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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第一章 億万長者になっちゃった!
40/162

【40】異世界へ転移してしまった


どれくらい時間が経ったのだろう?



俺は、地面の上で横たわっているままうっすらと目を開けた。


あたりは暗くなっている。夜だ。


突然現れた眩しい光でショック状態みたいになり、意識を失った─のは、思い出せた。


場所は、沖縄。辺戸岬の崖っぷち。

波の音がする。うん、間違いない。


同行者は友達の、川口、福田。


─よしよし、頭の回転や記憶はヘンになってないぞ。


「あれ…そういやあいつらどうしたんだろ…なんで夜まで気づいてないんだ?俺の事─」


見失ったと思っても、少し探せば周囲で倒れてるのくらい、見つけられそうなもんだと思うけど…。


俺はゆっくりと体を起こした。

髪や服から、砂がパラパラと落ちる。


砂─?


地面を触ると、サラサラした柔らかい砂の手応え。

そんなバカな。

俺はゴツゴツした岩場でしゃがみこんで、気を失って…


左右を見渡すと、砂浜。

どこまでも続くような、ロングビーチ。

その波打ち際近くで、俺は倒れていたようだ。


海と逆の方角には、ヤシの木や樹木が沢山生えている。


見上げれば、満天の星空─


「え…俺、いつの間にか波にさらわれて、漂流しちゃってたのかな?!」


漫画やゲームとかで、船が沈没して流された主人公がふと気がつくと浜辺に漂着していて─みたいなシーンはよく出てくる。


もしかして、それ?



起き上がって体を確認してみると、乾いてるし塩水に触れた感じはなく、ちゃんとトートバッグも肩から下げていた。


中を確認すると、スマホと財布と、ガムとか細かいもの。あと飲みかけのペットボトル。

財布の中を見ると、旅行中に使う用の200万円がギッチギチのパンパンに入ってる、いつもの俺の財布だ。

無くしものは、何もない。


川口たちに連絡しようとスマホを開いてみるが、圏外。え?岬の辺、そうだったっけ?!


「ここ、もしかしてさっきいた岬じゃ、ない─?」


俺は怖くなった。

怖くなったけど─不思議と、さっきまで胸を占めていたそわそわやザワザワの感覚はきれいサッパリなくなっていた。



ヤシの木や南国の樹木のある方角から、木立の隙間を縫ってかすかにオレンジ色の灯りが漏れている。

民家かホテルがあるのか…?


いつまでも浜辺にいても始まらないので、俺は灯りのある方へと歩いていくことにした。




木立の間を通って行くと、活気の良い人の声が聞こえてきた。

俺はホッと胸をなでおろし、足早に進む。誰かにここがどこか聞きたい。



道へ出て見ると、そこは縁日のような場所だった。

屋台がたくさん並び、服や雑貨、食べ物などが売られていて、往来する客に屋台の物売りが声をかける。

夜市─ナイトバザールだ。



だがしかし。


俺は驚きすぎて、声をかけていいものかどうか迷った。なぜなら─


「外国の人ばっかじゃん…日本人、俺しかいないし。」


あ!あれかな。

沖縄だから、米軍基地の人とその家族用のバザーかな?

米軍の居住区に踏み入っちゃったのかな…だとしたら、それはそれでヤベーんじゃないのこれ。


(まあ…海岸で道に迷ったとでも言えばいいか。川口と福田に連絡しないと…心配してるだろうから。)



「あの、すみませんけど…」


革製品の服飾小物を売ってる、屋台のおじさんに声をかけてみた。

金髪碧眼、あきらかに外国の人なので一瞬怯むが、言葉は通じるはずだ。だって─


「はい、なんでしょう?」


よっしゃ!バッチリ日本語で聞こえる。

俺は指につけたままの、父譲りの『翻訳の指輪』に感謝した。


「道に迷ってしまったみたいで…ここはどこの町なんでしょうか?」

「あんた…ずいぶん派手な、変わった模様の服を着てるねえ。船で渡って来た人?」


おじさんは俺の赤いアロハシャツを見て言った。


「船…」

「ここはタラートの町の市場街だよ。」


タラート?

異国語に聞こえるけど、いやもしかして沖縄の地名だったりするのかも─?


そこで、あるひとつの不安な推測が俺の心に芽生えて、膨らんでいっていた。



─試してみよう。


俺はおもむろに、翻訳の指輪を外してみた。


「§※¤∆%~+¢¥℃^|∆πµ‡〜?」


おじさんが何か聞いてきているが、何語なのかさっぱりわからない。

周りを歩いている人達や他の屋台の呼び込みも、全部その英語でも何語でもない、知らない言語だ。


再び指輪をはめてみる。


「──したのかい?」


おじさんの言葉が突如として日本語になった。


「あ、と、スミマセン、今聞き逃しちゃって。もう一度お願いします。」

「あんた異国の人みたいだけど、言葉大丈夫?船から来たのなら、通貨は両替したのかいって聞いたんだよ。」


通貨の両替─ドルから円に、とかじゃなくて…?

俺の中の不安はムクムクと膨らむ一方だ。


「あのう、ここの通貨を見せてもらえませんか?」

「いいよ、ほら。」


おじさんが物売り台の上に出してくれたものに紙幣はなく、金色、銀色、銅褐色の硬貨ばかりだった。

しかしそれはもちろん、百円玉や十円玉などではない。

見知らぬ国の、見知らぬ硬貨だ─


「あの、これ、見た事ありますか?自分の国のお金なんですけど。」


俺は財布から一万円札を出して、おじさんに見せた。

おじさんは札を受け取って暫く裏返したり透かしたりして見たあと、俺に返してきた。


「バザルモアじゃ見かけないね。紙のお金は。」



─バザルモア。



その地名は、飽きるほど目にしていた。

父と母がノートパソコンに遺した私小説で。



─俺は、まさか転移してしまったのか?

両親が、若い時を過ごした異世界に。



見た感じ、両親のように魔道士に召喚転移されたって感じでもない。


(って事は、身柄の安全や生活の保護をしてくれる存在もいないって事だよな…)



身よりもない。

家もない。

お金は200万円持ってるけど、ここでは使えない。



─俺、なんでここに来たんだよ……誰かが呼んだなら、名乗り出てくれ!



一体この先、どうすりゃいいんだ─?!

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