【60】旅の仲間になったらしい
ユーリは、聖女の微笑みを絶やさずに、こう言った。
「旅のパーティーは2人より4人の方が、心強いじゃない?」
─旅のパーティーって…それってつまり…
母さんが寝る前にやっていた、オンラインRPGの『冒険者の酒場』で組む的な4人パーティーの事…?
「いやいやいや!ユーリ!それは無理でしょう、さすがに…!」
二人とも、戦士でも魔法使いでもないただの一般日本人ですよ?!
ゲームでいったらプレイヤーじゃなくて、町の人!お城への道とか教えてくれる人!
「でも、体の強さでいったら渚より頑丈そうな感じがするけど…」
「た、確かにそれは認めるけど…!」
川口も福田も、全てのパーツが俺よりデカいもんな…。身長もでかいし。
「おいおい、どういう事だ、渚。」
「オレたちも異世界に行けるの〜?」
二人はなぜか、少年のように目をキラキラさせている。
「それがねえ、旅のパーティーの証拠があったら一緒に転移もできると『聖女の記憶』にはあるんだけど─」
彼女は腰に手を当てて、ウーン…と唸った。
「─思い出せないのよね。どこに保管してあるのかが。」
旅のパーティーなら一緒に転移できる…?
「でも、父さんと母さんが魔物退治の時に組んでいたパーティーは、こっちに来た事ないよね?」
「あるみたいよ。」
─日本に来た事があるのか?!
両親の手記は、お腹に子供ができて元世界に戻るところまでしかないから、その後の物語ということだよな。
ホテル・タラートのプールで、両親と遊んだ小さい頃の記憶がフラッシュバックした事を思い出した。
他の記憶は思いだせないけれど、両親はかつての旅の仲間と久しぶりに会ったのだろうか?
そしてその後、仲間とともに日本へ来た─
「一人は…ウーン…そのままこっちに住んでるわ…もう一人は……思い出せない。」
頭の中の母さんの『記憶』は、どれも簡単に引っ張り出せるのではなさそうだ。
なにか、きっかけがない限り思い出せないよう、幕が下ろされてるのだろうか?
「そのままこっちに住んでる人ってのは、どこにいるかわかる?ユーリ…。」
「わからないわ。思い出せない。」
彼女は少ししょんぼりとして、首を横に振った。
「でも、異世界の人だから、私みたいな外見をしてるんじゃないかしら…。」
パーティーメンバーがどんな人かは、なんとなくわかってる。
両親の手記に登場する、イブという魔女と、ラナンという商人だ。
商人?と最初驚いたけど、金の力で全員の装備をかためたり、馬車や船を用意したり、いざという時商人仲間や貴族の協力を仰いだりと、商人ならではの参戦の仕方をしていたようだ。
「こっちに住んでるのは、魔女と商人のどっちなんだ?」
「魔女のほうよ。」
彼女は、キッパリとそう言った。
「じゃー今夜は帰るね〜!明日バイトだしさぁ」
「ウム、おれもバイトだ。そろそろ帰る」
川口と福田が、荷物を持って玄関に向かう。
「あっ、一階まで送ってくよ。」
俺は二人とともに廊下に出て、エレベーターを呼んだ。
するとその時、隣の部屋の扉が開き──
『今晩は。おや、君は前にお会いした─』
以前、マンションの下見で訪れていた、隣の入居者の英国紳士だ。
金髪で白いシャツと薄いベージュのパンツ姿なので、夜なのに明るく光って見える。
─相変わらずモデルみたいで、綺麗な外見をしてるなあ。名前は…えーと、なんだっけ…。
『お久しぶりです。もう越してこられてたんですね。』
翻訳の指輪があるから、英会話も問題無い。
チラッと横を見ると、川口と福田が英語ペラペラの俺に目を丸くしていた。
指輪の力だとはわかっていても、英語の成績2だった奴がネイティブイングリッシュを話してる光景は、やはり驚くようだ。
『今日はお友達がいらしてたんだね。』
『うるさかったですか?』
『いや、ここは防音設備が整っているから、なんの問題もないよ。』
ガチャッ
俺の部屋の扉が開いて、ユーリが顔を出してきた。
「福田くん、沖縄土産の袋、忘れてるよー!」
「あ〜、ごめんねー!ユーリちゃん。」
隣室の彼とユーリの目があった。
彼はユーリの事を見つめている。
ユーリはなんだかわからず、ペコっと会釈をした。
[君は隣に住んでいるのかい?]
彼が、ユーリに問う。
[はい、今日からこの部屋に─]
言葉を放ち、ユーリはハッとして口を押さえた。
目を見開いて、彼を見る。
流れる沈黙─
「??」
俺は、その理由がよくわからず、どうしたんだ…?という顔で二人を眺めていたが、沈黙を割くようにして、福田が口を開いた。
「ユーリちゃん、なに?今の不思議な言葉〜…どこの国の言語なの?」




