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ビシッと決まったところでアタシは言った。
「ご清聴ありがとうございました。」
ふーみんが呆れて言う。
「いつも思うけど、よくこんなに喋っていられるわね」
「それは興味があればこそだよ。アタシだって何でも知っている訳じゃない。ファッションの事とか興味ないし。興味のない事は頭に入って無いよ」
「10月から私服で登校してもいいんだから、少しはファッションにも興味持ちなさいよ」
ふーみんがアタシの後頭部を指さす。彼女に貰った髪留めを指さしているのだろう。
「いい。興味ない事に時間を費やすより、アタシはゲームに極振りするよ。それより、ふーみん少しは歴史に興味持てた?」
「そうね。アンタの話を聞くのは、す・・・」
彼女は咳払いして言い直した。
「・・・き、嫌いじゃないから、少しは興味も出てきたわよ」
(やれやれ、)
恥ずかしさを紛らわせようとしたのか、ふーみんが声を張り上げた。
「でもさぁ!こんな細かい話、普通は知らないわよ」
「いやいや、歴史オタクなら当然知っている話ばかりさ。ねえ?」
アタシはみんなに聞いた。
「ああ、当たり前だろ」
「そうですね。当然かと、」
「月光ちゃんのせいで覚えちゃったよ」
「私も先輩についていける様にもっと勉強します」
「トウゼン」
1人便乗した奴がいるけど、まあいいや。彼女には宿題を出しておいたから、すぐに覚えてしまうだろう。元々日本の歴史に興味もあるみたいだし。
「く~っ!」
ふーみんだけ一人で悔しがっている。
「ここにいるみんながおかしいのよっ!」
「ありがとう。オタクにとっておかしいは褒め言葉だよ」
「褒めてないっ!」
「ふーみんもこれくらい覚えておけば歴史オタクとも互角に渡り合えるよ。知識の刃で切り結ぶうち、兵と認めてもらえるかもね」
「おかしな集団に認めてもらっても意味ないわよ!」
みんなで笑って、歩き出した。
取り残されたふーみんがすがってくる。
「でもさぁ、歴史って数学や化学と違って、答えを導き出すものとは違うじゃない?全部暗記すればテストではそれなりに点は取れるんだし、ネットで検索したって分かる事でしょ?覚えていてもしょうがないというか、そんなところが勉強しても意味ないんじゃないかって思っちゃうのよねぇ」
「ふーみんが言っているソレは、ただの情報だよ。知識とは違う」
「どう違うのよ?」
「1556年の長良川の戦い。1560年の桶狭間の戦い。1570年の姉川の戦い。1582年、本能寺の変。年号と起こった出来事なんて検索すればすぐに出てくる情報さ。けど、その出来事が起こったいきさつや、関わった人物、時代背景も含め繋がりを持って応えられるのが知識というものだよ」
「アンタがやたら細かく言っているのが知識ってこと?」
「まあ、そうだね。オタクというのは興味を持った分野に対する知識の探究者であるといえる。」
「またカッコつけて、」
「アタシはね『それくらいググれ』ってバカにするヤツが嫌いなんだ。質問を投げかけたことに対して答えないというのは大人のする事じゃないよ。たとえどんな質問であっても。もし、知らなくて答えられないのなら、それはしょうがない。分からないと答えればいいだけの事だよ。知らないのを恥じる必要はない。けど、質問しても答えなかったり、ましてやバカにするなんて自分の幼稚さをさらけ出している様なものさ。そもそもググってすぐに出てくるモノはただの情報なんだ。聞いているのは知識の方だよ。的外れもいいところさ。だからアタシは知識を身につけるんだ。大人であるために。」
「アンタは聞けばだいたい教えてくれるわよね。細かすぎるけど」
「聞かれればね。聞かれなければ応えたりはしないよ。それは余計なマウント取りになりかねないから。知識というのはね、ネットの発達した現代でこそ重要だとアタシは考えるよ。今話題になっているAIがもっと発達すればググるまでもなく、聞けば全ての答えを教えてくれるようになるかもしれない。そうすると、ふーみんが言うように勉強する事に意味を見出せなくなるかもしれない。ならテストで歴史や数学を答えるのだって意味がなくなる。学校に行くのも意味がなくなる。AIが人間の仕事を代わりにやってくれる様になるのなら仕事するのも意味がなくなる。最後に行きつくのは、人の生きる意味がなくなるよ。けど、そうじゃない。人間が生きる意味は知識の探究にあると思うんだ。人は生きる過程で考え、探求し、文化を生み出した。それを学ぶことは意味ない事じゃない。むしろ人間が生きる上で必要な事なんだ。簡単に答えが得られる時代が来ようとも」
「なんだか、哲学的な話になってきたわね。どういうこと?」
「みんな簡単に答えを求めすぎる。ググってみたら?」
「ムッ!」ふーみんの眉間にシワが寄った。
「ね?イラッとするでしょ?フフッ、簡単に教えてあげよう。アタシは大人だから。いい?人が生きていくうえで必要なものは知識の探究であり、知識は文化で、それは言い換えればエンターテイメントなんだ。人類はコロナ禍で経験した。文化の抑制がどれだけ人々を傷つけたかを。人に必要なものは文化であることは明白になったと言える。つまり知識の探究者であるオタクこそが世界を救うんだよ」
「アンタ、前にもそんな事言ってたわね」
ふーみんは呆れてしまった。




