【67】二人は賭けで儲けたらしい
夜7時、川口からLINEのメッセージが届いた。
『これからお前の家訪ねてもいいか?福田も一緒だ』
頼む、と頭を下げたリアルなゴリラのスタンプも添えてあった。
『もちろんいいよ。』
俺はOKと書いてある、ゆるいハムスターのスタンプを返した。
その一分後だろうか。
チャイムが鳴ったので、いくらなんでも早くないか?と思いながらインターホンに出る。
と、一階玄関のオートロックの所に立っている、黒髪と茶髪のデカい男たちの姿が、小さなモニターに映った。
もちろん、川口と福田だ。
「いま開けるよ。そのままエレベーターに乗ってきて。」
俺は扉を開けるボタンを押し、リビングのソファに座ってスマホをいじってるユーリに
「いま川口と福田が上がってくるよ。」
と伝えた。
「こんな時間に来るなんて、お酒を飲みたいのかしら?」
「さあ…。もしかしてお金を増やす袋を使いたいのかな。」
2〜3分ほどして、玄関のチャイムの音がした。
ドアを開けると、いつになくシリアスな顔をしてバックパックを抱きかかえた、二人の姿があった。
「急にすまんな、渚。」
雨の中を移動したのか、二人共少し濡れている。
そして…
─なんか、やつれてる…?疲れてんのかな。
旅行の時に比べると、少しゲソっとしてるように見えた。
ユーリは二人の姿を見ると、テテテと洗面所に走り、乾いたバスタオルを2枚持ってきて手渡した。
「ありがと〜、ユーリちゃん…。」
いつもは軽い感じの福田も、なんかちょっとやつれ気味だ。
「二人共、まあ中上がれよ。」
俺は二人をリビングのソファへと誘った。
二人は、抱えていたバックパックをそっと床に下ろし、ドッカ!とソファに座り込んだ。
「はーーー!一息つけたーーー…」
福田が、首をガクンと反らせてソファにもたれかかった。
「どうしたんだよ、二人とも。なんか変だぞ。」
俺は緊張をほぐしてやろうと、冷蔵庫に入っていたエビスビールの缶を二人に手渡す。
彼らは、受け取るなりプシッと蓋をあけ、一気にゴッゴッゴッ…と飲む。
やっぱりなんかおかしいぞ。
プハッと息をつぎ、福田が俺のほうを見た。
「渚ァ、オレたち見つけちゃったかもしれないんだよねえ…」
「へ?なにを?」
「お金が永遠に増え続ける方法…。」
川口が、Dickiesのバックパックをソファ前のローテーブルの上に置き、蓋を開く。
すると中には─
「えっなにこの札束!俺のところで増やしたのより多くなってない?!」
100万円ごとに束ねられた札束が沢山入っていた。
彼はそれを、ローテーブルの上に積んでいく。
「オレもオレもぉ〜!」
今度は福田が、床に置いてあったFENDIのバックパックを開く。
─あ、この鞄は先日増やしたお金で新調したのかな…高そう…
と思っているうちに、中からやはりドカドカと100万円の札束をたくさん取り出し始めた。
「なになに、これどうしたの?」
「競馬で勝った。いや…勝ち、と言えるのかどうかわからんな。全頭に賭けたんだから。」
「もうさ〜、ここまで運ぶの本当に怖かったんだよお。馬券場から誰かつけてきてやしないかってね〜」
福田が再び、ドへーっとした感じでソファにもたれかかった。
よほど気疲れしたのだろう。
「ウム、タクシーでレンタカー屋に行き、レンタカーでぐるぐる高速乗ったり下りたりして返却し、また別のタクシーに乗ってここまで来たのだ。」
「うわーっ、そりゃ大変だったな。」
「でさぁ、これを渚の魔法の袋で増やせられるかどうか、実験したいんだよねえ。」
─なるほど、だからお金が増え続ける方法…か。
負けのない賭けで買ったお金は、稼いだうちに入るのか、否か…?
見たところ、二人合わせて2000万円はある。
いっぺんに増やすと膨らみすぎて革袋が破けてしまいそうだから、少しずつやるしかなさそうだ。
「よしわかった、さっそく試してみよう。」
俺は、ウォーキングクローゼットの金庫にしまってある魔法の革袋を取り出してきた。
川口の方の100万円の束ひとつから、20枚だけ抜き取って革袋に入れてみる。
川口と福田は固唾をのんで、それを見つめている。
ユーリは紙のお金の価値がいまいちピンときていないのか、ポテトチップスを食べながらのんびり横で見ている。
革袋の封を閉める─。
すると、いつものモコモコモコッとしたお金の増える感触が手に伝わってきた。
「来た…!」
封を開けて、中から100万円の束を20束取り出した─2000万円。
20万円が、2000万円だ。
福田が衝撃のあまり、ヒュッと息を飲んだ。
「ヤバヤバヤバぁ…!増えるじゃん!賭けの儲けも増えるじゃん?!これ!」
「ウム…!という事は、ここにある金は全部やったら─」
川口は額にビッシリ汗をかいている。
「─20億円か…!」
室内は水を打ったように静まり返り、ユーリのポテチを食べるパリ…パリ…という音だけが響いていた。




