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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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ふーみんが今度は、はなっちへ話を振った。

「花はゴールデンウイークどこかに出かけたりしたの?」

お菓子を頬張ってニコニコしていたはなっちの顔が、みるみる暗くよどんでいく。

(あーあ、闇落ちしちゃった。急に来るからなぁ。知らないよアタシは。ちゃんと話、聞いてあげなよ)

「うち、風香ちゃんのとこみたいに休みの日でも家族が揃う事ないし、小鳥ちゃんのとこみたいに家族旅行なんてもう行けない・・・・・・」

「えぇぇ・・・・・・」気まずそうな表情で助けを求めてこちらを見てくるふーみん。アタシは彼女がいつもしている様に、横を向き髪をいじった。だれかれ構わず首を突っ込んでいくからこういう事になるのだよ。責任は自分でとりたまえ。


いつもの能天気な表情は雲に覆われ、まるで土砂降りに降られた子犬の様に、力なくぼそりとはなっちが言う。

「うち、借金が1億もあって、」

「はあ ⁉いっ」いいかけて流石にマズいと思ったのかふーみんは言葉を飲み込んだ。のけ反ってしまった体を椅子に腰掛け直し、姿勢を正す。どうやらちゃんと話を聞いてあげるつもりらしい。えらいねぇ。

ぼそぼそと、はなっちは語りだした。

「借金がこんなにもあるって知ったのは1年前。高校の合格発表があった日で、受かったお祝いに家族3人で回転寿司に出かけた時の事だったよ。お父さんが『花も高校生になる事だし、もう大人だ』って言って、珍しく改まった雰囲気だったから嫌な予感はしてたんだよね。そしたら借金があるって言われて、」

「うわぁ、」ふーみんが何とも言えない表情をしている。本当に何も言えないのだろう。大人と言われたって高校生のアタシ達にはどうにもできない金額だ。

「いくらだと思う?1億だよ ⁉ 私、食べかけのイクラの軍艦巻きショックで食べられなかったよ。思わず、いくら?って聞き返したよ。いくらなだけに。イクラの軍艦何個食べられるのって話だよ!」

出た。はなっちの鉄板ネタ。横目でかいちょの方を見たら口を押えて必死に声を出さない様に堪えてた。


「花の家はそんなに大変だったのね。」

慰めなのかふーみんはお菓子の袋を封切り、はなっちの前に差し出した。ボリボリと食べるその音だけが部室に響く。

手がお菓子に伸びるその隙を突いてふーみんの視線がこちらに飛んでくる。その気を遣った愛想笑いには少し同情した。(しょうがないなぁ。)

「去年の今ごろは本当に大変だったよね。はなっちご飯もろくに食べられず、みるみる痩せていって。確か5キロくらい痩せたんだっけ?」

コクリと頷く。

本当に大変だった。まるで捨てられた子犬の様にやせ細って目はうつろで。そのまま気が触れておかしくなるんじゃないかと本気で心配したよ

「もっと食べて、」

ふーみんがお菓子の袋を次々に封切り始めた。


「あの頃は借金の事で頭がいっぱいで、夜はほとんど眠れなくて。余計なこと考えない様に深夜アニメ見てたから、月光ちゃんの話に少しは付いていけるようになったよ。ふふっ」

力のない笑いだった。

「でも、花がそんなに心配してもしょうがないじゃない。まだ働いてもいないんだから、お父さんが返しているんでしょ?」

「返済はしてると思う。けど、今住んでる家が借金の形に入ってて、もし返済できなくなったら私、住むところ無くなる」

「えぇぇ・・・・・・」ふーみんよ。踏み込んではいけない所に踏み込んでしまったな。既に底なし沼にハマっていて逃げる事も出来まい。

「お父さんは何の仕事してるの?」

「サラリーマン」

「なんで・・・・・・」なんでサラリーマンが1億もの借金こさえてしまうんだろうねぇ。


ボリボリ・・・・・・ボリボリ・・・・・・ボリボリ・・・・・・


暗い。暗いよ、はなっち!ゴールデンウイークが明けて、土産話を楽しくおしゃべりしようとしていたのが台無しじゃないか。

ふーみんをこれ以上困らせるのも可哀そうだし、アタシは説明してあげることにした。

「はなっちのパパさんはファイヤーしたのさ」

「はあ ⁉ 家、燃えちゃったの?」

「ちがう、違う。『FIRE』Financial Independence, Retire Earlyの頭文字を取ってファイヤー。会社に頼らず経済的自立をして早期退職を目指すって、今流行っているらしいよ」

「よく分からないんだけど、」

「アタシもはなっちの話だけではよく分からなかったから詳しく調べたよ。要は投資らしい」

「花のお父さん投資に失敗して・・・・・・」

「うんにゃ。まだ失敗かどうかは分からない。FIREというと主に不動産投資を指すみたいで、家を買って、それを人に貸して、家賃を貰って、儲ける。という投資方法なんだけど、1軒貸すくらいじゃ家賃なんてたかが知れてる。そこで、貸している家を担保に銀行から融資してもらって更に家を買い増すんだ。規模が大きくなれば家賃収入も増えて、借金を毎月返済する額より多くなる。そこまで持っていければ後は返済しつつ利益も出るって投資なんだよ。最近、企業も副業を認める所が増えたでしょ?はなっちのパパさんも働きながら不動産投資をしているんだよ」


「もう!ファイヤーってナニ?うちの家計がファイヤーだよっ!火の車だよ!投資だろうが借金が1億もあるのは変わらないよ!何年かかるの?ねえ?返済に何年かかるの?」

荒れておりますなぁ、はなっちよ。

「まあ、何年かかるのかは規模にもよるんじゃない?貸せれる家をどれだけ持っているかだと思うけど、」

「あぁぁぁ、お父さんこの前また家買ったって言ってたよぉぉぉ」

ふーみんも少し理解したらしい。今度はちゃんと質問した。

「ちなみに今、家は何軒あるの?」

「6軒」

「6軒も ⁉」

「驚くでしょ?普通。家なんて一生に一度の買ものじゃないの?なのにお父さん、今度はアパートを1棟丸々買おうかなんて言い出して!うち何人家族だと思ってるのっ?一人一部屋でも余るよ!」

「プッ!クククッ」

ついに我慢しきれなくなって、かいちょが吹き出した。

「会長は知ってたの?」

「はい。何度か聞いています。人に話すことで気が楽になる事もありますからね。プッ!すいません。ふふ、でも何回も聞いているうちにおかしくなってきて。フフッ」

「笑い事じゃないよ!小鳥ちゃん!」

「スイマセン。フフ」

「笑い事に出来るくらいにまで、落ち着いて良かったよ。アタシは本当に心配したんだからね」

「うん・・・・・・」


「借金といっても生活に困窮して作ったものじゃないんだから。上手くいけば儲かるかもしれないよ?自己責任だけど。」

「あぁぁぁぁ、最初はお母さんも心配してたんだよぉ。なのに今じゃ二人して休みの日は買った家のリフォームしに行ってるんだよぉ。日曜の朝なんて私一人取り残されるから、最近は月光ちゃんと一緒にニチアサアニメ見るのが習慣になっちゃったよぉぉぉぉ」

「はなっちのパパさん自動車部品を作る会社のエンジニアなんだ。昔は硬いイメージだったのに最近は生き生きしてるよね。この前、徹ゲー明けにたまたま見かけたよ。まだ薄暗いうちから荷物いっぱい車に詰め込んでママさんと出かけていくの。まるでキャンプに行くみたいだった」

「安く家を買えたって喜んでるんだよ。私もどんなのか見に行ったら、ボロッボロだったよ?平成飛び越してザ・昭和の家だった。それをお金をかけたくないからって自分たちで直してるんだよ。本当の日曜大工じゃん!ていうか、もう業者じゃん!」

「プッ!クククッ」

かいちょに笑われて、はなっちがお菓子をむさぼりはじめた。


「花代さん。前にも言いましたけど、もしご両親が返済できなくなった時は子供であるあなたが責任を負う必要はありませんから。まだ先だとは思いますが、財産の相続が発生した場合も負債の方が多いのなら相続放棄する選択もありますからね?両親は両親と割り切ってください。花代さんの人生は花代さんのものです」

「私、もう我慢するのやめたんだ。悩んでもしょうがないし、自分の欲望に正直に生きようと思う」

バリボリとお菓子をむさぼり続けるはなっち。

「少しは抑えた方がいいと思うけど?もう体重、元に戻ってるでしょ」

「うっ」お菓子を摘まむ手が止まった。

「さては、増えてるな?」

「前より、2キロくらい・・・・・・」

「ダメよ!それ以上食べちゃ!」ふーみんがお菓子を取り上げた。さっきはドンドン食べさせていたのに容赦ないね。

「あぁーーーぁ、私のストレス発散がぁぁぁ」

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