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アタシは点検作業に同行しながら話を続けた。
「ふーみんはさ、歴史が苦手みたいだから、もう少し興味を持てるように推しを決めたら?」
「おし?」
「そう。好きな武将だよ」
「武将に興味なんてないわ」
「あー、あー、あー、」
アタシは力なく首を振った。
「例えば、誰かに『地元の戦国武将には誰がいますか?』なんて聞かれたらどうするの?」
「そんなの、のぶ・」
彼女が言いかけた言葉を遮る。
「信長は無しだよ。」
「なんでよ。岐阜といえば、信長でしょ?」
「あー、あー、あー、」
アタシはまた力なく首を振った。
「岐阜と命名したのが信長だから?信長の居城だった岐阜城があるから?岐阜駅前に黄金の信長像が立っているから?秋の信長まつりに有名人が来てくれるから?どれも歴史マニアにとっては周知の事実すぎて面白くない。いいかい?戦国武将を訊ねてくる時点で相手は歴史好きのオタクだよ。そこを踏まえて応えなきゃ。岐阜県民が信長と答えちゃあ、いけないのだよ。」
「だって、私オタクじゃないし。普通の会話でいいわよ」
「じゃあ、ふーみんが『信長です』って答えたとして、相手はどんな反応すると思う?」
「普通に『そうなんですね』じゃない?」
「普通ならね。けど、向こうは幾多の修羅場を推しと共に夢想して駆け抜けた歴戦の戦国乙女なんだよ?」
「なによ、その言い回し」
「そんな兵に薄っぺらい言葉なんて突き刺さらないよ。フン!って鼻で笑われて『岐阜といえば信長ですよねー』なんて嫌味を言われちゃうよ?」
先頭を歩いていたパイセンが振り返った。
「そんな喧嘩の売られ方したら、アタシは秒で締め落としてやるけどな」
「パイセンならそうでしょうけど。相手はなにも目の前にいるとは限らない。SNSなら平気で挑発してマウント取ろうとする人なんて沢山いるんですよ」
「マウントは取らせるな。戦いの基本だ」
パイセンはまた前を向いて歩きだした。
「そんな奴、無視すればいいじゃない」
「ふーみんは正しい。けど、あちらさんの力量がどれ程のものか、ちょっと突っついてみたくなるでしょ?クククッ」
「月光ちゃん、かーお」
どうやら今アタシは注意されるほど皮肉な笑い方をしていたらしい。
「そもそも信長は尾張国、今の愛知県西部の出身だから岐阜人、美濃出身じゃないよ」
「なら、信長の前の人は?えっと、美濃のマムシ?」
「斎藤道三ね。道三というのは法号だからその前の名前は斎藤利政。彼も元々の出は京都だと言われている。まあ、昔だから生まれた年にいくつか説があってどこで生まれたのかはっきりしないんだけどね。ちなみに美濃の蝮という二つ名は小説の中の創作だよ」
「はいはい。そんな細かい所はいいわよ。で?アンタなら誰を応えるのよ」
「そうだねー、この地方は武将の宝庫だから思いつく限り列挙して相手を圧倒させてあげるのもいいけど、一人に絞るなら稲葉良通を推すかな」
「さすが先輩です♪」
「いや、誰よそれ」
「美濃三人衆の一人だよ⁉この美濃の地で活躍した武将なんだから、これくらいは答えられないと岐阜人として恥ずかしいよ?」
「マニアック過ぎて普通の岐阜県民は答えられないわよ」
「ふむ。マニアックか。確かに戦国○双でも稲葉良通は登場するけど、モブ武将扱いだからなぁ。操作キャラじゃないし、頭の上に名前しか表示されない」
「月光ちゃんは良通がいると、真っ先に助けに行くよね」
「それ、ゲームの話?」
アタシははなっちへと話を振った。
「ここで、ななっちに問題です。ジャジャン!美濃三人衆の一人は稲葉良通ですが、では残りの二人は?」
「ピンポン!」
と、セルフ効果音を口で言って彼女が答えた。
「安藤守就と氏家直元」
「正解!2000ポイント獲得です」
アタシははなっちへ拍手を送った。
「えへへ、」
「ね?答えられるでしょ?」
ふーみんは不服そうだ。
「花は意外に勉強できるから、」
「意外・・・・・・」
「ごめん、花。違うから。コイツが異常に詳しいのがいけないのよ」
「じゃあ、かいちょにも問題です。ジャジャン!稲葉良通の孫にあたる人物で徳川いえみ・」
「ピンポン!」
まだ問題の途中だったけど、かいちょがフライングした。セルフ効果音まで言ってくれている。
「春日局、もしくは斎藤福」
難なく正解してきて面白くないので、少しいじわるしてやれ。
「ですがーーーぁ?」
ピンポン!ピンポン!
「父は明智光秀の重臣、斎藤利三。夫は小早川秀秋の家臣、稲葉正成。息子は小田原藩藩主、稲葉正勝」
押さえる所は押さえてくる的確な答え。流石かいちょ。どんな問題でも返してきそうだ。
「大正解!5000ポイント獲得です」
「フフッ」
ヒメがこちらをジッと見てくる。欲しがるねぇ
「次はヒメに問題です。ジャジャン!」
「ハイ♪」
「稲葉良通は数々の武将に仕えてきましたが、その仕えた武将を答えなさい」
「えっと、土岐頼芸、斎藤道三、斎藤義龍、斎藤龍興、織田信長、豊臣秀吉、です」
「うーん残念!答えはあってるけど、ピンポン言わなかったから失格です」
「えーっ!先輩のいじわるぅ」
ふーみんが不満そうだ。
「ここにいるのみんな頭がイイ子達じゃない!」
「いやいや、歴史好きに頭の良さは関係ないよ。興味を持っているかどうかだから」
チカ丸も不満そうだ。
「ニホンの名前、むずかしい」
「チカ丸はコー○ーの戦国○双をやってみるといいよ。武将の名前が覚えやすいし、歴史イベントも学べる。ちょこっとばかし脚色は入ってるけど、」
「OK。探してみる」
「では、最終問題です。ジャジャン!稲葉良通の法号を・」
ピンポン!と、またフライングしてきたのはかいちょだ。
「稲葉一鉄」
「問題は最後まで聞いてください。かいちょはお手つきで一回休みです」
「そんなーぁ」
「稲葉良通の法号を一鉄と言いますが、その名前と共に彼の性格を表した四字熟語を答えなさい」
「ピンポンだ」
意外にも名乗りを上げたのはパイセンだった。
「頑固一徹だろ?」
「正解!最終問題を勝ち取ったパイセンには1万ポイント送られます。パチパチパチパチー」
「フッ。海津、お前一鉄の名前をワザと隠してただろ?」
「鋭いですね、パイセン」
「有名だからな。来ると思って狙ってたんだ。ハハハッ!」
勝負事の勘は鋭いんだなこの人。決める所は決めてくる。
ふーみんがまたも不満そうだ。
「なんだ。伊吹山その目は。アタシが答えたのが意外か?」
「い、いえ。そういう訳じゃ」
「アタシも日本の歴史は好きだぞ」
「いや、でもコレ有名なの?聞いた事ないんですけど」
「一問も答える事の出来なかった、ふーみんとチカ丸は補修授業だ!」




