【83】異世界ふれあい街歩き
「神様って、どんな方なんですか?」
俺は気になりすぎたので、イブと支配人に聞いてみた。
─だって、俺を見たいからって理由だけで、元世界に帰還した勇者と聖女を呼び出すなんて…。
きっと、相当図々しいタイプに決まってる!
よくラノベであるじゃん、ホラ。女神様だ〜!と思ってたら物凄くしょうもない性格をしてたりとか──
「それが、覚えてないのだよ。支配人、貴方もだろう?」
「はい。」
へ?
イブと支配人、神様と会った時の記憶、ないの?
そう言う俺もスッポリ記憶が抜けてるけど…。
ユーリを見たら、小さく頭を左右にふっていた。
やはり『記憶』に残ってないらしい。
「なんででしょうね。」
「わからん。」
散々イタい事をして、みんなの記憶からまるっと抹消して証拠隠滅黒歴史消去した、とかだったらどうしよう。
「しかし、神はその後も君たち家族を見守っていた筈だぞ。」
「うーん…誰かに見られてる…みたいな感じは、たしかにありましたね。沖縄に着いてからですが、腹の底まで見られてるみたいな感覚が時折─。」
そう言うとイブは、不可解なことを聞いた、という表情をして眉をひそめた。
「──?神が君を『鑑定』したのだろうか?いや、鑑定をそう簡単に気取られるとは思えんが─」
神様の話はそこで打ち切られた。
お茶のおかわりを乗せたワゴンを押して、給仕係がやって来たからだ。
「なあなあ、渚。この後すぐチェックアウトするんだろー?」
食後のお茶を飲みながら、福田が聞いてきた。
「このまま帰っちゃうの勿体ないよ〜。オレ異世界の町、見てみたいなあ」
「おう、それはおれも見てみたいぞ!」
川口と福田は、ラノベにしか存在しないと思っていた噂の『異世界』に初めて来たので、観光気分満々だ。
─ユーリをさらおうとした奴隷商人の追手が気にはなるけど、イブもいるし、俺たちで囲んでいれば大丈夫だろう。
「じゃあみんなで行ってみようか。いいよね、イブ、ユーリ。」
彼女たちも快くOKを出してくれたので、俺たちはタラートの市場に向かう事になった。
ホテルを出た後、なだらかな坂を下って市場通りへと下りる。
川口と福田は普段着で、腰ベルトに武器だけ装着している。
流石に昨日の戦闘服だとやり過ぎだし、なんといっても南国だと暑い。(イブのソルベリー国だと気温が低いから、そこまで熱く感じないそうだ)
ベルト左側は剣、鞭。
右側はもともとつけていたスタンガンなど、元世界の護身具だ。
ユーリは下手にレア物の杖だけ持っているとかっぱらいにあう可能性があるので、手ぶら。
目立たないほうがいいとのイブからの教えだ。
─でもね、目立つなって方が無理がある気がするよ、イブさん…。
ブランドロゴが入った変わった服(Tシャツだけど)を着て武器を携帯した大きな男たちと、妖艶な気配を放つ美女・イブ。
その真ん中に守られる様に歩く、金髪の美少女ユーリと──ターバンに裸ジャケット状態の俺。
「なんで渚だけ戦闘服なんだ?」
川口が聞いてきた。
「いや、この格好ね、楽なんだよほんと。涼しいし。」
だって鞄いらないんだもん。手ぶら。
腹のポケットが鞄がわりになるもんね。
「商人の場合は戦闘服というか、それが通常服と考えてもらっていいのではないかな。」
イブがフォローをいれてくれた。
ほら!ほらやっぱりね!
「ただな──渚よ。」
「?」
「鞄くらいは持たないと、ちょっとしたものを買うたびにパンツの中に手を入れる事になるぞ…?」
ハッ……
考えてなかった。他人の目。
鞄を取り出そうと、慌ててハーレムパンツに手を突っ込んだまま、ふとユーリの方を見ると─
──目を…目をそらしてる─!!
そうか、ポケットに手を入れて何か掴むってことは、おもむろに人前で恥ずかしいところを握ってるのと同じ見栄えになるのか。
後ろを振り返ると、川口と福田がすこし憐れみを浮かべた優しい瞳で俺を見ている…。
俺は、何も言わずポケットから革の鞄を取り出して、肩にかけた。
「おお!兄ちゃん。鞄の使い心地はどうだい?」
市場通りに行くと、革物細工屋のおじさんが声をかけてきたので、抜群ですよ、と答えた。
「そっちの人はみんな、兄ちゃんと一緒に船から来たお連れさんかい?」
「はは…まあ、そんなとこです。」
「なんか、立派な服装になったなあ、兄ちゃん!まるで大商人みたいな、良い生地の服だな。そんなの売ってる店、あったのかい。この辺で…」
そうなんだ、このターバンやハーレムパンツ。
上着も前開けてちくびでてるけど、立派って言ってもらえてるってことは、南国ルールならちくびのひとつやふたつどうってことないのかな。
「ん?その女の子…」
おじさんはユーリに気づいた。
「あの時、足の皮鎖を切ってあげた、ボロボロだった女の子かあ!随分綺麗になってるから、見違えたよ!」
ユーリはペコリと、笑顔でお辞儀をした。
「なに、兄ちゃんに身元を引き受けてもらったのかい?よかったね」
「危ないところを保護してもらいましたが、私、大きな街でお店を営んでるもので、ちゃんと家はあるんです。」
奴隷あがりみたいに言われたから心外だったのか、ユーリが自分の身元について説明した。
「そうか、さらわれかけただけだったっけね。すまんすまん。親御さんは大きな街に?」
「父はずっといません。母は春先、事故で亡くなりました─今は私が一人でお店をやってます」
そうか、『ユーリ』としての人生は─結構悲しい状況なんだったね。
半分母さんが入ってるようなものだから「駆け出し聖女」としてのユーリしか見てなかったけど─
と、気づくと、親父さんの目がウルッてる。
横を見ると、福田の目もウルッてる─
「偉いな、嬢ちゃん。まだ少女だってのによお…自分の子供で想像したら、おじさんウルウル来ちまったい。」
「ユーリちゃ〜ん、天涯孤独なんじゃん!苦労したんだねえ…グス…」
感動しやすいマンがここに二人も。
「兄ちゃん、嬢ちゃんのお店、一人じゃ辛いだろうからなんとかしてやれよ!」
うーん。
俺のところにいる間は、お店は閉めちゃってることになる訳だもんなあ。
まあ一人で戻って、また悪質な奴隷商人になにかされてもいけないし…
これは、なんとかしなきゃだなあ。
「おじさん、大きな街ってのはここから近いんですかあ〜?」
「そんなに遠くないぞ。馬車で一日くらいだ。」
福田が、俺の方をクルッと向き直った。
「ねー渚、ユーリちゃんのお店に行ってあげない?」




