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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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ファイル7「報告」


5月9日

今日の感染者数32名。

感染の疑いのある者4名

疑いのある者は部屋へ隔離し、様子を観察。残りはいつも通り収容施設へ移送した。

睡眠薬がもう今日の分で底を尽きた。新たに調達するか、何か代替品を確保する必要がある。


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17


ゴールデンウイーク明け。

部室での会話は自然と休みに何をしていたかの報告会になった。

「私ですか?休みの間はずっと家で勉強していましたよ。集中してできたのでかなりはかどりました」

かいちょは本当にブレないねぇ。優等生ぶってるとかそう言うのじゃなく、素で勉強しているんだろうね。

だけど、ほら。見てみなさいよ。ふーみんの表情「うわぁ・・・・・・」って、哀れみとも同情ともつかない表情してるじゃないのさ。

「あ、あのっ。私、変ですか?」

「ううん!変とかそういう事じゃないよ会長。ただ真面目過ぎてちょっとね。少しくらい羽根伸ばしたらどうなのかなって。せっかくのまとまった休みだったんだし」

「私、勉強していると落ち着くんです。いい気分転換になりましたよ」

そうか。かいちょにとってはアタシのゲームやアニメと同じように勉強が癒しなんだろうね。学校で勉強していても、家で勉強していても苦にならないのは、アタシがゲームをやって疲れたらアニメを見て気分転換するようなものなんだろう。そういう事にしておこう。


やっぱり納得いかないふーみん。

「でも、テスト勉強には早すぎない?中間試験ってまだ1ヶ月先じゃなかったっけ?」

「あ、これはテスト勉強じゃありませんよ。試験勉強です」

「同じだよっ!」アタシは素早くツッコんだ。

自分で言っておいて、ツッコまれてから気付いたかいちょは「プッ!」と、吹き出した。

「フフッ、すいません。言葉足らずでした。今やっているのは学校のテスト勉強じゃなく、気象予報士の試験勉強なんです」

「会長、気象予報士になろうとしてるの?」

「ええ、」

「すごーい。天気のお姉さんだぁ」はなっちは能天気に言っているけど、簡単になれるものじゃないはずだよ?

「確か、その試験ってかなり難関なんじゃなかったっけ?」

「はい。毎年、5%ほどしか合格者を出さない難関試験と言われています」

「5パー⁉そりゃ会長も必死に勉強する訳ね」


「テレビで見た事あるよ。難関だからよく話題にされるよね」

「合格率が低いからと言って、必ずしも試験そのものも難問というワケではないのですよ。例えば小学生で合格する人もいますからね。ただ受験資格が老若男女問わず、誰でも受けられるため毎年多くの方が試験を受けるんです。だから、受験者の分母が多い割に合格者はそれ程でもないと、合格率というのは自然と低くなってしまうのですよ」

「試験って何が出るの?」と、お菓子を摘まみながら聞くはなっち。アンタ興味ある?お菓子を食べるつまみ程度にしか聞いてないでしょ?

かいちょはそんな態度気にする様子も無く、優しく応えてくれる。

「試験はマークシートで回答する学科試験と記述式で回答する実技試験の2つです。主に気象に関する知識が問われるのですが、出題範囲が膨大で大変なんですよ。この点が合格者の少なさに影響しているんでしょうね。さらに実技試験は気象知識を活かした応用問題となっているので理解力が求められますし、時間を見つけて取り組まないと追いつきません」


「学校でも試験勉強するなんて・・・・・・」ふーみんがのっぺりした顔つきになっている。

「でも、楽しみもあるんですよ。試験会場は全国に5会場しかないので旅行気分で試験を受けに行けるんです」

「どこまで行くの?名古屋?」

「いえ、名古屋には会場が無いんですよ。一番近くて大阪なんです。ならいっそのこと遠い所にしようと北海道まで行くことにしました」

「北海道 ⁉テストの為に?」ふーみんが信じられないという顔をする。

「試験日は8月の終わりなので丁度夏休みですし、家族そろって旅行してくるつもりです」

「あ~ぁ、」一応は納得した顔のふーみん。アンタ表情読みやすいね。


「小鳥ちゃんテレビに出るんだぁ」

「テレビに出られるかどうかはまだ先の話です。まずは合格して事務所に入らないといけませんし、」

「事務所?テレビ局に入社するんじゃないの?」

「いえ、気象予報士は契約社員なんですよ。テレビ局は気象予報士専門の事務所へ依頼し、事務所を通してお仕事を貰う形になるそうです」

「へーそうなんだぁ」

「専門性の高い知識が求められるので。例えば天気予報を伝える人ってアナウンサーじゃなく、キャスターと呼ばれているでしょう?天気のデータを分析し視聴者に分かりやすく伝えるという役割があるんです」

かいちょのキャスター姿は妄想がはかどるねぇ。真っ黒なローブ姿でもその豊満な胸は隠せやしないから、きっとウケると思うよ。

「キャスター小鳥。マスターの召喚に応じ参上しました」

「・・・・・・⁉ 月光ちゃん、それキャスター違いだから」

アタシのボケにかろうじて、はなっちがツッコんでくれた。


「でも、会長は偉いわね。もう将来の事考えてるんだ。天気のお姉さんかぁ」

「いえ、気象予報士はあくまで通過点です。すぐに辞めるつもりです」

「は?」

口を開けたまま塞がらないふーみん。はなっちなんてお菓子を放り込もうとしていた口、開けたままじゃないか。アタシも同じように開いているけど。

「どういうこと?」

「大学に通いながら気象予報士の仕事をしたいと思っているんです。続けても25歳までですね」

「その後は?辞めてどうするの?」

「岐阜市議会議員を目指そうかと」

「は?」3人でまた口を開けちゃったよ。どゆこと?

「政界デビューが私の目標なんです」

アイドルデビュー目指す女子高生の話ならアニメでも見た事はあるけど、政界デビュー目指す女子高生なんて斬新!ラノベの題材にでもして小説書いたら?


ポカーンとする私達を置いて、かいちょが説明しだした。

「議員になる条件は2つだけなんです。1つは年齢。選挙に出馬するには満25歳以上でないといけません。2つ目は日本国籍を持っている事」

「日本人なら誰でも挑戦する資格はあるだろうけど、なんで議員なの?気象予報士でいいじゃん」

「気象予報士は顔を売るためです。選挙対策ですね。うちの様にテレビを置いていない家庭も増えているようですが、やはりテレビの影響というのはバカに出来ません。特に投票率の高い年配の方はずっとテレビを見ていると聞きましたし、お天気キャスターとして顔を覚えてもらえればそれだけで得票に繋がるのではないかと」

「まあ、アナウンサーや芸能人なんかが知名度活かして政界入りするのはめずらしくはないからね」

「最初はアナウンサーも考えていたのですが、それよりは契約社員である気象予報士の方が選挙の為に離職するにせよ再び仕事に戻るにせよ都合がいいんじゃないかと思ったんです。テレビには出られるチャンスがありますしね。しかも朝や夕方の決まった時間に毎日、会社員や主婦の方が目にする機会がある」


「でも、25歳でいきなり選挙に出馬するの?」

「はい。若ければ若いほど注目度は上がりますから。20代のうちに何とか当選を果たしたいです。できる事なら初出馬、初当選して最年少議員の記録を打ち立てたいと思っています」

「かいちょ・・・・・・アンタゆるふわに見えて意外に野心家だったんだね」

「市議会入りできたのなら次は岐阜市長を目指したいです。できれば27歳までに当選してこちらも最年少記録を打ち立てたいと思っています」

どうやら冗談を言っている訳ではないらしい。彼女の説明は具体的だ。

「具体的過ぎて、ひくレベルね」

「市長の次は岐阜県知事も狙いますよ。そしていずれは国政デビューです!」

ふんす、と鼻息の荒いかいちょ。人の夢をバカにしちゃいけないし、かいちょなら本当にやってのけるかもしれない。でも、見てみなさいよ。ふーみんの顔。「信じられない・・・・・・」って顔してるじゃないのさ。

「あ、あのっ。私、変ですか?」

「ええ、変よ。」

ふーみんは言い切った。

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