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ファイル3「メモ」
プリオン病について分かっていることをここに記す。
・最初の症状は震えだ。気温に関係なく全身が震えだす。
・次に意識障害。これには様々な症例が見られる。急に笑い出す者、怯える者、怒りだす者。
・徐々に身体機能にも影響を与える。歩行が困難になり、言語も明瞭でなくなる。
・最後は死に至る。これは病気そのものによるというより、突発的な事故によるものの方が多い。
対処の仕方については震えの症状が出た時点でその者を拘束もしくは隔離するのが一番だと思われる。治療については恐らく有効な手立ては無いだろう。
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「あーーーんっ」
今日もお菓子を頬張るはなっち。なんてことだ!アニメで憧れていた部活動が、ただお菓子を頬張るだけの会となっているじゃないか!
ふーみんはそれでも一向に構わないらしい。時々おしゃべりをして、お菓子を振る舞って、アタシ達が食べる様子を眺め嬉しそうにしている。
「花はホントいつもおいしそうに食べるわね」
「風香ちゃんお菓子ありがとね」
「でも、いつもいつも風香さんばかりに持ってきてもらっては申し訳ないですね」
「いいのよ。気にしなくても」
部活として認めてもらえれば部費でお菓子も買えるだろうに。たぶんお菓子だって雑費としてまとめて申請すれば生徒会も認めてくれるんじゃないかな?かいちょも運動部のスポーツドリンクを認めているのはあまり突っ込んでほしく無さそうにしてたから。
ゲームでお金を使い切ってるアタシには、部活でお菓子を食べれるようになれば理想的だったのになぁ。それに、かいちょの言葉じゃないけど、ふーみんにばかりお金を使わせるのも心苦しいし・・・・・・
アタシは聞いてみた。
「ふーみん、おっ金持ちぃー。もしかして何かアルバイトしてる?」
「まあ!アルバイトは校則で禁止されていますよ?生徒会長としてこれは見過ごせませんね」
「アルバイトなんてしてないわよ。ただ父さんがね、何かと言うとおこずかいくれるのよ」
「パパさん、おっ金持ちぃー」
「そんなんじゃないって。私、バイクに乗ってるでしょ?ガソリン代いるだろって顔合わすたびに千円ずつ渡してくるのよぉ。そんなに要らないって言ってるのに」
「娘と会話できるチャンスが出来たって喜んでるんだと思うよ。ソレ。」
「かわいくてしょうがないんでしょうね。ふふふ、」
少し照れるふーみん。
はなっちが口をもぐもぐさせながら聞く。
「私バイクの事よく分からないんだけど、ガソリン代っていくらくらい掛かるものなの?」
「そうねぇ、私の乗ってるカブだと3リットル位入るから、」
なに⁉アタシの耳がピクピクと反応する。カブだと?なぜそれをもっと早く言わん!ホ○ダのスー○ーカブといえば、昨今のレトロブームによって見直されているバイクじゃないか。
急にアタシのオタク魂が燃え上がる。
「今、ガソリンは高いって言われていますよね」
「そうらしいわね。この前いれた時は1リットル160円?だったかなぁ。まだ乗り始めたばかりで高いのかあまり実感ないわ。満タンにしても500円しないし」
「カブって燃費は?リッター何キロ走れるの?」
「ちゃんと計ったことないけど、だいたい1リッター60キロぐらいじゃない?最新のものだったらたぶんもっと走れるんでしょうけど。私のカブ、おじいちゃんのおさがりだから」
「へー、いいなぁ」
「アンタ、カブに興味あるの?」
「うん。ちょっとね」
「変わってるわね。アレ、おじいちゃんは畑に行くために乗ってたのよ。荷台に無理やり鍬をくくりつけたりして」
「かっこいい!」アタシはその様子を夢想した。鍬の代わりにスコップを装備しても良さそうじゃん。
「ホントに変わってるわね・・・・・・」
オタクにとって変わってるは褒め言葉だよ?
「私はもっと可愛い感じのスクーターが欲しかったのに、おじいちゃんが『カブは世界一なんだ』って無理やり押し付けてきたのよぉ」
しゃがれた声でおじいちゃんの声マネをするふーみん。アタシはそれに親指を立てた。
「じっちゃん分かってるぅ。今、またカブが見直されてるからね。アニメでもスー○ーカブを題材にしたものがあって人気なんだから」
「そうなの?でもカブっておじいちゃんが乗ってるイメージだからちょっと恥ずかしいのよね」
「分かってないなぁ、ふーみんは。おっちゃんイメージのバイクにうら若き女子高生が乗ってるのがいいんじゃないか。ギャップ萌え最高!注目の的だよ」
「そ、そう?まあ新しく買うにもお金がかかるし高校の間だけは我慢するわ」
急に髪をいじりだすふーみん。まんざらでもないな、この娘。
「ねえ、風香ちゃんは家遠いんでしょ?何キロくらいあるの?」
「確か山を3つ超えるんだっけ?」
「そんな山奥に住んでないわよ!市内だから!岐・阜・し・な・い!まぁ、往復で40キロくらいかかるけど」
ふむ。ほぼ出揃ったな。
「・・・・・・」
黙り込んで考える3人。
「コラコラコラ!頭の中で私のお小遣いの計算をするんじゃない!」
アタシは時計を見た。針は間もなく5時をさそうとしている。
「あ、そろそろふーみん帰る?ついでにそのカブ見せてよ」
「いいわよ」
みんなで駐輪場に移動した。
「コレよ。どこにでもあるカブだから見ても面白くないとは思うけど」
「ほうほう、コレが・・・・・・ちょっとシート上げてくれる?」
「ん?いいけど」
カブの型番はシートを上げたところに書いてある。アタシはスマホを片手にサイトの情報と見比べた。
「こ!これはっ⁉」型番を見つつ、ちょっと大げさに驚いてみせる。
「な、なによ」
「おじいちゃん、このカブにどれくらい乗ってたの?」
「若い頃から乗ってたらしいから50年近く?」
「大切にした方がいいよ。このカブ、希少なビンテージものだよ」
「そうなの⁉」
「通称カモメカブって呼ばれてるタイプだよ。たぶん」
「かもめ?」
「ちょっとハンドルを見て」
カブの前に回り込む。
「ハンドルが湾曲してて前から見た時にカモメが羽ばたいている様に見えるでしょ?だからカモメカブ」
『カモメカブ。1971年式から追加されたデラックスグレードのカブ。78年にデザインは一新されるので台数は少なく希少。ヴィンテージカブとも呼ばれ人気』
そうスマホの画面には書かれている。
「へー、知らなかった。そう言われると愛着がわくわね。そうだ!今日からこの子の名前は『カモメン』よ!」
「プッ!」
一人吹き出すかいちょ。
はなっちが不思議そうに聞く。
「なんでメン?」
「たぶんこの子は男の子だからメンズのメン。よく見ればイケメンだし」
「プッ!イケメンなカモメ。クッ!ククッ」
かいちょは何言われても笑うよね。お笑いライブでも見に行ったら?芸人さん自信が付くと思うよ。
「じゃあね」
カモメンにまたがり帰っていくふーみんを3人で見送った。
「クッ!ククッ」
かいちょはいつまでも笑っていた。