【80】異世界での戦闘準備(だけ)
細身で長身の体をなめした黒革のジャンプスーツで包み、黒い手袋に黒いブーツを着けた福田は、「男版・女王様」みたいな迫力ある装いになった。
多分、ファスナーやボタンの代わりにベルトや編み込み紐でいちいちとめられているから、そう見えてしまうのかもしれない。
「あれ?福田…筋肉増強の腕輪、やめたの?」
「あれすると動きが遅くなるそうだからさあ〜、鞭で素早く戦うなら力を増やすサークレットにした方がいいって、イブさんが選んでくれたんだよね〜」
─よかった、このユルい喋り方でムッキムキは違和感が凄かったから、なんだか安心した。
彼は、ゆるく巻いた鞭の両端を手で持ち、左右に引いては「パァンッ!」と音を立てて遊んでいる。
棘もびっしりで、すごい威力がありそうな鞭だ。
イバラの鞭というやつだろうか?
「福田、それ触って痛くないの?」
「痛くないよ〜、トゲ、いっぱいついてるけどゴムみたいに柔らかいよぉ、これ。玩具かなぁ。」
彼は、鞭の表面を黒革の手袋をはめた手でナデナデした。
「それは、使用者が攻撃しようと思って振り下ろすと、途端に鋭利になって相手に突き刺さる棘なのだ。」
イブが教えてくれたのを聞き、福田はヒュ〜っと口笛を吹いた。
ユーリは、イブに選んでもらった白い絹のようなサラサラの素材のローブを服の上から羽織っている。
なにかきっと、魔法に関係した服なんだろう。
膝下くらいまで長さがあり、腰のところで宝石がついた白い革のベルトで締めるスタイルだ。
長い金髪がつややかな白い布地に垂れてかぶさり、水色の瞳も相まって、まるで天使画みたいな美しさである。
手にはしっかりと、さっき渡した「治癒師の杖」を握っている。
なんだかみんな、異世界探索者としてだんだんさまになってきた。
─俺以外はファンタジー世界の住人って感じじゃないか、チクショー。
「渚、君はこれだ。」
イブが俺に渡してきたのは、黒地の布にビッシリと曼荼羅のような模様が金糸で刺繍されている上着と、腰がゴムみたいに伸び縮みする素材の黒いハーレムパンツ。
上着は前が開いている。
「あのこれ、中には何を着れば…?」
と俺が聞くと、イブは
「なにも。肌に直接着るのだ。できれば下着も履かないで。」
と言ってきた。
──えっ…NOパンツ?
ノ ー パ ン 推 奨 なんですかあ?!
上も前開きボタン無しだから、ちくびまるだしなんですけど…!
なんでこんな?イブさんの趣味?
「それが一番、腹のポケットから物を取り出しやすい。シャツを着ると邪魔になって、戦いの最中に一手遅れる。」
…うーん、たしかに。
待って待って、話を纏めると俺は要するに─
「アイテム取り出しマン…?」
「その通りだ。よくわかったな、渚よ。それこそが商人ラナンの戦い方だ。」
ええっ…衝撃の武器無し。
剣は無理でも、ナイフとかないのかよ。
せめて正義のソロバンとかさ…。
「毒針とか、毒のナイフならあるが、ウッカリ触ると自分が麻痺するからな…腹から取り出すのに慣れてからだな。」
んー、怖い。
ポケットの中でギュッと握るのも躊躇する。
毒関係は取り出す時があったら、最大限に気をつけよう…。
「頭はこれを巻いておくといい。聖女のローブと同じ素材でできた、抗魔力を高める布だ。」
イブは、白い絹みたいな素材の長い布を渡してきた。
確かに、ユーリの服と同じ感じだ。
「上着にも抗魔の紋様が聖なる糸で刺繍されている。もしも仲間が魔法で翻弄されたとしても、渚、君にだけは魔法が効きにくい筈だ。」
みんなが魔物に翻弄されて俺だけ取り残されてる状態は、怖すぎて想像したくないけど─
今後、父の遺したアイテム研究をする事で、対策を練っていくことにしよう。
取り敢えず、装備は揃った。
四次元…じゃなかった、異次元ポケットはまだ未知の部分ばかりだけど、戦闘になってしまった場合にやるべきことは、全員なんとなく定まった気がする。
まだゴブリン一匹とすら戦闘してないけどね。
備えあれば憂いなしってことで。
イブが、俺たち全員の顔を見て言った。
「異世界にいる間はこの格好で暮らしてもらうと、街間の移動一つをとっても安全かと思う。永遠にタラートの町にいる訳にいかないだろうし、聖女を守るためには戦闘のレベルも伸ばす必要がある。」
我々は、コクっと頷いた。
それは、うすうす感じていた事だ。
「ただそれには、聖女の回復魔法をもう少しレベルアップする必要があるのと─」
ユーリは、手に持ってる杖をギュッと握りしめて、決意の表情になった。
「─渚の商人力を上げる必要がある。」
「しょ、商人力ですか?!」
なにそれ?
俺経済学関係の勉強とかした事ないし、実家の雑貨屋の手伝いとコンビニ店員のバイトくらいしかわからないんだけど…!
「品物の種類と在庫を全て覚えて、足りないものは買い足してストックしておき、必要な時に金貨の力でパーティーメンバーに必要な物を買い与え、乗り物なども手配する、といったところだろうか。」
スーパーウルトラパトロンになれということか。
よし、やってやる。
どうせ資金も、親の与えてくれた袋で全て賄ってるようなもんだ。
きっと、このためにあるんだ。
しかし──
「知らない宝物庫で管理されてるものは勝手に持ち出せないので、どうやって確認すればいいでしょうか?」
父の遺産をポケットから出してチェックしたい気はあれど、一番不安なのはその点についてだ。
「そう、だから、管理者に会って許可をもらう旅をするのだ。」
異世界で旅。
ううーん、今ひとつ気が進まない…。
すごーく時間がかかりそうだし、途中で山賊の襲来とかあるっていうじゃん。
それに馬車って実際は、すごく乗り心地悪いって言うだろ?電車なんか絶対なさそうだし。
草原とかで車が使えたらまだしも、徒歩は…
ん?車?
もしかして俺のマンションに停めてあるマイカー、呼べるんじゃね?
そうか、革袋で増やした金で予め買っておきさえすれば、日本の乗り物を異次元ポケットで召喚できるのか─
「…なんか、わかった気がしてきました。任せてください。」
イブは俺を見てニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、部屋へ戻るとするか。渚よ、先程のアレを…」
「はい!」
俺は、ポケットの中からどこにでもいけるドアを、ニュルッと出して、置いた。




