【55】季節外れのサンタさんらしい
──!!
─異世界に行ける事が、バレた…?
川口と福田は、気まずそうに目配せしあってから、俺の顔を見た。
「ウム…渚、お前から送ってもらった、おれたちのパラセーリング風景を映してくれた動画にだな…」
俺は、もしや…という点に気づき、急いでスマホを取り出して、ムービーの最後の方を再生してみた。
パラセーリングのシーンの後、
スマホを掴む手の中が映ってる映像と、ガサガサ音、風の音、砂の上を歩いてる音。
そして、
『あの二人には言わないの?異世界に行ける事。言ったら協力してくれるかもよ。』
『そんな、言えるわけないよ。嘘だと思われる。』
『信じてもらえるかもしれないじゃない、証拠を見せれば…』
『どこから話せばいいのかわからないよ。お金を増やせる事も、ユーリが異世界から来たって事も。』
不意に切れた。
手が触れたかなんかして、止まったんだろう─
「録画、切りそこねてる…俺。」
川口と福田の方を見ると、なにか言いたげな顔をしてこっちを見ている。
─やっ、やっ……
やっちまったぁぁぁ〜〜!!
口がカラカラなので、オリオンビールを一気に流し込む。
「異世界とは、いわゆるところの『異世界』のことなのか?」
川口が真剣な顔で聞いてきた。
「まさか、現代の裏社会のことを指す隠語…とかじゃあないよ…ねぇ…?」
福田がおそるおそる、トンチンカンなことを聞いてくる。
現代の─なにそれ?
「ほら…ヤクザや金持ちの関わる、法を逸脱した社会っていうかさあ…裏風俗とか、地下賭博場とか、地下格闘場とか─」
ぶっ─
俺は飲んでるビールを、あやうく吹きそうになった。
異世界と聞いて、その発想はなかった─
でもそれだと、急に怪しい大金が転がり込んできたことや、ユーリみたいな謎の外国人美女といつの間にか仲良くなってることなどの理屈は通りそう。
─青年誌マンガの中での理屈で、リアリティの点でどうなのかはわからんけどな…!
「ウム。しかし、おれとしてはそれだと怖いから、いわゆるラノベ的な異世界だったら良いと思ってはいるがな。」
「そ〜だね、その方がいっそ納得いく部分、あるよねぇ。辺戸岬での渚とユーリちゃんのいでたちが変だった事とかさぁ…」
辺戸岬で異世界から転移してきた時─
アロハ姿だったはずの俺は、ちょっと海岸の方を見てきたと思ったら、突然クルタみたいなのを着て、なめした革の「旅の鞄」を肩から下げて戻ってきたんだもんな─
その後ろには、汚れたボロのロングクルタを被っただけの、日本語ペラペラな金髪美女を伴って─
─フゥー!
あっやし〜い…俺!!
「ウム…あとあの、彼女の治癒能力っていうのか?あれは尋常じゃなかったぞ。」
「異世界の力、ってやつじゃねーの?スキルだとか言ってたよねぇ、あの子…。」
うーん。
ちゃんと聞かれていてしまったか。
誤魔化せてなかった。
─まあそうだよな、あれはいくらなんでもこの世界においては無理がある出来事だよな。
一瞬、裏社会ルートの流れで嘘をついて誤魔化そうとかも考えたけど、やめた。
いかんせんそっち系の漫画をあまり読んだことがないから、なにも浮かんでこない。
俺は、あきらめて二人に真実を打ち明けるにした。
オリオンビールの2本目をあけて飲みながら、ここまでに起きた事を全て話す。
少し長い話だったが、ふたりとも途中で茶々を入れたりせず、真剣な顔で聞いてくれた。
「ウム、なるほど納得した。」
─ほんとかよ?!
俺だったらこんな話聞いても、にわかには信じられないぞ。
「いや…異世界ってのは実際見てみないとまだ実感できてないが、お前が色々と隠してごとをしていた理由はわかった。」
「お、俺が隠しごと…?」
「そ〜そ〜。渚、隠してることあると昔からすぐわかるもんねぇ。」
え、マジ?
俺ってそんなに単純明快キャラなの?
「前にも言ったろう。渚が、変わったことが起きた時にTwitterでもLINEでもその事について口走らないのは、おかしいって。」
あ……
初めて川口に、祖父の遺産がおりたって嘘の話をしたとき、言われたっけ…
「外国人の家族と、家族ぐるみの付き合いがあるなんてねぇ〜、今までで一度も言ってこなかったじゃん、渚さぁ。変だと思ったんだよね。」
「英語の時間もよく言ってたぞ。外国人の友達でもいたらなあー、とかな。」
うう…
学生時代からの友達、あなどりがたし─!
俺は自分で思ってるのの何倍も、隠し事のできない男だったようだ。
バレバレだったことが恥ずかしくて、頬が熱くなっているのが自分でわかる。
「しかし、異世界に行けるなんて羨ましい限りだぞ。」
「そーそ、バイト生活してるより圧倒的に楽しそうじゃん。オレらなんてさぁ。あさってからまた仕事かと思うと、嫌になるよぉ…」
「ウム、正直言って、仕事辞めて異世界行きたい。」
川口と福田が、明後日から日常生活に戻ることを思い、心底ゲンナリとしている。
─今の俺は魔法の袋と指輪があるから、ちょっと翻訳するだけで生活できるけど…
二人は先の見えないバイト生活─
いや、俺だって去年までは同じだった。
バイト、ゲーム、スマホで何か見るくらいしかやる事がなかった俺たちには、未来への展望なんて煙に包まれてるみたいにボンヤリして見える。
人生の切り開き方だって、よくわからない。
が、
彼女を作って結婚しよう!とでも思わない限り、たいして切り開かなくても、なんとなく暮らせていけてはいた。
友達がいれば、寂しくないし
スマホとゲームがあれば、楽しい
欲を出さなければ、苦しくもない
それが日常。
そんな中、突然大金と異世界という非日常が転がり込んできたのだ。
─俺はどうすればいい?
会社を作って、二人を雇用できたら楽させてあげれるのだろうか?
いやいや、お金がある事自体、世間に隠したいから銀行にすら預けてないのに、そんなの無理だろ。
第一、ノウハウもない。
「なんか、いい手段はないかな…」
考え込んでしまった俺の背中を、川口がバン!と叩いた。
「気にすんな、渚。お前が金持ちだろうと勇者の子だろうと、おれたちの態度はかわらん。」
「ハハ…ありがと、川口。」
「そ〜そ、オレも同じく!あ、でもなんか欲しいものあるときは、そのお金の増える袋とやらでオレの手持ち金も増やしてくれよな!」
福田はあっけらかんと願望を述べてきた。
「おおっ、それは切に願うぞ…!おれは今の所、PS5がほしい。」
「あっ、じゃあねぇ、オレは新しいスクーター!」
二人は俺に向かって手を組んで、神様お願いします的なポーズになって、お祈りを始めた。
な、なんかこれって、アレみたい…
─サンタさん?




