【88】美白マスクが売れるらしい
俺たち4人は車で新宿に向かい、まず南口のドンキを見てまわることにした。
「あっ…ペンギンくん」
店舗の入口にド○ペンくんのイラストが描かれてあるのを見て、ユーリが呟いた。
下の階がパチスロ店で、3階から上が店舗になっている。
「歌舞伎町店じゃなくてこっちなんだね〜?」
「うん、電化製品わりとあるし…あと、歌舞伎町は福田が前にバイトしてたから、気まずいかと思って。」
「アハハッ、その通り。気ぃ使ってくれてありがとぉ」
彼は笑って、頭をくしゃくしゃ掻いた。
「物の量がすごいわね、このお店…!恵比寿や表参道で連れて行ってもらった洋服屋さんとは、全然違う世界みたいだわ。」
ユーリが物珍しそうに、あたりの商品を手に取ったり、店員の書いた説明ポップを読んだりしている。
「賑やかで、全部が全部大安売りセールしてるみたいな雰囲気あるわ。」
「そこがポイントなんだよ。」
俺は近くにあったフェイスパックの詰め合わせを一箱、手に取った。
「ドラッグストアやAmazonとかの通販に比べてハチャメチャに安いっていう程じゃなくても、なんだか物凄く安いような気分になる。そうして、来た客は今買わないと損なような気持ちになるんだ。」
「ウム、わかるぞ。このお祭りみたいな雑然とした感じが、折角だからなんか買っていこうという気を起こさせるんだな。」
ユーリは、なにか考えているようだ。
『記憶』の中の、日本人としての前世の価値観を呼び覚ましているのかもしれない。
「それ、なに?渚が持ってるの…」
彼女は、俺の手の中の箱が気になったようだ。
「これはシートマスクだよ。美容に良い液体を染み込ませてあるシートを、顔に貼り付けて使うタイプのパック。」
「肌がきれいになるのね。ちゃんと目や口のところが丸く切られて、穴が開いてる。」
「オレ使ってるよ〜、風呂入った後。」
福田が誇らしげに言ってきた。
マジか。美容を気にするタイプだったんだな、こいつ。
「男の美容系youtuberいるじゃん、美容師とかホストとか…その真似してみてるんだよ〜。すね毛もツルツルだよ。」
「えーっ、すご!か、川口はまさかしてないよ…な…?」
「ウム、シートマスクは初めて見たぞ」
ホッ…安心した。安定の川口だ。
何もやってないの俺だけかと思った─
「しかし脱毛はしてるぞ。毛深いからな。」
エーーーっ!!
今日イチびっくりした。
魔王の存在聞いた時よりびっくりした。
「あの、服なんて黒くて布ならいいって言ってる川口が─。」
「おう、服は黒くて布ならいいぞ。」
「………。」
俺もなんかやらなきゃ駄目かな…
今年の夏は腹出しすることだし(商人衣装だけど)
「ユーリちゃん、異世界にもある?こーいうの。」
福田が、シートマスク30枚入りの箱を手に聞いてきた。
30枚で1500円。美白効果と濃密美容液入り…と書いてある。
「いえ、初めて見たわ。美白って、肌が白くなる効果でしょう?いいわねこれ、私の国で売ったらどの街でもものすごく売れると思う…。」
「こういうの、興味あるんだ?異世界の人。」
「バザルモア王国では、素肌を白く、綺麗に保つことに関しては男も女も興味が高いのよ。若く見えるし、なんといってもモテるから…」
へえー!そういう価値観なんだ。
男もだなんて、驚いたな。
日本の美容意識より進んでるのかなあ。
─こっちの電化製品を売ったりはできないけど、シートマスクなら紙だし、入れ物を工夫すれば異世界でも売れるかもしれないな。
30枚入りで1000円を切ってるものや、10枚入り、3枚入りなどもある。
買い占めちゃうといけないから各種2つずつ買っておいて、あとはAmazonで注文だ。
店内を見て回った結果、ユーリが「異世界でも売れるかもしれない」と興味を示したのは─
美白系の美容アイテム全般、
布マスク、
布製のサンバイザー、
バナナを吊るすスタンド、
Tバックの下着(男女どちらも)
「「「Tバックの下着…?」」」
俺たち三人が疑問の声を出したら、ユーリはどこがおかしいの?とばかりに
「伸び縮みする布はあるけど、この発想はなかったわ。涼しいだろうし、これは流行るわ!」
下着売り場で、パンツを手にウキウキしている。
「特に男性用のはすごい、よくできているわ!立体的に縫ってあって、こんなの売ってる店ないわよ。」
まあ、日本でもそんなに、どこででもあるものじゃないけど…男のTバックパンツは。
種類豊富に選べるのは、ドンキだからこそかもしれない。
「見て!これ、すごい工夫だわ。前の部分が象の形をしてる!男性用なのに、こんなに可愛いデザインで─」
ぞうさんの男性用Tバックを握りしめて歓喜する少女。
横を見ると川口と福田が─あ!三足千円の靴下を見て、他人のふりしてる─!ずりいぞ。
「よし、ユーリ、その手に持ってるやつはこの買い物カゴに入れよう。な?」
Tバックをいくつか見繕って、男女どちらのぶんもカゴに入れた。
俺は一瞬、ホテル・タラートの支配人がTバックを履いてる図が頭によぎったが、なんとか打ち消した。
─これの存在を知ったら、イブも履くのかな…?
…うん、ぜひとも流行って欲しい。協力しよう。
サンバイザーやバナナを吊るすやつは、南国だからなるほどなと言う感じだ。
(バナナを吊るすのなんて、バザルモアならありそうな感じするけど、意外とないんだな。)
ユーリは、電化製品コーナーを見て、種類の多さに感心しているようだった。
「沖縄のホテルや、渚のうちにあるのもこちらの世界版の魔道具なのよね。これは、知ってるわ。」
俺たちは、気になるものを一通り買ったあと、ドンキを出て駅ビルであるルミネエストに移動した。
5階にある、ポップカルチャー感満載の本と雑貨を売ってる店・ビレッジヴァンガード、通称「ビレバン」。
ここもやはり、ドンキのように所狭し型のぎっしりタイプの商品展示スタイルだ。
店員が商品の説明を、サブカルチャー心を刺激する面白い文で書いた黄色いポップが、いろいろな商品につけられている。
読んでるだけでも楽しいと、ユーリが興味津々な顔つきで一つ一つを見ている。
前世である母さんの─聖女の『記憶』にもない店だから、なにもかもが物珍しいのだろう。
サブカル度の高いの変わった雑貨やジョークグッズなんかを順に見ていたら、川口が腹が減ってたまらなくなってきたようなので、レストランフロアで飯を食おうという話になった。
ユーリの店の商品に混ぜて、なにを売れば街の人の目を引けるかなんとなく見えてきたので、みんなで食事をしながらこれからの予定を話すことにしよう─。




