「終わりの始まり」
彼女は走った。必死に走って、その存在から逃れようとしていた。
校舎から上履きのまま外へ飛び出す。
「うぅ、、、あ゛ぁぁぁぁ、」
いたるところからソレのうめき声が聞こえる。学校のいたるところから。
いや、街中?国中?もしかしたら世界中がもう奴らに埋め尽くされているのかもしれない。
どこに逃げればいい?
そんな事は見当もつかないけど、彼女はとにかく走った。
正面の校門の先には車が何台も止まっているのが見える。だけど、様子がおかしい。動く気配はなく大渋滞を起こしている様だ。その車内にはうごめくモノが見えた。
直感的に方向を変え、裏門を目指す彼女。
校舎を曲ったところで何かにぶつかった!
「ウゴぁ、ア゛ーーーーッ‼」
ぶつかった相手は制服を着ているので、元はこの学校の生徒であるのは分かる。血の気が引いて真っ白なその顔を苦悶の表情に歪ませ、抱きつくように彼女に襲い掛かってきた。
「No! Stop it !」
彼女は叫んだ。思わず出てしまった英語は通じない。日本語じゃないからではない。目の前の相手は理性が飛んでいて、もう言葉など理解はしていなかった。
必死に抵抗する。だが、押し退けようとしても着ているパーカーをしっかり握られ、逃れられない!
機転を利かせ、掴まれているパーカーをセミが脱皮する様に脱ぎ捨てる。
追いすがるソレから身をかわし逃げた。彼女は乱れた服装を直すより、まず頭を抑えた。頭をすっぽりと覆う白い布。それに触れ、心の中では神様に助けを求めていた。彼女は信仰心の強い女性だった。異国の地で白い目で見られようとも、信仰の証を外すことをしなかった。
世界中の人々がこの時、それぞれの神様に助けを求めていたかもしれない。しかし、神は無慈悲だ。たった一人の少女の願いでさえ届いてはいないのか?悲痛な現実だけが突きつけられる。
彼女は絶望した。たどり着いた裏門からはうめき声を漏らしつつ、いびつな歩き方をするそれらが押し寄せていたのだ。
後ずさりする。
ドン!
背中に壁が当たった。逃げ場はもうない。群れを成したソレらが彼女を取り囲む。
「help・・・・・・Mom、Papa」
彼女が最後にすがったのは両親だった。




