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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
85/162

【85】異世界の大きな街・チェマ


しばらく進むと、茶屋のようなものが見えてきた。

無人だが、なにか食うための椅子と机、ゴロ寝するスペースと井戸、そしてトイレはあった。


─高速道路のパーキングエリアみたいなものかな。


馬車の旅だと、ここで休憩するんだろう。

トイレに行きたくなったので車を停める。


福田と川口はスマホで写真を撮ったり、物珍しそうに建物を見て回ったりしている。


女性二人は大して珍しくないからか、椅子に座ってゆっくりしてるので、ポケットからペットボトルのミネラル麦茶を出して渡しておいた。

もちろん、恵比寿のマンションの冷蔵庫に入っていたものだ。



さて、トイレだが─


建物の裏手にあり、一応個室にはなっているものの、海の家にある簡易脱衣場みたいな簡単な作りで、床に穴だけ空いているボットン式だ。

小さい頃、東北に家族旅行したとき、立ち寄った店のトイレで経験したことはあるが、あまり慣れてない。


「日本のボットンと違って便器部分がないから、足を滑らせるのがスゲー恐いな…下が見えない。」


その上、水で尻を洗うシステムだからか、周囲が結構汚れている…。

水を汲んだ桶も、茶色く濁って触りたくもなかった。


俺はそ〜っと用をたし、つま先立ちで個室から出た。

手は、感染症騒ぎの時に買ったアルコール消毒液を出して、シュッシュしておく。



みんなのところに戻ると、イブが


「浮かない顔をしているな。現代日本人の君には、トイレがちょっとキツかったのではないか?」


と言ってきたので、素直にハイと答えた。


「浄化」


そう言ってユーリが、俺に向かって手を差し伸べると、一瞬、俺の体表がホワッと光り、皮膚がなんだかサラサラした感じになった。


「これで皮膚全体がきれいになったはずよ」

「へえーっ、便利…!これも生活魔法ってやつなのか?」

「そう。こういうのくらいはできるわ。」

「すっげ。火とかも出せるんだよね?」

「コンロや焚き火に点火するくらいのだけどね。あとは土を少し柔らかくして穴を掘りやすくするとか、その程度よ。」

「水は出せないの?」

「出せないの。その代わりの浄化なんだけど…飲み水はないから、こういうのは助かるわ」


そう言ってユーリは、俺の渡したペットボトルを手に持って微笑んだ。


「初めてあった時も、とても救われたもの」

「熱中症で気を失いそうなところを、持ち歩いていたペットボトルで助けたらしいな、渚が。ユーリに聞いたぞ。」


イブがそう言って、麦茶を飲んだ。


「その上、金貨を渡して追手の少年を追い払ったそうじゃないか。そういった行為が、商人力となって積み重ねられていくのだ。」

「なるほど…」



外から川口と福田が入ってきて、飲み物をほしいほしいと言うので、彼らにはポケットから生茶のペットボトルを出して渡した。


─麦茶はもう品切れ。ペットボトルもそんなにたくさん買い置きがあるわけじゃないから……Amazonとかで箱買いしたのを家にたくさん置いておいたら、異世界から取り出すとき用の備蓄になるな。


他にも食べ物とか、トイペ、ボディシャンプー、ウェットティッシュ、タオル…異世界で咄嗟のときに便利なものは、ひと通りストックしておいたらいいだろう。

殺虫剤や防虫スプレーもいるかもしれないな。

氷も、冷凍庫に沢山入れておいたほうがいいのかもしれないぞ。


─そうか、こういうのも商人力なのかもしれない



自分が異世界で、どういう立ち回りをすればいいのか少し見えてきた気がした。




休憩もすんだことだし、車で進む。

(ちなみに、川口と福田もトイレを済ませたあと、ユーリに浄化の魔法をかけてもらってビックリしていた。)



計3時間くらいかかったろうか?

道の向こうに大きな城壁が見えてきた。


ゆっくりなスピードだったからそれくらいかかったけど、舗装されてる車道だったらおそらくこの半分かそれ以下の時間で到着できたと思う。



城壁の門の前は広場っぽくなっていて、流石に人がいくらかいたので、それより手前に車を停めてポケットにしまった。


門を通るとき、門番からさっきのあれはなんだと聞かれたので、イブがタラートの町のときと同じ説明をしてくれた。



「ここが私の街・チェマよ、渚。みんなも、ようこそ!」


ユーリが少しウキウキした雰囲気で、俺達の方を振り返って腕を開いた。


「私の家、いまは営業を閉じてるの。爆発事故のあと、あまり修復できてないからボロボロなのよ。」



俺たちは、ユーリについて大通りを歩いていく。


タラートの町は屋台ばかりの市場だったが、チェマはちゃんとした路面型店舗になっている店ばかりだ。

二階建ての建物もたまにあり、食堂やホテルもある。


屋台も屋台であって、食べ物や飲み物の店がかたまってフードコート状になっている広場もあった。

屋台では、食べ物だけじゃなく不思議な薬品やアクセサリー、動物の皮なんかも売っている。


店舗型の店の中には武器屋や防具屋もあり、表からは見えないが奥からカンコンという鍛冶の音が聞こえてくるので、工房になってるんだろう。


ファンタジーゲーム好きの川口は、大興奮してキョロキョロ見回している。

今にも短剣のひとふりくらい、衝動買いしてしまいそうだ。


「この辺の店のつくりはね、表で物を売って裏が工房や調理場になってるの。うちもそうだったんだけど、爆発で工房が壊れちゃったのよ。」



しばらく歩いて道を曲がったところに、ランプの絵の描いた看板を掲げている店があった。


店の扉は閉じて、窓も木板の雨戸のようなものが閉まっている。


「ここよ!私の家。」


ユーリが扉に手を当てると、ガチャリと音が鳴って鍵が外れ、扉が開いた。



「魔道具屋マルベリーズへようこそ!」

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