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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
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【84】異世界でドライブ!


「えっ?今から馬車で……?!」



ユーリの家がある街まで一日はかかるというが…馬車で一日がかりって、どれくらいの距離なんだろう?


「ん〜、それも面白そうではあるけどさぁ、渚のポケットで車出せるんじゃね〜?」

 


そうだった。


マンションの駐車場に入れてある俺の都市型コンパクトSUVの4WD、ヤリスクロス。

都市型、というけどオフロードでもいける機能がついていたはずだ。



「ユーリ、君の家に行ってみようか。久しぶりに帰って、お店の事をどうにかしたいだろう?」

「えっ、みんなで一緒に来てくれるの?」


ユーリは大きな笑顔を見せた。

嬉しくてたまらないといった感じだ。


なんだかんだ一人で、寂しかったんだろう。


「話は聞いていたぞ。早速、渚の商人力を見せてもらう場面が出たかな?」


振り返ると、イブが腕を組んでニッコリしている。


福田はワクワク顔で、川口は俺が両替してやった銀貨で、どこかの屋台で鶏の串焼きみたいなものを買ってきて、ガツガツと食っていた。


「やってみます。なあに、ヤバくなったら日本に飛んじゃえばいいですしね。」



俺は、革細工屋のおじさんに、大きな街へ向かう道はどこから出ればいいかを聞いた。


「この道の先の十字路を左に曲がると門が見えてくる。そこから出ると馬車乗り場だ。」

「有難うございます!」


おじさんに頭を下げて、俺たちは門へと向かった。


もちろん馬車乗り場には行かない。

車を出すのだ。




門を越えて見ると、舗装されていない道が真っすぐに続いている。

タラートの町は壁に囲まれていて、門の左右にはクルタの上から皮の胸当てをつけた門番がいた。


退屈そうに、あくびをしながら槍を持って立っている。


─この辺は、あまり魔物や盗賊は来ないんだろうな。特に昼間は…。



門から真っ直ぐ伸びる道の左は草むら。その奥は南国らしい木々がジャングルっぽくみっしり生えている。


道の右側は草原になっていて、少し先に、道と平行して川が流れているのが見える。


川は海へと流れ込んでいて、海辺にも壁に囲まれていている地帯が見えた。


─あれが「波止場」と呼ばれてたエリアかな。


タラートの市場通りがあるエリアとの間に川が通っているため、石造りの橋がかけられているのが遠くに見える。



俺たちの進む先は、タラートの町や海を背にして真っすぐ先にあるという、「大きな街」だ。


人通りや馬車がぞろぞろいたらどうしようと思っていたが、ほとんどいない。

たまにポツリ、ポツリと歩いてる人がいるのが見えるくらいだ。


乗合馬車も客を待っているようで、動いていない。


「このあたりの商人が荷物を運ぶときは、川を使うことが多いの。だから、道は案外空いてるのよ。」


ズザーっという音がするなと思ったら、乗合ボートに人が何人も乗り、川を進んでいっていた。


「あれっ、速いな。モーターボートがあるの?」

「あれはボートに魔道具をつけて、操舵のスキルがある人が運転してるの。馬車より早いわ。」


ユリアが説明してくれた。


─東南アジアの運河ボートや水上バスみたいな感じか。テレビで見たことあるな。


とにかく、ガソリンや電気のかわりに、魔道具を使っているんだな。



俺は門から出た少し広くなってる所で、車を出した。



門番が驚いて走り寄ってきた。

咎めようというよりは、ナンダナンダと好奇心をむけた表情をしている。


イブが、大魔導師である自分が商人とともに新しい魔道具を試している、と説明してくれたようだ。


門番たちは、口々に「すごい時代になったなあ」とか「乗ってみたいぜ」と言っている。

よし、大丈夫そうだな。



俺は安心して運転席に乗り込み、助手席に道案内のできるユーリを乗せた。

他の3人は、後部座席だ。



土の道で走らせるのは初めてだが、地面は硬く、砂埃こそあげど大きな問題なく進められた。


時折凸凹している所で後輪が空回りしかけると、「ROCK&DiRT」というモードに変えて、切り抜けられる。


ちなみに泥濘んでたり砂地だったりしてスタックしそうになったら「MUD&SAND」というモードで抜け出られる。


「ヒュ〜、便利だね〜!この車。」


福田が口笛を吹いた。


「道がこれだから、あまりスピードは出せないけどね。たまーに、人も歩いてるし。」

「乗合馬車より物凄く早いし、舌を噛みそうなくらいガタガタ揺れたりしないから、とても快適だわ。」

 

時折、兎や野ネズミみたいな動物を見かけるが、サッと草むらに隠れてくれる。

大きな動物だと思っているのかどうかはわからないが、本能的に、車を怖がっているようだ。


かなり草むらが減ってジャングルが左側に迫ってきても、魔物も出てこない。助かる。


たとえ魔物でも、バーン!と轢いたりはしたくないもんね。

ましてや、ゴブリンみたいな人の形をしてたりしたら、しばらく悪夢にうなされそうだ。


まあ、それでも危険なようなら轢くしかないのかもしれないけど─



─車の凹みとか、元世界に持って帰ったとき、どう説明していいかわからないよな…轢き逃げを疑われるような事故は避けたい。



ああ、そう考えると、俺たちの暮らしてる世界って──


家を買うのも、遺産を受けとるのも、旅をするのも、職につくのも、ただ普通に暮らすのでさえも、細かく張り巡らされたルールに縛られているんだな。


身分証明がないと身動き取れないし、ちょっとでも怪しい部分があるとすぐ脱法行為をしていないか疑われる。



「…異世界は法律とか厳しくなさそうで、気楽でいいな…。」


俺は運転しながら、ボソッと呟いた。


「でも、いまここで大きな魔獣が森から出てきただけで、私達は窮地に追い込まれるわ。」


よく見ると、ユーリは油断なくジャングルの方を監視し続けている。


「そう、だからこそ、強い魔法や戦闘の能力がいるのだ。」


イブもやはり後部座席の左側に座り、ジャングルの方を見つめながら、言った。



──そうか、氷の上を歩いてるようなものなんだな。今の俺たちは。


強く、ならなきゃ。



でも、でも…


どーしてもヤバくなったら、無理せずみんなで恵比寿に逃げようぜ!な?!

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