にふーみんが入り口の前で待っているのが見えた。ソワソワと廊下を行ったり来たりしている。

彼女がこちらに気付き満面の笑みに・・・・・・かと思えば突然怒りだした。

「おそいっ!そっちから誘っておいて、今日は来ないかと思ったじゃない」

本日もツンデレ全開だな。この娘の性格が掴めてきた気がする。


高校2年生ともなれば、誰が誰と仲がいいとか大体グループ分けが固まっているものだ。アタシと、はなっちと、かいちょの3人は大概いつも一緒に行動している。クラスの中での位置づけはおとなしい小グループの1つといったところか。

対してふーみんはどのグループにも顔を突っ込んでいくタイプ。オタクのアタシには到底マネできないよ。人当たりも良く(アタシにはなぜか刺々しいけど)クラスの中でもその人気は高い。だからアタシにちょっかいかけてくるのも、ちょっとした挨拶程度で気にも止めてないんだと思ってた。


「ごめん、ごめん。かいちょが生徒会室に寄っていくって言うもんだからさぁ」

「すいません。風香さん。お待たせしてしまって」

「ホントよ!今日こそは最後まで話聞いてあげようと思って早く来てたのに。私だって放課後は色々あるんだからねっ」

(本当かなぁ?昨日も同じ様な事言ってたけど、どうせ暇してるんじゃないの?)そんな事は思っていても口には出さない。

「すいません。副会長に捕まっていたもので。なかなか開放してくれず」

「生徒会があるなら言ってよぉ」

「申し訳ありません」

かいちょが平謝りしているうちにアタシはポケットから素早く部室のカギを取り出し、ふーみんには見えないよう体で隠して開錠した。続けて「ゾン研」と書いた手描きの紙を「ていっ!」とジャンプいちばん、理科室の名札へ上から張り付ける。

最後に張り紙に向かって人差し指を差し、片足を上げて言った。

「ヨシ!」

「さあ、今日こそは最後まで話してもらうわよ」

ふーみんが先陣を切って入っていく。かいちょはいいとして、はなっちまでスタスタと中に入ってしまった。

誰もアタシがボケてるのに拾ってくれない。現〇猫、知らないのかな?別にいいけど。カギの事は不審に思われなかったみたいだから。


「さて、」と一言置いて今日も議題を書いた。

『第3回 ゾンビが街に溢れた時の対処法について』

一同を見渡し、ふーみんに狙いを定めて聞く。

「一般人へ広く浸透し、1つのジャンルとして確立したゾンビ。次にゾンビに求められるモノは何だと思う?」

「求められるモノ?」

分からないといった表情のふーみんへ向かって自信たっぷりに答える。

「リアリティさ」

「それ、また映画の話?アンタ脱線しすぎよ」

流石に彼女も3回目ともなればアタシの事が掴めてきたか。オタクというのは話が細かく、そして長いものなのだよ。覚悟して聞きたまえ。

「まあ、まあ」となだめ、続ける。

「初期のゾンビ映画というのはビックリするほど低予算で作られていたんだよ。メイクなんかで言えば顔を灰色に塗って血糊さえつけておけばいいんだし、衣装もボロボロで良かったんだから。しかし!一度注目が集まると次回作ではそうはいかない。お客さんはより質の高いものを求めてくる」

はなっちが「ああ」と思い当たる様に言った。

「月光ちゃんとこの前見たゾンビドラマ、本当にリアルで怖かったもんねー」

「肉がただれている所なんか特にねー」

コレを聞いて、かいちょが顔を引きつらせた。彼女はどんな想像をしているんだろう?頭の中のお花畑で小鳥が飛び回っている様なピュアなかいちょの事だから、あまりたいした事なさそうだけど。


「あのドラマも、もう10年以上続く人気作だからね。あの手この手で飽きさせない様、涙ぐましい努力がされているよ。こうしてよりお客さんが熱狂するようなものが作られ、人気が出る。人気が出ればそれにあやかってゾンビを題材にした創作物がまるで木の枝が分かれるように発生していく事になったのさ。アタシがこの前見たアニメで言うと「ゾンビ〇ンド・○ガ」なんてゾンビになった女子高生がアイドル目指したりしているからね」

「なんでもありね。益々ゾンビなんてただの空想の産物じゃない」

「ふむ。空想の産物か・・・・・・ふーみんはこんな言葉を知ってるかな?『事実は小説より奇なり』」

「イギリスの詩人、バイロン卿ですね」

即座に応えたのはかいちょだった。

「彼の代表作『ドン・ジュアン』の一節から取られたものだったはず」

「流石、かいちょ」

不満そうにふーみんが言う。

「で?」

「小説に映画、ドラマやアニメ。それらあまたの創作物によってゾンビにはありとあらゆる可能性が与えられていった。その可能性というのは勿論、人が考え出した創作だけど人の思考というものは現実からの投影であるから、バイロン卿が言っているように小説より現実の方が凌駕する事が起きるのさ」

「何が言いたいのよ」

「リアリティ。それを追求していく過程でゾンビには更にある特徴が備わった」


アタシははなっちに聞いた。

「はなっちはゾンビに噛まれた人がなんでゾンビになるんだと思う?」

「え?噛まれたら、傷口からウイルスが入って感染するからじゃないの?」

「そう!思い出してみて、噛まれてゾンビ化するのは元々ヴァンパイアの特徴から取ったものだったんだよ?」

「だから、それも創作でしょ?」と、ふ-みん。

「重要なのはウイルスという要素が新たに加わった事。例えばヴァンパイアに噛まれるなんてそれこそ創作物の中の話に感じるけど、ゾンビのウイルスによって感染すると聞くと現実にありえそうじゃない?今や未知のウイルスによって瞬く間に世界中でゾンビが溢れ出すなんて話はお約束みたいなものになってる。それはリアルな共通認識として受け入れられたって事さ」

「だとしても、それもリアルってだけで作りものでしょ」

「創作が現実になろうとしてるんだよ。事実は小説より奇なり!」


ぐ~ぅ・・・・・・

誰か、お腹が鳴っていますよ?誰だったかは直ぐに分かったけど。はなっちが「えへへ」と照れ笑いしている。

「お腹が空いちゃって」

カバンからお菓子を取り出し食べ始めるはなっち。

「みんなも食べる?」

ポリポリと仲良く分け合って摘まみ始めた3人。

ゾンビが溢れてしまった世界では食料の共有は重要になってくる。それを体現してみせたというのか、はなっちよ。そんなワケないか。


アタシは「オホン」と咳払いした。

かいちょが気を遣い、今までの話を簡単にまとめてくれた。

「まだ確認はされていないけど、未知のウイルスによってゾンビが誕生する可能性はある。と言いたいのでしょうか?」

「まあ、ね」

「月光さん。それは話が飛躍し過ぎなのでは?」

「突拍子もない事を喋っているつもりなんて無いよ。ウイルスの脅威を改めて人類は体験したじゃないか。コロナウイルスのパンデミックによってね」

「確かにコロナウイルスは世界規模で流行したわ。だとしたってウイルスはウイルスよ。それにかかった人がゾンビになるなんて馬鹿げてる」

チッチッチッと指を振ってみせる。

「私が考えるゾンビは、更に進んでいるのさ」

「どういう事よ?」

「つまり、」


キーン、コーン、カーン、コーン・・・・・・


「もーーーっ‼またぁ⁉」

「あーあ、今日も全部話せなかったかぁ」

「アンタの話、細かいし、長いし、途中で変なポーズしたり、なんなのよっ!全然終わらないじゃない!面白いけどねっ」

けなしてるのソレ? でも、楽しんでくれてたんだ。ありがとう。

ふーみんがスッと立ちあがり、さっさと歩いていく。

「また明日も来てあげるから。じゃあねっ!」

今日は誘ってもいないのにすんなり帰ってしまった。本当に放課後は用事があるのかな?

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