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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
94/162

【94】二日酔いも瞬時に治るらしい


うーぅぅぅ…

 

頭が痛い…。

胃も重い…。


完全に二日酔いだ。

福田と一緒に、調子に乗って飲みすぎた。


そうだ、あいつは一定以上酔いが回るとつぶれるまで止まらなくなるタイプなんだった。

 


ふ、と見ると福田がソファの大部分を占領して眠っていた。

悪気があるわけじゃない。単に体が長いのだ。


俺はL字型ソファの部分の隅っこで、猫みたいに丸くなって寝てたようなので、首や背中がギシギシ痛い。



ユーリは…


あれ?布団だけフローリングの床に転がってる。

自分の部屋に行ってるのかな?



ガチャ


書斎の扉が開く音。


「あっ、目が覚めたのね、渚。」


ペットボトルのお茶を片手に、ユーリがリビングへ入ってきた。


「渚のパソコンの横においてあった古いノートパソコン、聖女と勇者が生前使ってたやつよね?」


古いノートパソコン。

実家の、親の店から持ってきたやつだ。


「ああ、そうだよ。親が使ってたやつ…頭の中の『記憶』に刻まれていたのか?」

「ええ。朝早く起きてしまったから、聖女の手記を読んでいたわ。」


あ、そうか。

知っているものかとばかり思ってて、ユーリに見せてなかったっけ。



ノーパソには、勇者と聖女がそれぞれ旅の記録を書いた手記が入っている。

それを俺が小説の形にして、なろうに毎日投稿していたのだ。


最近、異世界のことが忙しくて、毎日は無理になっている。

2日に一回できればいいほう…って感じだ。


そこそこ読んでくれる人がついてきてたのに、なんだか申し訳ない話だが──



「小説版のほうは、まだ全体の三分の1くらいしか書けてないんだ。なんか、実際に異世界に行くようになったら、想像だけで書いてた時と違って難しくなっちゃって…」


ここはリアリティがもっとないととか、実際はこんなのじゃなかったとか、余計な自己添削が入っちゃって、ペンが進まないのだ。



「私…続き、書こうか?」


え?


「ユーリが、なろう小説を?」

「私の中の『記憶』と照らし合わせながら書いたら、きっと書けると思う。異世界の暮らしぶりとか、渚よりわかってる筈だから…。」



異世界の人が異世界のことを書く、って…


これはある意味「逆ローファンタジー」なのだろうか…?


「渚が色々発注したり、翻訳の仕事で働いたりしてる間、私もなにかしておきたいのよ。それに─」


それに…?


「─聖女の物語に触れていると、なんだかどんどん思い出せていくというか、体の奥から魔力が漲ってくる感じがするの…。」



へえ…それはいいな。

母さんの『記憶』が開きやすい状況になるのかもしれない。



俺は一つ思いついたことがあったので、試してみようと思う。


「ね、ユーリ。俺いまけっこう二日酔いが酷いんだけど、治癒してくれたりできる?」

「え?うん、いいわよ。」


ユーリが俺に手をかざすと、シュンッ…と水が通り抜けて行くような感覚があって、瞬時に気分爽快になった。


二日酔いじゃなくなる、を通り越して気分爽快だ。こんなに体内がスッキリしてるのは子供の頃以来かもしれない…!


「なんか、治癒力プラスアルファされてる気がするね。」

「やっぱりそう思う?私もなんだか…力が溢れてきて…」


ユーリはキラキラした目で、自分の両の手のひらを見つめた。


「福田でも試してみようよ。おい、福田〜、そろそろ起きろよ。」



福田は、ソファの上で煮込んだ長ナスのようになっていた。

くてんと力無く、長細い。


「み…水…ギボヂ悪いぃ〜…部屋が回るう」


俺よりひどい二日酔いになってるようだ。



ユーリが福田に手を差し伸べると、彼の目がパチっと開き、ソファの上にシャキンと起き上がった。


「なにいま!ミントの水みたいな気持ちいい感覚が体の中通っていった〜!」

「二日酔い、治ったか?」

「治った治ったあ!これユーリちゃんの力?すごいねぇ」


ユーリはガッツポーズをした。


「私…私どうしよう、いま…レベルも上がってるかもしれない。───ちょっと、イブさんに聞きたいことあるので、お隣行ってくる…!」

「えっ?あ、うん。」


彼女はダーッと駆け出して玄関に向かい、キュッと引き返して戻ってきては書斎に入って、ノートパソコンを小脇に抱えて再び玄関へと走った。


「ついでにこの手記も見せてくるわね!」



バタン。


「行っちゃったねえ、隣の部屋に…」

「うん…。」

「とりあえずさぁ、なんか食べよっかあ…」

「うん。」


ふたりともユーリのおかげで体がしゃっきりしたので、起き出して冷蔵庫に入ってるものを物色しはじめた。



トルティアチップスと、レンチンでトロトロになるチーズ。

高リコピンのトマトジュース。

生ハム。



「んー、なんか酒のツマミっぽいよねえ…」

「まあ、いいんじゃないか。レンチンしよレンチン。」


福田とソファで隣り合いながら、レンジで溶かしたチーズにトルティアチップスをつけて食べていたとき─



ピンポーン



インターホンの音。


出ると、家事代行サービスの紗絵さんが一階のエントランスロビー入り口に立ってる姿が、画面に映し出された。



忘れてた。

先週は旅行だから休んでもらったけど、今週は普通にあるんだった。


(まあ、紗絵さんへのお土産も買ってきてあることだし、ちょうど渡せるかな…。)



「いま開けまーす。」


俺はエントランスホールへのロックを開けるボタンを押し、紗絵さんをマンションの中に入れた。



振り返ると、飲んでグシャグシャなリビングルーム。

布団も転がってる。



─あー…なんでこんな日に限って、いつも紗絵さんデーなのかな。だらしない奴だって思われそうだよ。


あっ…

ユーリの部屋とか、どう説明すればいいのか考えてなかった。

本人は今、ちょうどいないけど──


ど、どうしよう?!

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