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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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アタシは教壇の上を講師になったつもりでゆっくり歩いた。次いで、もったいつける様にメガネを中指でクイッと押し上げてみせる(いや、メガネは掛けていないからエアーメガネだけど)

そして言った。

「そもそもゾンビとは何なのか?」

ビシッとエアー指示棒をふーみんに向けて指す。

「は?ゾンビって言ったら・・・・・・動く死体の事でしょ?」

「そう。元を正すとアフリカで言い伝えられてきたものらしい。埋葬された死体を掘り起こし呪術的な儀式で死体を操り、使役してたってね」

アタシは胸の前に右手を出し、その中指を人差し指に絡めるようにしてポーズをとってみた。

「へー、呪術って魔法みたいなもんでしょ?ファンタジーの世界じゃない」

うん。誰もこのポーズに突っ込んでくれない。別にいいけどね。分かんないなら。ぐすん。

「・・・・・・ここで言うゾンビはファンタジー世界に出てくるモンスターのような存在とは、ちょっち違うんだなぁ」

チッ、チッ、チッ、とワザとらしく人差し指を振ってみせる。

「どういう事よ?」

「ゾンビは労働力だったのだよ」

「労働力?」

「そう。タダで農園で働かせる為のね。死者だから自分の意思なんて持っていなくて、ずっと働き続ける便利な人材。だから人が死ぬとその家族はゾンビにされない様にお墓の前で見張り続けたり、死体が動き出さないよう首を切り落としたりして守っていたらしいよ」

「そんなの化学も発達していなかった頃の昔話でしょ?迷信よ、迷信」

「アタシも呪術を使うなんて怪しいとは思ってるよ」

もう一度、胸の前で同じポーズをとってみる・・・・・・反応なし。誰も呪術〇戦、見てないの?

ちょっと悲しかったので背中を向けて数歩歩く。

「だったらゾンビなんてホラー映画に出てくる創作じゃない」

「ふむ。」

一区切りつける様に、アタシは威厳たっぷりうなづいてみせた。


「ではその創作物、ゾンビ映画について話してあげよう」

エアー指示棒をピシピシと手の平に当てるフリをしながら、かいちょの前に立つ。すると彼女は眉を少し上げ、顔を引きつらせた。

(おや?かいちょはホラーとか苦手なのかな)

指名しては可哀そうなので移動し、代わりにはなっちの前に立つ。

「ゾンビ映画と言えば?ハイ!はなっち」

「え?・・・・・・っと、ウォー〇ング・○ッド?」

「惜しいっ。それはこの前、一緒に見たドラマ」

はなっちが「えへへ」と照れ笑いする。可愛いなぁ、もう!

改めて「コホン」とワザとらしく咳払いして話し始めた。

「映画において初めてゾンビが登場したのは1932年公開の『ホ○イト・ゾンビ』だと言われているよ。ただし、この映画に登場するゾンビは人を襲わない。だから噛まれてゾンビ化する事もない。操られて働かされる労働力としての存在なんだ」

「人を襲わないし、噛まれてゾンビ化もしないなんて、それゾンビって呼べるの?」

「そう!この頃のゾンビは純粋に”動くだけの死体”なんだよ。アフリカで言い伝えられてきたそのままのね。今アタシ達がゾンビとして広く認識しているのは1968年公開の『ナ〇ト・オブ・ザ・リビン〇デッド』からなんだ」


更にはなっちへ質問する。

「ゾンビの特徴と言えば?」

「えっと、さっき言ってた人を襲ったり、噛まれたらゾンビになったり?」

「うむ。その特徴、他のあるモンスターと似てない?」

はなっちとふーみんは首をかしげる。

これだけでは流石に分からないかと、アタシはマントをひるがえすように両腕を大きく広げて言った。

「お前の生き血を吸って我が眷族にしてやろうか!」

クワっとかいちょに視線を向けると彼女は「ひっ」と短く声を上げた。ダメだー。これくらいで怖がるなんて!幼稚園児並みのピュアさじゃないか。

はなっちが閃いたように声を上げる。

「ああ!ドラキュラだぁ」

「はなっち、またまた惜しい!ドラキュラは吸血鬼全体の中の一人物。正確には吸血鬼かヴァンパイアと言って欲しかったな」

「えへへ」


「どっちでもいいわよ、そんなの」

ふーみんからは冷めた反応が返って来る。気にならないのかな?こういうのは正確に言って欲しいんだけどなぁ。

「で?そのヴァンパイアがなに?」

「さっき紹介した『ナ〇ト・オブ・ザ・リビン〇デッド』ではゾンビに吸血鬼の特徴を加えたんだよ。ヴァンパイアが若い娘を襲ってその生き血を吸うと、吸われた相手もヴァンパイアになってしまうという特徴をね。この設定がオカルトマニアに大うけ!モブキャラだったゾンビは一躍ホラー界のメインキャラへ。この映画により今日のゾンビ像が固まったと言っても過言ではないのだよ」


見るとかいちょが遠慮がちに小さく手を挙げていた。さっきは脅かしてしまったので、アタシは生まれたばかりのヒナへ微笑むように優しく語りかけた。

「はい。ことりさん」

「確かドラキュラというのはルーマニアのトランシルヴァニア地方を舞台にした小説だったはず。実際にモデルとなった人物もいるそうですが、生き血をすするなどは全て小説の中だけのフィクションでは?」

「はい。正解です」

また優しく微笑んであげると、かいちょは少し笑顔を見せてくれた。

今度はふーみんが鋭く切り込んでくる

「だったらヴァンパイアもゾンビもどちらも創作じゃない」

「そう!ゾンビとは創作に創作をブレンドしたエンターテイメント作品なのだよ!」

「ちょっと待って。アンタはゾンビがいるって証明したかったんじゃないの?」

ふーみんが訳わからないといった表情をする。

「フッフッフッ、まだ話はこれからだよ風香君」


キーン、コーン、カーン、コーン・・・・・・


おっと、下校のチャイムが鳴っている。

アタシはエアー教科書を教卓の上でトントンと揃えて言った。

「本日の講義はここまで。各自、今日話した内容をまとめておくように。テストに出すぞー」

「ちょっと!」

ふーみんが何か言いたげにすがる。

「まあ、まあ、気になるならこの続きはまた部活で教えてあげるよ」


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