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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第一章 億万長者になっちゃった!
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【43】異世界の宿に記憶の欠片


バザルモアの国民は、暑いからか風通しが良い服を着ている人が多いようだ。


インドや中東の民族服であるクルタのようなデザインが多く、大抵の人がズボーっと着れる、襟なしパジャマみたいなやつを着ている。


素材は麻っぽいのあり木綿っぽいのあり色々だけど、湿度があるからか薄い生地が好まれてるように見える。

(男の中には上半身裸でうろついてる自由気ままな人もいるが、店をやってる人は流石にちゃんと着ているようだ。)


女性は男性より丈の長いクルタを着ている人もいれば、逆に胸の下辺りまでの短い丈で胴を丸出しにしてる人もいる。

先程のジュース屋のお姉さんもそのタイプで、正直目のやり場に困った。




浜辺につながる木立の中に移動し、俺は買ったばかりのシャツに着替えた。


「真っ赤なプリントアロハじゃ、変に目立っちゃうもんね。街に溶け込まなきゃ…」


異国からの旅行者丸出しってのも、変なトラブルに巻き込まれる可能性があって怖いし。



脱いだ服とトートバッグは新しい鞄にまるっと入れ、ポケットにギュウギュウ詰めだった硬貨は、革細工屋のおじさんにもらった銭入れに移す。


よーし、仕度完了。


「完全に溶け込むなら靴も変えたほうがいいんだろうけど…スニーカーからこっちの革のサンダルに履き替えたりしたら、靴ずれしそうで嫌だなあ。」


靴専門店があったら、その時考えよう。




俺は、安心して泊まれる宿を探そうと、ジュース屋のお姉さんの元を再び訪ね、問い合わせてみる事にした。


清潔で、きれいな風呂があって、安全な宿。


こういう点に絞ってのオススメ情報は、おじさんよりも女性のほうがアテになる気がする。



「え?そうねえ…1番はやっぱり、ホテル・タラートかしら。老舗だけど、最も設備が行き届いているらしいわよ。」

「そのホテルはどこに…」

「海を背に左に向かってずーっと歩いていくと、ゆるやかな上り坂になるんだけど、その一番上にあるの。出前で行く事あるけど、眺めすごくいいわよ。」


おおー、なんか良さそう。

設備が行き届いてるって事は、風呂もちゃんとしてそうだな。


「逆に、右にずーっと進んでいった方には船着き場があるから、その辺にもいくつか旅人用の宿はあるけど─って、あなた、船から来たんでしょ?船着き場はわかるわよね。」

「あ、はは…はい。」


わかんないけど、適当に相槌を打っておいた。


船着き場に船でやってきたんじゃなくて、突如としてそこの浜辺に異世界ワープでやってきたなんて言っても、信じてもらえないだろうし─


「ありがとうございます。坂の上のホテルに泊まろうと思います。それでは!」


色々突っ込まれる前に、立ち去ろう。

俺はお礼を言うなり、小走りで左方向へと進んでいった。




「デケぇ…」


ホテル・タラートの入口のゲート前。

前庭を挟んだ奥にそびえ立つ荘厳な石造りの建物を見て、俺はつい声が出てしまった。


白い壁に囲まれていて、ゲートの左右には門番が立っている。

服装こそ木綿のクルタとサルエルパンツにサンダルという軽装だが、頭に揃いの布を巻き、手には槍を持っている。

なにより顔と体がイカツイ。めっちゃ強そう。


「宿泊の方ですか?」


門番その1が聞いてきた。

見かけによらない丁寧な対応に、ホテルの高級さを感じる。


「部屋が空いていたら、今夜宿泊したく思いまして─」


俺は内心ビビりながらも、引け目を感じないようできるだけ胸を張って言った。


「恐らくあると思いますよ。ご案内します。」



門番その1の後ろをついて、ゲートの中に入る。


前庭には池のような物があり、ヤシの木や南国の花が咲く樹木が沢山植えられていた。

間隔を空けて篝火が立てられ、夜道も暗くない。


ホテルは2階建てだが、1階部分の天井が高いため3階建てくらいに見えた。

とにかく広い。


ホテルに入ると、エントランスロビーから中庭のプールが見えた。

建物一階の真ん中部分は壁がなく、柱だけの造りで、風が通るようになっている。



(ウッ……!)


その時、ふいに──


頭の中に、プールサイドにいる両親の情景が浮かんだ。

母が、小さい俺になにかジュースのようなものを差し出してくれている。そんな場面─


(辺戸岬で感じたのと似た感覚だ…。ここ、来たことあるぞ、俺…!)



─両親の残した手記は、日本に帰ってきて結婚するところまでだったけど、俺が生まれてからも異世界に来た事があるのか…?



もしかして、異世界と日本を行き来できる方法があったのか?


だとしたら、それを知る事ができれば、俺は元世界に帰れるんじゃないだろうか。



「このホテルに暫く滞在して、両親の足取りを追ってみよう。」



俺は空き部屋があるか、そして長期滞在できるのかどうかを、フロントの職員に問い合わせてみる事にした。


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