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1:出会いと出発

 ほんのりとした陽気な日差しに照らされている私の身体は、ヌックヌクのホッカホカ。

 冬の寒さにやられてちぢこまり、これまで外に出てくることなく土の中や朽ちた木の中で引きこもっていた生物一同が蠢き出す予感のする季節。そう、現在(いま)の季節は春。

 新しい出会いがあったかと思えば大切な誰かと離ればなれになることもある四季のなかでもちょっと特別な季節。春とは、一期一会の繰り返される季節・・・。


 突然ですが、私の名前はメロディー。

「おいおい本当に突然だなー・・・」

 なんていうナンセンスな突っ込みは不要不急。いやはや、不急は余計だったかな。

 とにかく、私の名前は先に述べたようにメロディー。で、私は背丈が一〇センチにも満たない小人(こびと)とかいう種族かな。かな・・・っていう曖昧な表現をしているのは、身長が私達よりも数十倍大きい人間(ヒト)とかいう種族に勝手に名付けられただけの話しで私達KOBITO(こびと)の界隈では判然(はっきり)とした呼び名を決めてないからなんだけど・・・。

 そんなことより私は今、もの凄い光景を前にして双眸から光線(ビーム)が撃ててしまいそうな気分です。ごめんなさい、それは流石に嘘です。

(訂正すんのはっや、私・・・)

 とにかく、私は小川のほとりの茂みで息をひそめて貴重な瞬間を舐めるような視線で見守っています。 

 私が何を見守っているのかと言いますと、それは・・・ブタさんのお、お○っこです。

 なぜ、ブタさんのそれが貴重な瞬間なのかって。それは、私がこれまでに書籍でしかブタさんのそれについての図を見たことがなく実際に小川で中腰になり上流から下流に向けてしてる様を目撃したのは今日が初めてだったからです。

(それにしても、こんなところにブタさんがいるなんておかしくないですか?普通、ブタさんは『ピッギータウン』で自給自足の生活をしているはずですし、何より彼らは私達と同じように二足歩行のはずですよ?)

 そんなことを考えていると、小川のなかでご満悦な表情(かお)をしている焦げ茶色の毛に覆われたブタさんと目が、目が合ってしまったのです・・・


「だ、誰?そこにいるのは・・・?」

「ばれてしまったのなら先に名のったもん勝ち・・・ってことで、私の名前はメロディーです!」

「なにその謎ルール・・・。それより、今までの見てたよね?」

「えぇ、見させてもらいましたよ。この二つの黒い目でばっちりと」

「そうですよねー・・・って言いたいところなんだけど、あともう少しで終わるからできれば反対側を見ててくれないですか?」

「そう、頼まれましてもねー・・・。もうこの際、私のことを空気か何かだと思って無視してしちゃってくれませんか?」

「えぇー・・・。この人、めんどくさいんだけど・・・」

「ほーら、ね?」

「なんか嬉しそうなんですけど・・・ってか、もうわかったから。すればいいんでしょ?」

「えぇ。有り難うございます・・・」

(今度はなんか拝みだしたよ、この人。本当に気味が悪いんですけど・・・)

 とは思いつつも、小川のブタさんは物思いに最後の液体を絞り出すと・・・プルプルと小刻みに身体を震わせていた。

 ――私は、このときとあることに気づいてしまったのです。小川のブタさんがまだ子ブタであるという事実に。なぜなら、ブタさんのナニかが成獣のと比べてみるとまだ小さいことが判ってしまったから・・・。

 

「あの、ブタさん・・・」

 小川のブタさんがし終えたのを確認すると私は声をかけました。

「えー・・・っと、今度は何?そろそろお母様とおうちに帰らないといけないんだけど?」

「そうでしたか・・・。けど、肝心のお母さんは何処(どこ)にいるのです?さっきからあなたの周辺にいなかったと思うのですが?」

 私がそのように伝えると、ハッとした表情でブタさんが、

「えっ?!噓でしょ・・・ってほんとだ」

 と、言ったのです。

「・・・・・・」

「ねぇ今度は、だんまりなの?ねぇ・・・」

「すみません。一瞬、気を失ってましたので・・・」

「こんなときに嘘()かないでくれるかな?というか、本当に私のお母様は一体どこに行ってしまったの?」

「私に聞かれましても・・・」

「・・・あれっ?そもそもなんで、あなたは小川(ここ)にいたんだっけ?」

「それを尋ねたいのは私の方だって同じですが、私は見てくれたらわかるように山菜採りに来てました」

「そう・・・みたいだね」

「では、ブタさんこそ、ここになんで来てたんですか?まさか、お○っこのためだけに来たわけではないんでしょう?」

「そんなわけない・・・とは言えないです。水の流れる音が聞こえたのでお母様に『ちょっと行ってきます』とだけ言い残して、それで・・・」

「ふー・・・ん。まぁ、とにかくブタさんは母親と離れて迷いブタになってしまったと」

「そうみたいですね。けど、お母様に言い残してから五分と経ってないんですよ!おかしくないですか?それに、よく見なくてもあなたは私の知ってる人間とは違いますよね?」

「えぇ、私は人間ではありません。小人ですので・・・」

「こびと・・・か。よくわかんないけど、宜しくお願いします。そ・れ・よ・り、私のお母様は何処なの?」

「私に聞かれましても知らないとしか答えられません。けど、もしかしたら『ピッギータウン』にいるかもしれませんね」

「ピッギータウン?なにそれ?」

「そんなことも知らないで、よくこの小川にやって来られましたね。まぁ、一応説明しておきますけどピッギータウンとは、あなたのようなブタさん達が自給自足の生活をしている街です」

「そう、なんですか。じゃあ、そこに行けば私のお母様に会えるかもしれないんですね?」

「断言はできませんけど。もしかしたら・・・」

「じゃあ、今すぐにでも連れてってくださいよ、小人さん・・・」

「はぁー・・・。私は、小人でもメロディーです。次からはメロディーと呼んでくださいよ?」

「わかったから、メロディーさん。戻るのが遅いとお母様に心配かけちゃうから早速だけど案内してよ」

「いいですけど、先ずは私の家まで荷物とか諸々取りに行かせてくれませんか?さもないと、私、ブタさんのこと案内してあげませんよ。それと、私の家までは背中に乗せていってください(ドヤ顔・・・)」

「・・・いいですよ。お母様のもとまで連れて行ってくださるのなら」


 その後、私は乗馬ならぬ初の乗豚を終え、自宅へと荷物諸々を取りにやって来ました。

「少し待っててくださいね・・・」

「わかったから、なるだけ早くね・・・」

 私は、ブタさんに言われたようになるだけ早く支度を終えてブタさんのところへと戻ってきました。

「・・・はやかったじゃん。メロディーさん」

「私の手にかかれば、こんなものですよブタさん・・・。なんかブタさんって呼ぶのも飽きてきましたね」

「いきなり何を言い出すのかと思えば。まぁ、私もさっきから『ブタさん』呼びばっかりだと耳にタコができそうだったんですけどね・・・って私の場合は『ブタに真珠』でしたね」

「・・・・・・」

「ねぇ、なんでまただんまりキめるんですか?言ってる私が恥ずかしくなるでしょうに・・・」

「えー・・・っとなんの話しでしたっけ?そうだ、そうでした。ブタさんの名前でしたね。ブタさんは、ここに来る前、どんなふうに呼ばれてたんですか?」

「・・・その前に、今、あからさまに私のこと無視しましたよね?」

「しましたよ。ブタさんが何を言っているのか意味がわからなかったので・・・」

「はぁー・・・まったくですよ。それと私は、お母様からなぜか『みたらし』って呼ばれてましたけど」

「みたらし・・・ですか。たしか人間の食べ物か何かでしたっけ?とにかく、今日からしばらくの間は、あなたのことを『風琴(オルガン)』と呼ばせていただきますね」

「えっ?!みたらしじゃなくて風琴!?なんで、また・・・」

「私がメロディーで、ブタさんだけ『みたらし』じゃ変じゃないですか。だからです。今日からしばし宜しくお願いしますね、風琴さん・・・」

「お母様に会えたらメロディーさんのしてきたこと全部、言ってやりますからね」

「わかりましたから。もう一度、背中に乗せてくださいよ・・・」

「はぁ、どうぞ・・・」

「有り難うございます・・・。では、南方へと向かって出発進行ー・・・」

「いえっさー・・・」

 私、メロディーと子豚の風琴。一人と一匹の母親探しの旅が今、始まりました・・・・・・。

『メロディーの一言』

 この世界には人間がいないのですが、人間達の住む世界にも私達みたいな小人は何人かいるみたいで彼らは気に入った人間にしか自分達の姿を見せてあげないみたいです・・・・・・

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