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「決意の表れだったのか利尚は父親から貰った名前を捨て、斎藤高政へと偏諱した。そして1556年、斎藤道三と長良川を挟んで対峙する。高政軍はその数およそ17500人。対する道三軍はおよそ2700人」
「道三、少なっ!」
「この数の差は人徳の無さの現れだよ。元々、土岐 頼芸の家臣だった武将達はみな高政側に付いたからね。もちろん稲葉良通もお姉さんの子である高政に味方したよ」
「深芳野はどうしたの?夫と子供が争う事になったんだから止めなかったの?」
「戦国時代は男尊女卑だから、女性が男達の争いに口出しするなんて難しかったと思うよ。深芳野の動向を記した記録は残って無いみたいで、実はいつ亡くなったのかも分かっていない」
「そうなんだ。」
「道三と一緒に行動していて、最後は自害したのかもしれないし、高政の方に身を寄せていたのかもしれない。アタシは案外、弟の良通にかくまわれて残りの人生は静かに過ごしたんじゃないかと思うけどね」
「だったらいいわね。私も良通と暮らした方に賛成よ。親子で争うのなんて見たくないもん」
「その親子の争い、長良川の戦いはこの辺りで行われたみたいだね」
アタシは床を指さした。
よく分からないといった感じにふーみんが聞く。
「この辺りって?」
「だからこの辺りだよ」
更にアタシは床に大きく円を描くようにさし示した。
「え⁉ココ?」
「そうだよ。ここだよ」
「長良川ってここより、もっと南の方を流れてるじゃない」
「昔は今より北側を流れていたんだよ。この高校の横に早田川ってあるじゃん」
ふーみんが首を振る。代わりにはなっちが応えてくれた。
「川じゃなく、ほぼ側溝だけどね」
「水もあまり流れてないですよね」と、同じく地元民であるヒメが言う。
「一応あれでも国が管理する一級河川なんだよ。あの川は元々、長良川と同じ流れだったんじゃないかな?更に高校の少し南に美島公園という、ちょっとした公園があるんだ。名前がうつくしい島なだけに、あそこは元々中州だった可能性がある。長良川の戦いの激戦地はここから東へ行ったメモリアルセンター辺りじゃないかと言われているけど、アタシなら川を渡るための足掛かりとして中州を目指すよ。だからこの高校の目の前が長良川であり、合戦の主戦場だったと考えるね」
「地名から推測するなんて、さすが先輩です!」
「今アタシ達が立っているこの場所はちょうど道三軍本陣だったかもしれない。どう?身近に感じるでしょ?」
「そう、道三ココに立ってたのね、」ふーみんは床を見つめた。
「もっと身近に感じられるように詳しく話してあげよう。まず、道三はここから北に少し行った所にある小さな山、鶴山に陣を構えたんだ。対する高政は稲葉山城のふもとに布陣。こういう真っ向から対峙した場合、守る方が有利だと言われている。最初に動いたのは高政だった」
「守る方が有利なのに?」
「17500の兵がいるから一気に攻め落とそうと考えたのかもしれない。攻撃する時の兵力は相手の3倍あれば圧倒できると言われているから」
「5倍以上あるんだから圧倒的じゃない」
「うん。でも道三だって兵力差は分かっていたはずだよ。このままではマズいとね。それでも逃げずに陣を構えたのは・・・・・・あ、そうだ」
アタシはヒメに向かって言った。
「道三の娘である帰蝶はこの時、何をしたでしょう?」
「あ、ハイ。ピンポンです。・・・・・・えっと、帰蝶は道三を越前の朝倉家へ逃がすため使いを出しています」
「正解。1000ポイント獲得」
「フフ、ありがとうございます♪」
「この時、道三は逃げなかった。帰蝶がせっかく取り計らってくれていたのに。兵力も圧倒的に差があるのは分かっていたのに。なぜ逃げなかったのか?」
「もう破れかぶれだったんじゃない?」
「ふーみん斬新! 1ポイント獲得です」
「なんで私だけ1ポイントなのよッ!」
「ふーみんの冗談はさておき。道三は良く言えば世渡りが上手い、時世を読むのに優れていた。悪く言えばがめつい人物だったんだよ?そんな道三が簡単に諦めるわけがないじゃないか。逃げなかったのはそこに勝算があると考えての事だと思うね」
アタシはまたふーみんに聞いた。
「ここでふーみんにボーナス問題です。道三の正室といえば?」
「え?あっ!あれよ、ほら!」
「小さく見える方がーぁ?」
「小見の方!」
「正解!ボーナス問題なので、倍の2ポイント獲得です」
「だからっ!なんで私だけ1ポイントずつなのよ!」
「茶番はこれくらいにしてっと。」
「コラッ」
「小見の方がここでは重要になってくるんだ。彼女は明智家の出身だと言われている」
「あけちって、あの明智?」
「そう。ふーみんでも知っているあの明智。今の可児市を拠点としていた一族だよ。ここからだと東の各務ヶ原を抜けて鳩吹山という山をひとつ超えた先が可児だね。で、有名な明智光秀もそこの出身だとされている。されているというのは資料に残っていないからなんだけど・・・というかワザと残されなかったのかもしれないど・・・よく分かっていない。道三はね、親戚関係にあった明智家へ援軍を求めたらしい。けど、それは高政によって阻まれてしまった」
「やっぱり高政が有利じゃない」
「うん。道三が鶴山に陣を張った二日後に戦いが始まったんだけど、たぶんこの間、明智の援軍を待っていたのさ。来ないうちに高政の軍が動いてしまった」
「どうする?道三」はなっちが茶化してくる。
「この時、道三も即座に高政の動きに合わせて鶴山を下り進軍したんだ」
ふーみんが話を止める。
「待って。守った方が有利なのよね?なんで突っ込んでいくの?やっぱり破れかぶれだったんでしょ」
「その可能性もあるから1ポイントしょうがなくあげたんじゃないか」
「しょうがなくだったの・・・・・・」




