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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
95/162

【95】ユーリが覚醒したらしい


「フリーメイドカンパニーの山岸紗絵です。お邪魔いたします。」

「あ、どうぞ。お久しぶりです。」



部屋のドアを開けて、紗絵さんを中に入れたはいいけど…


(今のゴチャついた現状をどう説明したらいいか、全く思いつかなかったよ!エレベーター来るの早いよ!うぇーい…)




「あらっ…お友達がいらしてるんですね。」


紗絵さんは鋭かった。

玄関の靴を見て、気づいたようだ。


「はい…昨夜、家飲みしちゃいまして、また部屋がグチャってるんですよ。ごめんなさい。」

「いいんですよ。それをキレイにするのが、私達家事代行の仕事なんですから。」


ウフッと微笑んだ紗絵さんは、なんだか通常の3倍イキイキしている。



彼女は、声をひそめてこそっと聞いてきた。


「前に…いらしてたお友達、でしょうか?それとも別の殿方…?」


殿方ってどんなんだ。

なんか変な気を使われてる…?


「前にいた背の高い奴です。掃除の邪魔になりますよね…部屋から出てもらいましょうか」

「いえそんな!大丈夫ですよ。ご心配なさらずお過ごしくださいね。ウフッ」



紗絵さんは、リビングに入ってくるとトマジューを飲んでる福田に会釈した。


「お食事中だったんですね、申し訳ありません。では、別のお部屋の方からお掃除させていただきますね。」


そう言うと、紗絵さんは奥のベッドルームの扉を開けた。が、

 


カッチーン…


彼女の体が固まった音がした。


え?なに?俺の寝室、なんかあった?!


メチャクチャ気になったので、紗絵さんの横を通り、寝室に入ってみると──



川口が、俺のベッドで寝ていた。

 


─こいつ、俺と福田が酔いつぶれて寝てる間に帰ってきて、寝る場所ないからここで寝たんだな。



いや、奴が寝てるってだけなら、以前も紗絵さんが来た時同じようなことがあったかじゃないか?と一瞬思ったが─



「き…筋肉…?」


え?きんにく?



人のベッドで図々しくもピチピチのTシャツ姿で大の字になって寝ている、川口の姿をもう一度見てみる。



あっ、以前紗絵さんと会ったのはちょうど一ヶ月前くらいだったと思うけど─


川口の体は、今みたいなドラゴンボール的モリモリのゴリゴリボディじゃあなかった。


筋肉増強のアンクレットをつけたままでいるので、紗絵さんから見たら、ありえないほど急激に体が仕上がった奴になってしまっているのか…!



「前にお会いした殿方…ですよね?え?失礼ですが、こういう体格でいらっしゃいましたっけ─」

「アハハ、えっと、そうですよ!更に鍛えてあの時よりパンプアップしたみたいですが。」

「でも、一ヶ月でこんなボリュームに─?」


訝しそうな顔をしている。

ま、まずい。


「も、もともと結構バキバキだったんですよ!ほら、前に会った時はパーカーだったからわかりにくかったけど、脱ぐとすごいって奴ですかね…」


「脱ぐとすごい。」


紗絵さんの頬がポッと赤くなった。



よし、よくわからんけどなんとか誤魔化せた気がするぞ…!


「っとりあえず、風呂場とかそっちの水回りや廊下からお願いします…!あーっと、廊下の途中にある部屋は、たてこんでるので入らないでくださいね!」



ユーリの部屋に入られると尚更ややこしいので、もうこの際理由は適当でいいから、兎に角入らないでおいてもらう事にしよう。




紗絵さんが仕事を始め、川口が起きて余り物をつまみながら福田と一緒にゲームを始めたようなので、ひと安心。

俺は書斎に入ると、隣りのエイヴの家にいるであろうユーリに現状を伝えるために電話をかけた。



出ない。

音を切ってるのだろうか?



「福田、川口、俺ちょっと隣の家訪ねてくるから、紗絵さんのことよろしくたのむ。」

「うん、要するに、掃除して料理作ってもらえばいいんだよね〜?」

「そう、で、ユーリの部屋と金庫のあるウォークインクローゼットには入らないでいてもらう、と。」

「おっけーい。」

「ウム。冷蔵庫の中のものなんか食っていいか?」

「いいよ。紗絵さんに何か作ってもらってもいいし。じゃ、ちょっと行ってくる。」

「オウ。」




ピンポーン。



隣の1502号室の呼び鈴を鳴らす。



暫くすると、エイヴが扉を開けてくれた。


「おや、どうしたんだい?渚。聖女様なら中にいるよ。」

「あ、ハイ。ちょっと話しておきたいことがあって…お邪魔してもいいですか?」

「どうぞ。靴のままで。」



─土足でマンションにあがるの、やっぱ慣れないなあ…。


まあでもそのほうが、前みたいに異世界に飛ぶとき裸足じゃないから便利か。


なろうの小説でもたまにみかけるが、日本人だと家の中から異世界転移する時、どうしても靴無しの状態になってしまうもんね。



「ユーリ、いま家事代行の人が来ていてさあ…」


俺はユーリに話しかけながらリビングに入り、ふと、なにか違和感を感じた。



「ユーリ…?」



エイヴの家のリビングは、相変わらず床一面に魔法陣が描いてあるだけの不思議な部屋。



その真ん中に膝を付き、ユーリは祈っていた。


体の周りを金色の光が包み、神々しい雰囲気を放っている。



「彼女に、聖女ユーコの手記を読ませたそうだね。」


背後から、しっとりとした女性の声が聞こえた。


振り返るとエイヴが、女性の──魔導師イブの姿に変身している。


「あれは素晴らしい記録だ。これで聖女の『記憶』は7割方戻った。」

「やっぱりユーリの言った通り、手記の記録、彼女の成長に有効だったんですか。」

「ああ、あれを使えば、勇者の覚醒もかなり早めることができるだろう。」



ユーリが、祈りをやめてゆっくりと顔を起こす。


その顔は、凛々しくも慈愛に溢れた聖女のオーラに満ちている。

こういうのを、聖なるオーラというのだろう。



朝までのユーリとは違う。


俺はオーラにあてられて、跪きたくなる気持ちをこらえていた。



─彼女は、とうとう聖女として覚醒したのか…?


ユーリが、ユーリじゃなくなってしまうのだろうか──

 


「渚──わたし、」



聖女が、口を開く。




「私っ、レベル20になったのーーー!!チートレベルの爆上がりよーー!すごくない?!ねえ!」



─彼女は、テンアゲしていた。

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