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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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「あはははっ!」

笑い声と共にぞろぞろとクラスメイト達が部室に入って来た。が、

「あ、」

誰かが漏らした声で、その集団は足を止めてしまった。そりゃそうだ。猪野先輩がテーブルに大きな背中をあずけ、肩は開きドンと両肘を乗せて椅子に座り構えている。しかも左右にはアタシとはなっちが手を後ろで組み姿勢を正していたんだから、こんな光景を見れば誰だって変な想像が膨らむというもんだ。

「先客がいたんだ、」

「ごめんね風香、今日はやめておくよ」

「じゃあね。部活頑張って」

「ははは、」

「ちょっとー!」

モブ達はふーみんを置いてそそくさと行ってしまった。部活前におやつを食べに来たのだろうけど、当てが外れたな。フフフ。

(我がサンクチュアリは守られた!)強力な守護神によって。これで暫くは平穏な日々が望めるだろう。


「誰だ。」

パイセンが抑揚のない声で言う。アタシに聞いたのかな?ふーみんに言ったのかな?判断が付かないうちに、また女子にしては野太い声がする。

「自己紹介も出来ないのか。」

ゾワゾワゾワ!体育会系の上下をはっきりさせようとするこういうノリ、アタシには全然付いていけないよ。怖い!アタシの時はかいちょが、とりなしてくれたから助かったけど。

「2年生の伊吹山風香です。」

あの誰にでも人あたりの良いふーみんが珍しく動揺しているのが声から伝わる。

「そうか。」

パイセンが立ちあがり、ふーみんの方へ近づいていく。

(あ、コレ・・・・・・)パイセンと初めて会った時の事を思い出した。ふーみんよ、ご愁傷さま。せいぜい気に入られるように頑張ってくれ。


「アタシは3年の猪野 瑞穂だ」

パイセンがふーみんの前に手を出した。

「あ、よろしくおねが・・・・・・」

ふーみんが手を取った瞬間、その体をパイセンがグイッと引き込んだ。彼女はいきなりの事で何の抵抗も無く、前かがみにさせられた。足を半歩前に出して倒れないようにする、そんな間も与えない内にパイセンの握手していた手は、ふーみんの差し出されていた二の腕の内側を掴んでいる。

更に引き込むアームドラッグ。これによりふーみんの脇の下はがら空きだ。その開いた空間へ、ヘビが獲物を求める様にパイセンの左腕が滑り込む。ヘビであれば丁度、口の部分にあたる手の平は喉の下を通りふーみんの首、左側へあてがわれた。きっとこの瞬間でもふーみんには自分が獲物として既にその命が幾ばくも無いとは思ってもいないだろう。

今度はパイセンの右腕がふーみんの頭を押さえ付けるように回り込む。まるでヘビの胴体が捕らえた獲物を締め上げる様に。回り込んだ両腕はクラッチされ、もう逃げられはしない。

ふーみんもようやく気付いた。のがれようと抵抗して腰を引くが、右肩はロックされているので逃げる事は叶わない。

「どうした?」

パイセンが余裕の声で言い、技をかけたままふーみんの体を軽く持ち上げてみせる。つま先が数センチ簡単に浮いた。

「ぐぅ」声ともつかぬ空気が漏れる。

持ち上げたのは仕上げだ。これで完全に肩へのロックが掛かり、首も締まる。


スタンディングでのアナコンダチョーク。大蛇アナコンダが獲物を締め上げる様子を表したブラジリアン柔術の技。Chokeチョークは締め上げるという意味だ。

パイセンに何度も教えてもらったので(強制的に)アタシも頭では理解できている。けど、実際に技をかけようとしても、どうにも体が付いてこない。この前ふーみんにダンスをバカにされたし、はなっちが言ったようにアタシは運動というものが苦手らしい。


パン!パン!

ふーみんが声も出せず、空いている方の手でパイセンの足をはたいた。降参の合図だろう。

パイセンがすぐに技を解く。

技を解かれたふーみんはたたらを踏んだ。アタシはすぐに駆け寄り背中を支えた。彼女は半笑いだったが、目は点になっていてうっすら恐怖がにじんでいる。

誰だっていきなりこんな事されればそうなるよね。アタシもそうだったもん。


アタシはつとめて明るく言った。

「ふーみん、髪ボサボサ!」

引きつった半笑いが笑顔に代わる。

「え?なに?なにが起きたの?」

「驚かせて悪かったな伊吹山。アタシ、ブラジリアン柔術をやってるんだ。今のはちょっとした挨拶代わりだよ。改めてよろしく!」

今度は技をかけることなく、パイセンはふーみんの手をしっかり握った。


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