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2:最初の街『クックルーポロッポーノ』

 私が、風琴(オルガン)と名付けた子ブタの背に(またが)り出発してから間もない頃のこと。

 ポツリ、ポツリ・・・と灰色の雲の隙間から小雨が降ってきたのです。

 せっかく、風琴さんの母親探しのために気合を入れて洒落(しゃれ)た格好に着替えてきたというのに、これでは私の衣服が時間経過に伴いびしょ濡れになってしまうではないですか。

 けど、そうなったらそうなったで降りしきる小雨とは対照的に太陽のように眩しく神々(こうごう)しい私が際立つのでしょうね。そう思うと、なんだか身体のあちこちがゾクゾク・・・っとしてきます。

「私って、す・て・き!」

 つい、口に出してみたくなったので私は気分のままに呟いてみたのですが、自分で自分のことを褒めてみるというのもなかなかいいものですね。

 そんな自惚れはさておき・・・本当に風琴さんの母親は『ピッギータウン』にいるのでしょうか。

 私から言わせてもらえば、そこに風琴さんの母親は九割以上の確率でいないだろうと思います。

 だって、『ピッギータウン』から私の住む自宅までは私の徒歩で約一カ月前後、この世界で最速とされているツバメタクシーに搭乗したとしても約一週間は絶対的にかかってしまうのですから。

 そう考えると、さきほどの風琴さんとの話しには、おかしな点がいくつもあることになるのです。

 まずは、母親に言い残してから五分も経っていないということ。それについては、風琴さんの数字に対する能力が致命的であったと考え五分ではなく仮に五〇分であったとしてみても『ピッギータウン』ないし、その周辺から母親と別れて私の家近くの小川『ダクタク川』には着きません。ですので、これについてはおかしいと断言できるのです。

 二つ目は、風琴さんの口調が小川に来る直前までは母親と一緒にいたかのように感じられたこと。それについては、つい直前まで話していたか会っていた母親が突如として消えてしまうなんてことあり得るのでしょうか。私には風琴さんの勘違いが甚だしかったとしか思えないのですが・・・。

 私からしてみれば予想の域を出ませんが風琴さんが嘘を()いているようにしか思えないのです。その理由は判りませんがとにかく、これから確認してみます。

「あの、風琴さん・・・」

「なんですか、メロディーさん・・・」

「その・・・さきほどあなたは私に対して母親に言い残してから五分も経っていないと言いましたよね?」

「たしかに、言ったよ。けど、それがどうかしましたか?」

「でしたら早速ですが、風琴さん、あなたは私に嘘を吐きましたよね?」

「え?なんでさ・・・。私は、メロディーさんに嘘なんて吐いてないですよ!むしろ、私の方が何回か嘘というか冗談じみたことを言われたんですけど・・・」

「そ、そうでしたっけ?私があなたに嘘を・・・。とにかくなんでもあなたの言うことが本当なのだとしたら色々とおかしいのですよ」

「何がどんなふうに・・・ですか、メロディーさん?」

「まず、これから私達が向かおうとしている『ピッギータウン』ですが、そこには風琴さんの歩く速度だと最低でも一週間以上かかってしまうと思うんです」

「え?だったら私達は今、どこに向かってるんですか?」

「風琴さん、はやる気持ちもわかりますがひとまず落ち着いてください」

「お、落ち着いてなんかいられませんよ。私は、お母様に心配させてしま・・・」

 そう言うと、子ブタの風琴さんは私を背に乗せたままオイオイと子どものように泣き出してしまいました。というか、そもそも風琴さんは、まだ子どものブタさんですよね・・・きっと。

「よしよーし・・・風琴さん、泣かないでくださいねー・・・。私がついてますからねー・・・。早く泣き()んでください・・・うるさくて前方に集中できないので」

 私は、ついポロッと正直なあまりに本音を漏らしてしまったのです。

「メロディーさん・・・ひどいです。私のこと、そう思ってたんですね・・・」

(・・・まったく、あとどのくらいで風琴さんは泣くのを止めてくれるのでしょうか?)

 私は、両手の人差し指を左右の耳の穴へとつっこみ風琴さんがひっくひっく泣きじゃくるのを止めてくれるまで待つことにしました。


「まだですかー・・・?」

 私が両耳に指で栓をしながらタイミングを見計らってわざとらしく大きな声で風琴さんに尋ねてみたときには、すでに泣き止んでくれていました。

「あの・・・メロディーさん。さっきは気が動転していました。ごめんなさい・・・」

「客観的に自分のことを見つめて謝れたので私は、風琴さんのことを許します・・・」

「なんか、許してもらわなくてもいい気がしてきました。というか、そもそもなぜ私はメロディーさんに謝ったのでしょう。むしろ私に対して謝罪してほしいくらいです。まぁ、別にいいんですけど」

「・・・では、さきほどの話しの続きですけど、風琴さんに障碍がないかぎり『ピッギータウン』から、お○っこをしていた小川まで絶対に五分では辿り着けません。それに、つい直前まで一緒だったとかなんとかの母親が突然『かみかくし』の如くどこかに消えてしまうなんてことあり得ないと思いませんか?」

「たしかにそう、だね。だとすると、私の記憶のどこかが欠けて・・・って、思い出した!私はさっき・・・」

「さっき、何があったんですか?そのまま話してください・・・」

「さっきね、メロディーさんと会う前まで私は、ジロウさんの農場にお母様と二匹でいて・・・」

「ほうほう・・・それで?」

「それでですね、お小水をす、するためにお母様に一言だけ残して農場の(そば)を流れる湧き水のところに・・・」

「そのあとに何かがあったんですね?」

 私が風琴さんに聞くと風琴さんは目をしばしばとさせて歯茎を噛みしめるように――

「あがっ・・・あ、頭がいたいです・・・」

 なんと、急な頭痛をうったえ始めたのです。

「だ、大丈夫ですか・・・風琴さん?」

「いっ・・・いだいでず・・・」

 こうなってしまっては流石の私でも困ってしまいます。

 こんなとき、人間達の(あいだ)で人気のある青いタヌキのように魔法めかしたことができたらいいんですけど私には、魔法だとか魔術なんて一切できませんので本当にどうしたものか・・・。

 もういっそ、藁でも今にも力なく抜け落ちてしまいそうな毛でもいいので、すがりたい思いです。

「誰か・・・困り果てて何も思いつかない可哀そうな私と苦しんでいる風琴さんのことを助けてはくれませんか。エーメン・・・」

 時折、人間が言いそうな言葉を語尾に接着して小雨の降りしきる空へと手と手を合わせてナームー・・・ではなく祈ってみました。すると、どうでしょうか。雨の降る音に交じってバサバサという風を切り捨てるような音も聞こえてきました。

「鳥だ!飛行機ってなんですか?スーペァマンってなんですか・・・?」

 自分でも意味のよく判らないことをブツブツと呟きながら音の聞こえる方向を仰ぎ見ると、そこには無数の鳥の大群と鳥に装着された鞍のようなものに跨る小人達の姿がありました。

「おゎー・・・」

 私が口を大の字に開けて凝視していると次第にこっちに近づいてきた集団のうち鳥に跨った一人のひげもじゃな男性が、

「おい!お嬢ちゃんに、四足歩行の子ブタ?こりゃまた珍妙な組み合わせだこと・・・」

 と、目を細めながら言ってきたのです。

「あの・・・あなた達は一体?」

「んあっ・・・?俺達のことか。俺らはな、鳥に跨って人命救助や手紙の配達、物品の宅配なんかもしてる貴族、その名も『鳥貴族』だ!」

「あのー・・・その、それを大声で強調して言うのは、なんとなくですけど控えた方がよろしいかと・・・」

「なんだ嬢ちゃん、鳥貴族が気に入らねーのか?俺は、シャレオツな名前だと思うけどよ・・・」

「そうじゃなくて、はぁー・・・もう、どうなっても知りませんからね、私は。とにかく、ここで会ったのも何かの縁ってことで私の真下で苦しんでいる子ブタの風琴さんのことを助けてくれませんか?」

 私がそのように伝えると、私の鼻の位置より少しだけ上空で動きを静止(ホバリング)のようなことをしている鳥に跨った小人達がコショコショ・・・と、私には聞きとれない声で会話を始めたのです。

 私は、そんな彼らのことをただじっと眺めていました。

 そして、こんなときでも私の真下では風琴さんがかすれたうめき声のようなものを漏らし苦しんでいました。その後、少しして・・・

「えー・・・っとお嬢ちゃん、あんたの名前は?」

「私の名前ですか・・・。私は、メロディーです。そこら辺に咲きほこる草や花達に口なるものがついていたのなら、きっと口々に噂するかもしれない美少女の・・・」

「あっ・・・わりい。けど、そこまでは聞いてないんだわ。とりあえず一旦よ、お嬢ちゃんは跨っている子ブタからおりてくれないか?」

 ひげもじゃの男性は明らかに気まずそうな顔をして言いました。私は、なにも本当のことを言ったまでだというのに。もしかして、私に嫉妬してしまったのでしょうか。それは、私の考えすぎですよね。


「わかりました。おりればいいんですよね?」

「あぁ、そういうこった・・・」

 私は、ひげもじゃな男性の言う通り子ブタの風琴さんからゆっくりと腰を上げて短い草に花が生い茂った地面へと着地しました。

「で、おりましたけどあなたがたは風琴さんのことをどうしてくれるんですか?」

「お嬢ちゃん、俺らはこれから助けてやるつもりだ。悪いことをする気はさらさらないから勘違いすんなよな!?」

「わかってます・・・というか、そうだと私は信じてます」

 私が少しだけ強めの口調で呟くと、鳥に跨った複数の男女らがハンドサインやら口笛で何やら独特な会話のようなものを始めました。

 それから間もなくして、鳥に跨った小人達は背中から肩回りをぐるりと一周するように持ち手が二本ついたカバンから幾重にも編み込まれたいかにも丈夫そうなロープを取り出し、ある(グループ)は子ブタの前方へ、またある組は子ブタの後方へと向かい残った組は子ブタの胴と下半身をつなぎ合わせているところへと飛んでいきました。

「さぁ、いっちょやるぞー・・・」

「「「おー・・・」」」

 ひげもじゃな男性の威勢のよい声に応じるように、鳥に跨った小人達は取り出したロープを持たない方の手で握り拳をつくり天高く突き上げました。

 その後、あっという間に彼らは手に持っていたそれを地べたで寝そべっている子ブタの風琴さんの身体の下にくぐらせていき・・・

「せーの・・・」

「「「おーえす・・・」」」

 と、小雨なんかには決して負けてしまうことのないような大声で掛け合いをしていました。そして、徐々に風琴さんの身体が空中へと浮かんでいきます。

「あと、もう少しだゼー・・・」

「「「イエス・・・!」」」

 彼らは、そんな息ぴったりのかけ声で士気を高めていました。

 私は、火山から流れ出てくる溶岩のように熱すぎる彼らのかけ声がウザさを通り越してむしろ清々しく感じられるようになっていました。

「・・・それにしても、いつの間にか風琴さんが空にポカリと浮かんでしまいましたね」

 私が一人、口を縦に拡げて感心していると、さきほどからなぜか単独行動をしているようにみえた私と同い年くらいの顔だちをした綺麗な瑠璃色の瞳の女性が私の傍へと来て、

「のって・・・私の後ろに」

 と、言ってきたのです。それに対して私が、

「え?乗っていいんですか?私は、あなたがたみたく上手く乗れずに途中で落ちてしまうかもしれないんですよ?」

 と伝えると、

「それでも大丈夫だから・・・というか、私がいざとなったら対処するし。とにかく、早く乗ってくれないと彼らに遅れをとるから。それに、雨あしがいつ強くなるかわかんないし・・・」

 じっと見ていると吸い込まれてしまいそうな瑠璃色の瞳をした短髪の女性が、そう言ってきました。

「なら、わかりました。宜しくお願いしますね。えー・・・っと、誰でしたっけ?」

「私は、プリュメーラ。鳥貴族のなかで唯一、治療行為を許可されている者・・・」

(また、鳥貴族ですか。怒られても私は責任とりませんからね。なぜそう思うのかは知りませんけど・・・)

「プリュメーラさんですか。私は、昨日まで山菜採りを日課にしていたメロディーです」

「メロディー・・・あなたの名前は、さっき聞こえてきた。とりあえず出立するから私につかまってて」

「あっ・・・はい。もう、いつでもいいですよ、私は・・・」

「なら行くよ。ピュルピューピルピー・・・」

「えっ・・・?なんですか?」

「うるさい。だまってて・・・」

 私は、プリュメーラさんに怒られてしまいました。ただ、いきなり謎の言語を発したことに対して疑問に思っただけでしたのに。

 そして今も、私のすぐ前のところで謎の言語をブツクサと呟き続けるプリュメーラさん。

(彼女は一体全体なんと言っているのでしょうか?私には、さっぱりわけわかめです・・・)

 私がそんなことを思っていたときのこと。

 いきなり私とプリュメーラさんのことを背に乗せた鳥が加速し始めました。

「えっ・・・?ちょっ・・・?」

 そんなことを呟いても私の声は、雨の音と鳥の羽ばたく音でかき消されてしまいました。

・・・それからほどなくして、カタカタした揺れは収まり、私は息を一つ吐きました。

「あの・・・さっきは、ごめん。メロディー」

「いえいえ、私の方こそ何か不快な思いをさせてしまったのでしたらすみません・・・」

「その、さっきは、この()に指示を出してて・・・天候とか着陸する場所とかの。だから、私以外の声でこの子を困惑させたくなかった」

「そう、だったんですね。それは悪いことをしました。つい、何も知らなかったばかりに」

「うん・・・。『無知は(つみ)』。よく覚えとくといい・・・」

「わかりました・・・とでも私が言うと思ましたか?」

「へっ・・・どういうこと?」

「あの、もしかしなくてもプリュメーラさんって私のこと馬鹿にしてます?」

「いや、そんなつもりは。けど、嫌な思いさせたならごめん。私、ついつい余計なことまで言うくせがあるから・・・」

「そうですか・・・。でしたら今後は気をつけてくださいね、プリュメーラさん!!」

「わかってる・・・けど、それだったらメロディーも上から目線なところとか直した方がいいと思う」

「それは、できないかもですね。まぁ、とりあえずこれに関する話しは互いに忘れましょう、ね?」

「まったく都合が悪くなると・・・(略)・・・か」

「なんですか、プリュメーラさん?何か言いたいことがあるのならもう少し大きな声でお願いしま・・・」

 そのときプリュメーラさんが私の言うことを遮るかのように咳ばらいを一つして、

「メロディー・・・もう少しで、見えてくる・・・」

 と、言ってから少し経つと、まるで鳥かごを地上絵にしたかのような街が遠くにポツリと見えました。

「メロディー・・・あれが私達の住む街『クックルーポロッポーノ』。鳥と共生する人々の街っていう意味がある」

「へぇー・・・そのまんまな感じですね」

「何か、そのまんまじゃ悪い??」

「いえ、いいと思いますよ、私は。それでなんですけど、あそこにはプリュメーラさん達みたいな人が多いんですか?」

「それはだね・・・。約半数以上が私達みたいな『鳥貴族』なんだ。けど、鳥貴族にも上から下まで幅広く順位(ランク)付けしてあって私達みたいな最上級に該当するのは、ほんの一握り程度だよ」

「なるほど。それともう一つ聞きたいんですけど、あそこが『クックルーポロッポーノ』だということは『オッペゲ』も近くにあるってことですよね?」

「まぁ、比較的とはいえ、私達の街から『オッペゲ』までは約半日を目安にしておいた方がいいな」

「そうなんですね・・・」

「・・・ってか、メロディーは、あの子ブタとどこを目指してるんだ?」

「ひとまずは、『ピッギータウン』を目指していますね」

「それは、なぜだ・・・?」

 と、プリュメーラさんに聞かれたので私は、その理由を要約して説明しました。

「・・・なるほど。子ブタの母親探しか。けど、それだとたしかに不自然だな。おっと、そうこうしているうちに、もう着陸準備に入るぞ。揺れに備えてくれ・・・」

「は、はい・・・」

 私とプリュメーラさんの前方を飛んでいた鳥もとい小人の集団が地面に着陸したのを確認すると、プリュメーラさんが私に揺れに備えるようにと言ってきたのです。

・・・それからほどなくして、規則性のない小刻みな振動を身体の全部で感じているうちにプリュメーラさんと私を乗せた鳥が着陸しました。

 その後、プリュメーラさんの差し伸べてくれた手を掴んだ私が足先を地面に触れさせると、

「ついてきな・・・」

 と、言われたので彼女に付いて行きました。

・・・・・・

「ここで待ってて、メロディー」

「えぇ、わかりました。風琴さんのこと頼みますね・・・」

「任せなって。じゃあ、またあとで・・・」

 私は、彼女の言葉に頷くと大型動物専用の処置室の中へと慎重に搬入されていく全身麻酔の投与された風琴さんを見送り、外で待つこととなりました。

 それにしても、プリュメーラさんをはじめとした風琴さん搬入までの流れは息ぴったりでした。


 さて、子ブタの風琴さんが処置室に搬入されてから、どのくらいの時間が経過したでしょうか。

 正解は・・・・・・誰からも聞かれていませんが、だいたい三時間前後です。

 つまり何が言いたいのかというと、そのくらい長い時間、風琴さんはプリュメーラさんの手によって適切な処置がほどこされているということになります。

 流石の私も、これほどまで長引くとは予想もしていなかったので心配せざるを得なくなってきました。

(どうか、どうか・・・風琴さんが元気になって戻ってきてくれますように)

 私は、心の中で口には出さず祈りを捧げながら風琴さんが戻ってくるのを待ち続けます。そんなとき、

「メロディー・・・ちょっといい?」

 私は真横から誰かに名前を呼ばれたような気がしたので声の聞こえた方へと視線を向けました。

 そこには、処置室から出てきたばかりのマスクが片耳にだけ引っかかった短髪の女性、プリュメーラさんの姿がありました。

「プ、プリュメーラさん!風琴さんの様子は、どうなんですか?」

「心配する気持ちもわかるけど、その前に一つだけ教えて」

 プリュメーラさんの言葉に私がこくりと頷くと、

「メロディーは、あの子ブタに何か変なものとか食べさせてない?」

 と、聞いてきたのです。

「私が風琴さんにですか?特には、これといって食べさせてないですけど。それとこれに何か関係でもあるんですか?」

「そうなんだ。教えてくれて有りがとう。ただ、超音波検査(エコー)とかした結果、あの子ブタの胃の中から異物というか『プレシャスベリー』が摘出されて・・・それで」

「えっ・・・?!プレシャスべりー?」

 私が驚きのあまり素っ頓狂な声を出してしまうと、プリュメーラさんが無言でこくりと頷きました。

 というか、私はプリュメーラさんからその名前を聞いて驚かずにはいられませんでした。だってプレシャスベリーと言えば私達みたいな小人ならまだしも、その他の生物が口にすると早かれ遅かれ色んな副作用のような症状がもたらされることが何千件も確認されたうえ偉い機関から報告されていたから。

「そう、たしかにプレシャスベリーだった。私達の世界では、その危険性が科学的根拠(エビデンス)に基づいたものと分かった現在(いま)から四年前、『世界プレシャスベリー焼き払い運動』があって全土から根絶させたはず。けど、あの子ブタは私と出会う前にすでに口にしていた。だから私は、メロディーに念のため確認したんだ」

「そう、だとすると、誰かが違法栽培をしていてそれを誤って食べたってのは可能性的に低いし、五分前うんぬんってのを考えるとなー・・・」

 私は一人、念仏でも唱えるかのようにブツラブツラ・・・と、呟いていました。

「えー・・・っと、考えてるところ悪いけど話しを続けさせてもらうと、もしかしたらあの子ブタは私達の住む世界とは別の世界から迷い込んでしまったんじゃないのかな?そう考えればどこかの世界を仮にA(エー)として私達の世界をB(ビー)をすると、子ブタはAでプレシャスベリーを口にしてBへとやって来た。そして、頭痛が生じた。何ら不思議なことではないだろ?」

「なるほど、なるほど・・・」

 私は、出発してから最初の街でいきなり有力な情報というか、す・・・っと喉の奥へと流れていくような意見に出会えたような気しかしませんでした。けど、だとすると私と風琴さんが『ピッギータウン』へと向かう必要もなくなったのでは。

 というのも私達の世界には、ありとあらゆる世界へと通じる(ゲート)なるものが現在でも複数残っているのですが、そのうちの『人間の世界』へと通じる扉でしたら私の家から近い小川にもなぜかあることをたった今、思い出したのです。

(まぁ、風琴さんが話してくれたジロウさんの農場でしたっけ?とにかくそれが、人間達の住む世界であったら、の話しですけどね。とはいえ、これはもう私の勝利?も同然です・・・)

 私は、まだ確定したわけでもないというのに風琴さんの母親探しの旅が早速終了したような気分になっていました。

「ねぇ、メロディー・・・。なんか『やったゼ!!』みたいな顔してるけど、もしよかったらあなたのことも()てあげようか?特に脳を重点的に・・・」

「いや、なんでですか?私は、いたって平常運転ですよ。だから、診察しなくて大丈夫です!」

「ほんとかなー・・・?」

 プリュメーラさんが私のことをなぜ診察しようと思ったのかはさておき、処置室のドアが(ひら)くと、

「メロディーさ~ん・・・」

 そう叫びながら処置室の中から麻酔の作用が切れた風琴さんが勢いよく私とプリュメーラさんのいるところへと駆けてくるのが判りました。そんな風琴さんの姿は例えが悪いですが、陸地に上げられた魚が再び水の中に戻れて本来の元気を取り戻したかのようでした。

「お帰り、風琴さん。もう、頭は痛くないですか?」

「え?何を言ってるの、メロディーさん?私は、ずっと元気そのものでしたよ。というより、ここは一体何処ですか?」

「はっ・・・?!」

 私は、風琴さんのこの街に来るまでの記憶がごっそりと抜け落ちたかのような発言に驚かずにはいられませんでした。そのときプリュメーラさんが私の耳元で、

「この子ブタのことだけど、プレシャスベリーのもたらした作用を打ち消す効果のある薬品は処置の際に投与してあるから、じきに正しい記憶情報とかを取り戻すはず。けど、それまではこの通りなんだけど心配しなくていいと思う。それと、あとで子ブタの記憶とかが戻ったらメロディーの知ってること全部を話してあげて・・・」

 と、囁いてきたのです。それに対して私は、『理解した』というそぶりを示すと風琴さんの頭というより顎あたりを撫でてあげました。

・・・そして、その晩は『クックルーポロッポーノ』にある宿(やど)に泊めてもらえることになりました。


 翌朝。私は、ふっかふかの布団で目を覚まし洗面台へと向かい顔を流水で洗うことにしました。

 それにしても、昨晩の食事は美味しかったのですね。まさか焼き鳥が配膳されてくるとは思いもしませんでしたけど。きっと考えあっての提供だとは思うのですが・・・。

 それから少しして、私は普段着になると下の階へと向かいました。

「おはようございます・・・」

 そこには、風琴さんのことを治療してくれたプリュメーラさんの姿がありました。

「ねぇ、もう行くんでしょ?」

「えぇ、プリュメーラさん。昨日、伝えたように今日は扉のところに行ってみます。それと、風琴さんには昨日のうちにちゃんと伝えておきましたから。最初は戸惑ってましたけど」

「そっか。子ブタの方は、さっきそこで会ってきたばかりだけどもう大丈夫そうだね。本当によかったよ。あともう少し処置が遅れてたら今ごろどうなってたことか」

「本当に、そうですね。改めて言わせてもらいますけど昨日は有り難うございました」

「いえいえ。それでだ、これ持ってって。私からの個人的で些細な贈り物。袋の中には、メロディーと子ブタの昼食が入ってるから。そ・れ・と、もし扉を見つけて使ったとして辿り着いた場所にプレシャスベリーがあるんだろうけど、そしたらこの箱の中にむしってポイしといて。万一、私達の世界で再びプレシャスベリー騒動とかあったら嫌だし」

「わかりました、捨てときますね。それと昼食まで助かります。で、えー・・・っと、この箱のことはなんと呼べばいいですかね?」

「まぁ、四次元空間につながってる箱だから『四次元ボックス』とでも言っとけば?」

「それはまた危険なネーミングですね」

「そうかな?」

「そうです!」

「うん。とりあえず宿の外では隣りの獣舎に泊まってた子ブタも待ってるから早く行ってあげたら?」

「はい・・・!」

 私は、とても大きな声で返事をしました。それはもう、宿の窓ガラスが割れてしまうんじゃないかというほどの大声だったと思います。

 なんていうくだらない冗談はさておき、私は泊めていただいた感謝の気持ちも込めて軽く頭を下げると宿の外へと出ていきました。

 それから、私は子ブタの風琴さんの背中に乗ると風琴さんの母親探しの旅が始まったきっかけの地へと向かうことにしました。あの、お○っっこの小川とでも言っておきましょうか(笑)。

 その少し後、私と風琴さんは、プリュメーラさんと数人に見送られて『クックルーポロッポーノ』を去って行きました。また、見送ってくださった方々は皆、私達の姿が塵のように小さくなるまで手を振ってくれていたので嬉しかったです。

『メロディーの一言』

 プレシャスベリーは、とにかく危険だから見つけても食べないことですよ!食べてしまったのなら、私は知りませんから・・・・・・

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