【69】高級マンション暮らしが始まるらしい
デカい男が二人、一週間居候する事になったので、必要なものを買い出ししなければならなくなった。
しかし時間は夜の9時近く。
この時間にアレコレ買えるところっていったらあそこしかない。
「川口、福田、ドンキ行こう!」
マットレスと枕、掛布団は夏だからタオルケットでいいだろう。
バスタオルや歯ブラシセット…あとどうせ持ってきてないだろうから、二人のパンツや寝間着とかも買うか。
「え〜っ、酒のんじゃったよ?車どーすんの」
「おれはソファでもいいぞ。」
「お前らデカいからソファ寝は無理!タクシーで行くよ。」
ユーリがワクワクした顔をしてたので、
「ユーリは夜の出歩きは危ないから留守番しててね。」
と告げた。
ちょっと残念そうではあったけど、素直に
「はーい」
と言ってTVをつけ、戸棚からお菓子を持ってきた。
最近はアマプラでアニメを見るのが彼女の中でブームらしい。
なろう原作の異世界を舞台にしたアニメの数々が、所々リアルだったり全く違ってたりと楽しいそうだ。
「じゃあ行ってくるよ。」
俺達3人は夜の新宿へ繰り出した。
買ってきたのは、エアーベッド。
空気を入れたらプクーっと膨らんで、シングルベッドになる。
あとはその上に敷く折りたたみ式マットと、掛け布団がわりのタオルケット、低反発枕。
衣類はそれぞれ選んで、今夜使う分くらいにしたようだ。
「なんせお金はいっぱいあるからさぁ〜、明日になったら川口と服買いに行こうと思ってるんだよね〜。」
「おう。夏だから多めにないといかんしな。」
「へえー、いいな。どこ行くの?」
「表参道かな〜。」
俺も行きたくなってしまったが、先日沢山買ってきたばかりだから、我慢した。
「川口がさぁ、高い服わからんって言うからオレが見繕ってやろうと思ってね〜。」
「おれは黒っぽければ何でもいいんだがな。」
二人はさっき増やした2000万円から1000万円ずつ取り、それぞれの鞄に入れた。
「大金持って歩くの、怖いんじゃないのか?」
「増やしてもらった方の金ならなぜだか大丈夫だ。」
「わかるー!増やす前のお金は生モノみたいな感じで、なんか持ち歩いてるの怖かったよねえ。」
増やしたお金は「調理済み」みたいな感じ?
「でもいくら増やせられるからって、強盗や置き引きにだけは気をつけてくれよ…!」
「うす。」
川口がグッと親指を立てた。
「川口さぁ…もともと400万円まるまる持ち歩いてたんでしょ?プラス1000万円って…どーなのそれ?!」
「いや、よく見たら400万円じゃなかった。忘れてたが、ちゃんと使って減ってたぞ。」
「そういえば川口と福田、先日増やした500万円、なにに使ったんだ?」
こいつらが大金を真っ先に使う時、その使い道は何なのか、純粋に気になる。
「オレはねぇ、これこれ」
そう言って福田はFENDIのバックパックを指した。
「このシャツとパンツもFENDIなんだよ~!実は。お金渡された翌日、買ってきたんだよね」
「福田、ハイブランド好きだったんだな。」
そういえば、こいつの財布は金のない時期からFENDIを使ってた気がする(ローンで買ったと言っていたっけ)
「ハイブランド、っていうかFENDIが好きなんだけど、お金無いから買えなかったんだよね〜」
「そうだったんだ。」
そういや俺は、今の所ハイブランドは先日行ったバーバリーくらいしか立ち寄ったことがないな。
─福田みたいにご贔屓のハイブランドがあるってのもなんかかっこいい気がするから、こんど片っ端から立ち寄って見てみようかなあ…。
「あとは、このマンションの契約金の類を払ったよ〜。」
「オッ!そうだ、おれもそれで使ったのだ」
川口がポン、と手と手を叩いて言った。
「月20万円の部屋にしたから、1ヶ月分の家賃と敷金礼金、あと不動産屋への手数料で、おおよそ100万円だな。」
「オレは月30万の部屋だから、もうちょっとかかったかな〜。」
「川口、月20万の部屋って、このマンションの中で一番狭い部屋じゃないのか?」
「ウム、まあそうだな。」
「一緒に不動産屋に行ってみたんだけどさぁ〜、こいつ、広い部屋は掃除が面倒だからヤダって言いはるんだよぉ。」
うーん、その気持ちはわかる。
俺もこの部屋に引っ越してすぐの頃、すごく思ったな。
結局、家事代行サービスを雇うことにしたけど…
「おれは掃除は嫌だが家事代行もいやなのだ。知らない人間が家に入るのは耐えられない」
「結構繊細なところがあるんだな。」
「オレは頼む事にしたよぉ、家事代行のお姉さん。渚の家に来てる人も、いい人っぽかったじゃん?悪くないなって思ってさあ。」
コミュ強な福田ならどうということはないだろう。
川口に、引っ越しが済んだら高性能のお掃除ロボットをプレゼントしてやる約束をした。
こいつの部屋は、おそらくゲームや本が沢山になるだろうから、ダニとか湧いたら目も当てられないもんな。
ともかくふたりとも、澁谷不動産への手続きは完全に済んでるようなので、俺は安心した。
「ところで、こんな高いところに引っ越すなんて、親には何て言ったんだ?二人とも…。」
川口と福田は顔を見合わせた。
「オレと川口はね〜、渚のじいちゃんが大金持ちだから月8万円で貸してくれる、って親に言うことにしたんだ、実は。へへ…」
「そ、そうなんだ。」
まあ、それでも問題ないか。
俺の手助けで住めるようになった、という点についてはある意味間違ってない。
「すまんな、渚。勝手に名前を使わせてもらって。普通の家賃を親に伝えるわけにはいかなくてな。」
「月20万とか30万とか、オレたちが急に払えるようになるわけないもんねえ。アハハ」
それを言ったら、俺もそうだ。
月50万円の家賃のマンションに住んでるなんて、親戚や知り合いにはとても言えない。怪しすぎる。
─なにか、儲かってそうな職業につくだけつけたら、誤魔化しようもあるんだけどなあ…3人とも…。
アーティストとか、作家とか?
うーん、いい案が思いつかない…。




