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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
18/135

18

ファイル8「強制」


告知


これまでの志願による市民の任務参加を改め、18歳以上の男性市民全員を一律に徴兵する事とする。

任務は安全圏の確保。3人一組を班とし、三班に指揮官1名を加えた10名を1小隊として活動してもらう。

なお、これは強制である。不服があるものは本部より立ち去る事を許可する。


以上。


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18


かいちょの話は一般市民のアタシ達には付いていけなかったので、軽い話題を求めてふーみんに話を振ってみた。

「ふーみんはどこかに出かけたりしたの?」

「私?わたしは、ずっと家の手伝いしてたわ」

「いや、いや、いや、いや、いや、」疑りの目を向ける私に対して

「いや、いや、いや、いや、いや、」と同じ言葉で返された。

「今のは確実にイメージアップを狙ってたでしょ」

「ホントだって!うち、おじいちゃんが田んぼを作ってるから、この時期は田植えに忙しいの。ゴールデンウイークといえば家族総出で田植えって決まってて、小さい頃から遊びに出かけたりしたことないのよ」

「そうなの?」

「そうよ!アンタが期待するような女子高生の休日じゃなくて悪かったわねっ」

家族で田植えとか、の○のんび○りの世界か!かえって羨ましい気がするよ!


「田植えって大変なんでしょ?腰痛くならない?」

そう聞いたはなっちがハッピー○ーンを丸々、1枚口に押し込んだ。上手く噛めないでいるからほっぺがいびつな形に歪んでいる。アンタが今、頬張っているおせんべいの原料であるお米はもしかするとふーみんの家でゴールデンウイークという貴重な休みを犠牲に育てられたものかもしれないよ?そんなにバクバク食べないで、もっと味わったら?

「苗床を運んだりするのは確かに腰にくるけど。あ、花はもしかして田植えをすべて手作業ですると思ってるでしょ?この時期になるとテレビなんかで手植えの様子が取り上げられるけど、田植えなんてほとんど機械で植えるんだからね?手で直接植えるのは機械が入れない脇の部分くらいよ」

「へー、そうなんだぁ。えへへ」


「あたしゃ、未だに牛を使って作業しているのかと思ったよ」

「アンタが想像してるのは、いつの時代よソレ。今時はドローンだって使うんだから」

「ドローンを?」

「ええ、空からセンサーで稲の生育状況を調べて発育の悪い所には肥料の散布したり、害虫や病気が発生すればピンポイントで農薬を撒けて便利なのよ。農協がそういうのを後押ししてくれてて、おじいちゃん今度は水の引き込みも全自動にしようかって張り切ってるわ」

「全自動って?」

「田んぼはね、ただ水を張って放っておけばいいってもんじゃないのよ。この時期だと朝晩は急に冷え込む事があるから、そういう時は水深を深くして寒さから守らなきゃいけないし、稲がグングン伸びる様になったら成長に合わせて時々水を抜いて根に空気を送り込まなきゃいけないの。明日の天気予報見ながら結構神経使うのよ。それを全自動にしてスマホで管理できるようにしようとしてるの」


「農業のIT化は少子高齢の日本では急務ですからね」こういう分野に興味あるのか、かいちょが勉強の手を止めて食いついてきた。やっぱり本気で政界デビュー目指してるんだな。

「それに水路の管理が家にいながら出来るようになると、台風の時にホント助かるのよ」

「どういうことですか?」

「よくニュースになるじゃない。台風の時に田んぼの様子を見に行って水難事故に会うってやつ。あれ、ネットでは台風が来てるのになんで見にいくの?ってバカにされるけど、興味本位で見に行くワケ無いでしょ。水路の管理をしないと大変な事になるからなのよ」

「でも実際、危ないんでしょう?」

「ええ、それは分かってるから、どうしてもって言う時だけおじいちゃんは父さんと一緒に見回りしてるの。そういう見回りが全部手元で出来る様になればだいぶ助かるはずよ」


ふーみんは家の手伝いをしているだけに(ちょっと信じられないけど)農業の事について詳しそうだ。

「ふーみんは将来、農家になるの?」

「うーん・・・・・・」彼女は何とも言えない表情をしている。

その心理を読み解くなら、『おじいちゃんが喜んでくれるから手伝ってあげてもいいけど、お父さんは農業を仕事にするのは大変だからって反対するだろうし、私も会長みたいに野心を持って何か取り組めたらなぁ。でも、まだこれといってやりたいことなんて無いのよねぇ』みたいな?

「・・・・・・まだ分からないわ」全部詰まった分からないだった。


ふーみんがアタシの顔を覗き込んでくる。

「アンタ今、変な事考えていたでしょ?」

む!こちらの思考を読んでくるとは。『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている』確かニーチェだったか?ふーみんの様な人当たりの良いキャラを覗いていると、こっちまで冒されてしまいそうだ。気を付けないと。

「別に、何も」

「いいえ、何か私の事をバカにしてた」

「そんな事ないって」

「どうせ山奥ってバカにしてたんでしょ?」

「バカになんてしてないよ。ちょーーーーーーっと奥まっているだけなんでしょ?同じ岐阜市なんだから」

「そうよ。ちょこっと奥まってるだけよ」ワザと人差し指と親指をわずかに開いて見せてくる。

「まあ、岐阜市だって名古屋から見れば山奥だしね。他の地域をバカになんて出来ないよ。もっと言えば名古屋だって東京から見れば田舎だし、そんな東京は今、地方移住して田舎暮らししたいと考える人が増えているそうじゃないか。つまり、山奥が今のトレンドなのだよ。ふーみん流行の最先端!」

「何言ってんだか」という表情のふーみん。呆れつつも、その表情はまんざらでもないといったところか。『おじいちゃんが始めている様にこれから徹底した農業のIT化を進めれば田舎だってやり様はある。それに地方が見直されているのなら・・・・・・』いや、これ以上思考を読むのはやめておこう。

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