【54】怪しまれてしまったらしい
ビーチサイドのカフェ。
海を見ながら遅めの昼食を食べ、遊び疲れを癒やしている俺たち4人。
タコライスを食べる手を止めて、ユーリが幸せそうにホゥ…と吐息を漏らした。
「友達とこういうの、一度してみたかった」
「こういうのって?」
「南国でバカンスってやつよ。」
─バザルモア王国もかなり東南アジアみたいな感じで、じゅうぶん南国だと思うんだけど…。
働いてばかりで、海で遊んだりはできなかったのだろうか?
それとも、半分の記憶─桑野由子…母さんとしての、思いだろうか。
「バカンスというには、2泊3日は短すぎるだろう。」
川口が、肉がめったやたらと挟まってるデカいバーガーを食べながらツッコミを入れてきた。
たしかに、バカンスとかバケーションって、長めの休暇のことだな。
「……今が人生のバカンスの時期、なのかもしれない─」
ユーリは、遠い海岸線を見つめながら、呟いた
ブランチを食べた後、ビーチだけでは飽き足らないとばかりに、俺達はホテルのプールで遊んだ。
日焼け止めを塗ってはいても、沖縄の夏の日差しは容赦ない。
夕方には、皮膚はすっかり紫外線でヒリヒリだ。
「うわ、熱々だよ、肩とか背中とか。」
「ウーム…今でこうなら、明日は痛くて荷物も背負えないかもしれん。」
「うぇぇ〜、やっちまったーい」
プールサイドのベンチ。
男3人が皮膚のヒリ感におそれを感じている中、ユーリだけはケロッとしていた。
「みんな、皮膚が痛いの?」
彼女の肌は赤くなっておらず、真っ白のままだ。
「えーっ、なんでだよ、ユーリだけ。」
「治し方があるなら教えて〜!ユーリちゃん。」
彼女は顎に指をおいて少し考えたあと、俺の後ろに回って背中に手を置いた。
─シュウゥゥ…
体から、火照りが消えていくのがわかる。
二の腕を見ると、さっきまで真っ赤だった皮膚が普通の状態に戻っていた。
「─ユーリ、これって…」
─聖女の治癒魔法?!
でもこっちの世界だと魔法は使えないんじゃ─
見ると、川口と福田の背中にも手を当てて治していた。
「あれ〜?痛くなくなった…ナニコレぇ!」
「どうなってるんだ?魔法みたいだな。」
二人共、自分や互いの肌を見て、驚愕している。
「これは魔法じゃなくて、固有スキル…。」
ユーリが呟いた。
「「?」」
川口も福田も、なんのことだと目を丸くしている。
ま、まずい…!
「じゃ、じゃあ日も暮れ始めてきたことだしさ!夕飯食べに行こう、夕飯!」
俺は焦って立ち上がると、ユーリはハッとして、
「あ…じゃあ私、そろそろ自分のホテル帰るね!ディナー、あっちで用意されてるから…」
タオルを持って、ロッカールームへと歩き始めた。
「歩いて帰るから車は大丈夫よ。みんな、今日はありがとうー!」
大きく手をふると、彼女はロッカーへと走り去った。
「ウーム…彼女は気功かなんかが使えるのか?」
「さっきの、なにあれ〜?!技、すごくね?」
「ハハ…どうだろ…。」
残された俺は、冷や汗をかくばかりだった。
─くっそ、後始末丸投げしたな、ユーリめ…!
負傷してる人を見ると、つい直してしまう習性でもあるのか?
じゃあ浜辺で倒れ込んでた時、自分に使えばよかったじゃん…
火傷は直せても、熱中症は直せないってのか?!
「そ、そうだ二人共、パラセーリングのムービー、撮っといたよ!」
なんか別の話題にズラして、誤魔化そう。
「おお〜っ、見せて見せて〜!」
「ウム、俺も見たいぞ。」
よかった、二人共食いついてくれた。
「ホテルの部屋で、二人にそれぞれ送っておくよ。さ、シャワー浴びて戻ろう!」
俺達はロッカールームへと歩いていった。
日はだいぶ落ちて、夕焼け空になってきている。
あとは焼肉でも食べて酒を飲んで、ガーッと眠ってしまおう…!
だが─
部屋に帰ってからというものの、川口と福田の様子がおかしい。
俺に対してなにか言いたげで、戸惑っている感じがする。
夕飯の間も、しじゅうその調子だった。
─一体、どうしちゃったんだ─?
部屋に戻る途中、自販機で買ってきたオリオンビールを一人3本ずつ配る。
いざ寝酒タイム、という状況になっても、川口と福田は困った顔をして、目配せし合っていた。
「なんだよ二人共、なんか変だぞ?!」
俺が聞くと、川口が言いにくそうにモゴモゴ話してきた。
「渚、あのな…さっきの…。ウーム…」
彼が言葉を選んで止まってしまったので、仕方ないといった感じで福田が口を開いた。
「あのさぁ…異世界って…ほんと?」




