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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
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【86】異世界で激安の殿堂を作ろう


ユーリの店は、数々の魔道具が陳列してあった。



爆発した工房から運び込まれた、無事だった道具も所狭しと積んであり、とにかく使える魔道具を、「避難させる」ので精一杯というところに見えた。



「実は、ね。この店を買い取りたいって人がいてね…」


ユーリは伏し目がちに話し始めた。


「爆発で評判の悪くなった店を、15歳の子が一人で経営して行くのは無理だろうし、商品ごと家屋を売ってお金にしてしまったほうがいいんじゃないかって勧められて。」



聞けば、勧めてきているのは各地に支店を持つ、よその街の有力な道具屋だという。


うーん、隙をついて利権を取ろうというやり方は嫌だが、言ってる事は一理ある。


どのみちユーリには『聖女』としての使命があるから、いずれ戦いに出なければいけない訳だし─。



俺になにかできることはないかな?と思い、とりあえず売り物の確認をさせてもらおうと思った。


「ユーリの店で売ってるもの、見せてもらってもいい?」

「もちろんいいわよ。」



ひととおり商品の紹介をしてもらったが、生活魔法のある人しか動かせないものか魔石を使う品物ばかりなので、どちらも日本で売ることはできない。


その上内容も、コンロやドライヤー、扇風機、冷蔵庫、湯沸かしなど、別に日本で十分手に入るような物ばかりだ。

単に、原動力が電気やガスか、魔力かの違いなだけ。


─でも、あって当たり前と思って生きてるだけで、考えてみりゃ電気だって魔法みたいなもんだよな。


そう考えると、この世界の魔力のある人は自分から電気を発電できるようなものだから、俺達の世界よりもすごくエコなのかもしれない。




「ん…?ユーリよ、これはなんだ?」


イブが、隅に置いてあった箱を開いて不思議そうな顔をしている。


見ると、その箱には鳥の人形が入っていた。


なんの鳥かはわからないが、丸に近いような太っちょの青い鳥だ。

極端にディフォルメしたペンギンみたいに見える。

ガラス玉の大きな目が妙にくっきりして、その下には黄色くて平べったいクチバシがついている。



「…ド○ペンくん…?」


心によぎったキャラクターの名前が、素直に口を通って出てしまう。

イブが、不審な顔をしてこちらを見た。


「誰だ?それは。」

「えーっと…鳥の名前です。」



ユーリが近寄ってきて、人形を手に取った。


「これは魔力探知機よ。誰からどうやって親が買い取ったのかよくわからないけど、売れ残ったままなの。」


魔力探知機──

使いようによっては軍事に使ったりもできそうな気がするけど、民間だと使い道がわかりにくいのかな?


「お尻の下にスイッチがあるんだけど…。」


彼女が尻の下にあるらしきツマミをひねると、ピカーッ!と、イブにむかって目から光を放った。

プロジェクターや車のライトみたいな強い光だ。


慌ててユーリが人形の向きを変えると、グルン!と首だけ回転し、イブの方を向いて光を照らしてくる。

エクソシスト的でちょっとキモイ。


「わっ、こんなふうに激しく光ってるの、初めて見ました…!イブさんの魔力が強いからですね。」



そうか、そういうことか。


魔力が強い人の方を向いて光り、強ければ強いほど激しく光る。

そういう探知の仕方なんだな。



「待てよ…これはもしかして─」


人のふりをしている魔の者や、勇者パーティーに相応しい魔力を持った人材を見つけるのに使えるんじゃないか?


どこに転生したかわからない勇者を見つけるのにも、使えるかもしれない。

(勇者がレベルアップするまでは無反応かもしれないけど…)



「ユーリ、それいくら?」

「金貨30枚。高いでしょ。理由は親が知ってるんだろうけど、もういないから…」


日本円で300万円か。

バザルモアの価格相場なら、3千万円くらいの価値だろう。家が買える額だ。


─確かに、庶民が遊びでヒョイヒョイ買う金額じゃあないな。


「よし!買った!!」

「え?!本気なの?渚!」



俺は、スキルの異世界保有資産両替を発動させて、恵比寿の金庫のお金から300万円分を金貨に変えた。


30枚の金貨を、机の上に積む。



「なるほど──人材探しの為に使うというわけだな、渚よ。」


イブはピンときたらしい。


「はい、勇者も早く見つけたいですし、危険回避もできると思いますからね。」

「危険回避か…それは必要だな。私くらいの魔力のものが現れたとしたら、それが敵である限り、確実に災厄となるだろう。」



ユーリは店のカウンターの中から小さな皮袋を出して、そこに金貨をしまった。


「私、このお金だけでいいわ。あとはお店と土地の権利書ごと、買い取りたい業者に売ってしまおうと思うの。」


彼女は、ちょっと寂しそうな顔をしていた。



ユーリ・マルベリーズは、本来なら死んでいる。

聖女の魂が半分入りこんだことによって奇跡的に生き返った形になったが、彼女の親も、生まれるはずだったきょうだいも、爆発事故で亡くなっている。


これでこの家を手放してしまったら、彼女が生きていた足跡は、この世でなにもなくなってしまうんだ──。



「いや、全てを売り渡すのは勿体ないよ、ユーリ。」

「渚……?」

「君の中には母さん…聖女の『記憶』が入ってるかもしれないけど、この家にはユーリという人の『記憶』がたくさん、詰まってるはずだ。君や親御さんの私物だって、沢山あるんだろ?」


彼女は、コクリと頷いた。


「一度売り渡してしまったら、再度この土地を手に入れるのは難しくなるよ。壊れた所を修復して、住居として残しておけばいいんじゃないか?」

「でも、そうするには家中商品の在庫だらけで…」


俺たちは、店舗に置かれている商品群を見渡した。

とにかく品数が多い。

おそらく倉庫や二階にも、まだ商品は残ってる事だろう。



「爆発事故で街の人の印象が悪くなってるから、このまま普通に開店しても来てもらいにくいと思うわ。ただでさえ魔道具は高価だから、少し値引きしたとしても雑貨のように気楽に買ってはもらえないものだし…。」



俺はピンとひらめいた。


タグづけや看板、一緒に売る安物商品による印象操作で、来た人に「とにかく激安!」の印象をすり込めば、少し値引きをした程度の高い家電も「安くて気楽に買えるもの」のフリができるんじゃないか?



テーブルに置かれた太っちょのペンギンみたいな鳥を見つめながら、俺は「魔道具屋マルベリーズ 在庫売り切り安さの殿堂大作戦」の計画を練った──

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