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ゆるゾン  作者: ニコ・タケナカ
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「歴史に、たら、れば、を言い出したらキリがないけど、」

「お腹、空いてきちゃった」はなっちが人の話を分断する様に口を開いた。

「⁉ それ鱈とレバーに反応しただろッ!」アタシは素早くツッコんだ。

「えへへ」

ふーみんがカバンからお菓子を取り出す。

「あるわよ。お菓子」

「ありがとー、風香ちゃん」

今さっき食べたばかりだというのに。まったく、簡単に餌付けされよって。


「で?なに言おうとしてたのよ」

「なんだっけ?」

「鱈とレバー」

「そうそう。あの時こうしてい、タラ!やっぱりああして、レバー!もし、信長が道三じゃなく高政と同盟を結んでいたら?道三より高政の方が組むなら有利だよ。その事にもっと早く気付いていれば、」

「どうなっていたの?」

「明智光秀に本能寺で討たれていなかったかもしれない。この時、帰蝶は道三を越前の朝倉家ヘ逃がそうとしていた」

ヒメが頷く。

「道三救出が間に合わなかったから、今度は使いの者を明智家へ送って高政軍が攻める城から光秀を助け出したという説もあるんだ。なら、高政と組んでいれば織田に背後を突かれる心配のない高政軍は明智へ総攻撃をかける事が出来て明智城はもっと早くに落ちていた。つまり光秀が死んで本能寺の変も起こらなかった。という、たられば」

「それだと帰蝶の立場はどうなるのよ。道三の娘なんでしょ?信長は義理とはいえ父親を裏切るの?」

「その義理すらない親子喧嘩だし、高政だって帰蝶の義理兄妹じゃないか。なら信長がどちらかへ義理立てる理由もないよ。それに帰蝶と信長は夫婦仲が悪かったんじゃないかとも言われている。理由は子供が一人もいないからなんだけど、」

「それは仲が悪い理由にならないわよ。産めなかったのかもしれないじゃない」

「そうかもしれない。それ以外にも、もしかしたら帰蝶は早くに亡くなっていたのではないかという説もある」

「そうなの?」

「あの超有名人、信長の正室なのにその資料はほとんど残っていないんだ。それは亡くなっていた為じゃないかとも言われている。アタシは明智家と繋がりがあったから、後でその記録が抹消されたんじゃないかと、個人的には思っているけどね。どちらにせよ、あの魔王が奥さんの顔色をうかがうとは思えない」

チカ丸がニヤリとした。


「もうそれはラノベですね。先輩」

「そうだね。戦国時代ってラノベの題材にもよく取り上げられるでしょ?何でかというと、こういうたらればが描きやすいんだよ。ちゃんとした史実として残っている資料は僅かだから”らしい”とか”だろう”といった仮説だらけで、そこに創作が入る余地が沢山ある。それに歴史はみんな学校で習うし、誰もが知ってる物語だから下地があって分かりやすいというのも選ばれる大きな理由だね。あとは昔の出来事だから出てくる人も物語もみんな著作権が切れていて自由に名前を使えるし、改変できる点も大きい。ヒメも歴史小説はこれから書く候補に入れておくといいよ」

「さすが先輩♪勉強になります」

彼女は手帳に一生懸命メモを取り始めた。

「歴史なんて新たな資料や事実が出てくれば書き換わっていくもんなんだし、アタシの話もラノベ程度に聞いてくれればいい」


「もーーーーーっ!」


間の抜けた声がした。真面目に点検作業していた、かいちょが発したもののようだ。

「なんで今日に限って、そんな面白そうな話をしているんですかっ!いつもはアニメやゲームの話ばかりなのにぃ!私もお喋りしたいです!」

「それはアニメやゲームの話は面白くないということかい?オタクを全員、敵に回すつもりか?」

「そうは言ってません!」

「歴史の話も面白くないと思うけど?」

「おい!”も”ってなんだッ!それはアタシの話がつまらないということか⁉」

ふーみんがすっとぼけて顔を横に向けた。


「月光さん!私にも喋らせてください。まず孫四郎と喜平次ですけど、」

「だれ?」ふーみんが小声で聞いてくる。

「道三の子の次男と三男」

「あー、」

「諱の龍の字に注目するのは流石です」

「ありがとう。」

「けど、二人が深芳野の子というのは異論があります」

「ほう、小見の方の子説をとるんだね?」

「そうです。」

「アタシは龍の字以外にも三男に一色氏を名乗らせた点も怪しいと睨んでいますが?」

「小見の方は明智の出身だと言われています。明智家は土岐家の流れを汲んでいます。その土岐家には一色と繋がりがあったそうです。であれば、三男に一色を名乗らせても不思議ではありません」

「随分と遠い親戚になっちゃうけど、」

「だから三男の方に名乗らせた可能性があります。次男には斎藤、三男には一色。格で見れば次男に名乗らせてもいいはずです。それは遠縁だからです」

「だとしたら、次男にも一色を名乗らせればよかったじゃないか。二人一緒なら格は関係ないんだし」

「次男には斎藤家を継がせるという思惑があったからでしょう。道三は長井から斎藤へと名乗った際に、息子の利尚を『土岐の血を引く者である』と認めて家臣たちの結束を図ったという説もあります。自らは斎藤と血のつながりが無い為に息子を利用したんです。しかしそれが逆に家臣たちが利尚を当主に担ぐという事態を招いてしまった。道三としてみれば自分の斎藤家を取り戻す意思の現れが次男の斎藤という名前です。その為にも頼芸から譲り受けた深芳野が生んだ子ではダメなんです。さらに言えば次男なのに孫四郎というあだ名。四郎というのは道三以前の美濃斎藤家ではよく使われているあだ名です。その事からも自分の血が繋がった孫四郎を斎藤家の当主にしようというこだわりが感じられます。」

「ふーむ。流石かいちょ」


ふーみんとはなっちがコソコソ喋っているのが聞こえてくる。

「会長が入ってくると誰も2人の会話に付いていけなくなるわね」

「ねー」

「花が前にこの二人と一緒にいると引っ張られるって言ってた意味が分かった気がするわ。こんな話聞かされていると、いつの間にかこちらも分かったような気にさせられるのね」

「ねー、」

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