【35】ウミカジテラスに行けたらしい
「来てよかったね…」
「ウム…ここ素晴らしいな。」
「あ〜オレなんか眠っちまいそぉ〜…」
俺たち三人はいま、ハンモックに揺られながら冷たい飲み物を飲んで、夕焼けに染まる海を眺めている。
瀬長島ウミカジテラス。
海辺に作られた地中海的な階段状の町であり、白くて四角い店舗はそれぞれレストランだったり、カフェだったり、お土産もの屋だったり、アパレルショップだったり…。
とにかく景観が白くて美しい。
そこの中にある、ハンモックに乗ってお茶を飲んだりトルティーヤを食べたりできるカフェで、ユラユラと揺られながらトロピカルドリンクを飲んでいるのだ。
─ここは天国か…?
「瀬長島ウミカジテラス、那覇市内や空港からだとめちゃ近かった…」
「嬉しい誤算だったな。」
「けどよぉ〜、そろそろ泊まるホテル行かないとマズいんじゃね?」
そうだ。
予約してあるシェラトン沖縄は、那覇市内ではない。恩納村だ。
1時間近く車を走らせて、海沿いに北上しないといけない。
「高速使ったらもう少し早く着くかな。」
「渚、ホテルには到着時刻を言ってあるのか?」
「うん、大丈夫。でもそろそろ向かおうか。真っ暗になる前に…」
俺は空のコップを片手にハンモックから起き上がり、地面に降り立った。
続いて川口と福田も、のっそりと体を起こして床に足を着く。
「夕焼けが残ってるうちに海岸線を車で走るのも、いいよなぁ〜…」
福田が夕焼けに染まる海岸線を見ながら、嬉しそうに呟いた。
こいつは心底、沖縄ドライブを楽しんでいる。
「福田、残念ながら高速に乗っちゃうと、海岸線走れないかも…」
「え〜っ?そうなのかぁ。残念…。」
「一般道でのんびり行くのでもいいんじゃないか?」
空のグラスをお店の人に渡しながら、川口が提案してきた。
「その方が、美味そうな飯屋があったらすぐ寄れるしな。」
「え、さっきトルティーヤ食べてたろ。まだ食うのか?!」
「あれは前菜だ。」
川口にとって軽食は前菜。もしくはデザート。
「よっしゃ~、じゃあ車出そうぜ〜♪」
俺達は、海岸線をドライブしてる気分を高めるために、なるべく海に近い道路を選ぶことにした。
海をイメージした曲のプレイリストを車内のBGMとしてかけながら、車を進める。
なうら橋を通り、海に沿うようにひた走り、宜野湾で国道58号線に入り北へと進む。
夕焼けは常に俺たちの左側にあったが、美浜アメリカンビレッジにつく頃には日没寸前というくらい海に落ちていた。
「アメリカンビレッジで夕飯を食べよう。」
俺の提案に、ほか二人の答えは当然、
「「おうっ!!」」
アメリカンビレッジは、アメリカ風に作ってある総合ショッピング&レストランエリアだ。
たくさんの飲食店が立ち並び、アメリカンなものあり、オキナワンなものあり。インド料理やタイ料理もある。
川口が肉を食いたがっていたので、鉄板焼ステーキのレストランに行く事にした。
目の前で、シェフがステーキだけじゃなくエビや野菜も焼いてくれる。
俺達は伊勢エビ付きの食べ飲み放題コースを選んだ。一人あたり6480円。
俺はそこまで食えるかな?って感じだし、福田は運転があるからジュースしか飲めないので、以前なら絶対高い食べ放題なんか選ばないタイミングだが、今はお金があるからいいのである。
費用は俺が出すから安心して食っていいよと言ったら、二人とも実に嬉しそうな顔をしていた。
「ああ幸せだ…腹十分目まで美味い肉を食えるなんて、滅多にない…」
車に戻るなり、川口がニンマリしながら呟いた。
「そりゃ川口が満足行くレベルまで毎日肉を食ってたら、食費すごいことになるだろうからそうそうできないだろうな。」
俺は助手席で腹をさすりさすり、そう言った。
いやあ食った食った。食いすぎたあ。
「俺はもう腹十分目どころか、腹十二分目だよ。」
「オレも〜!伊勢エビ美味かったなぁ〜、オレ初めて食ったよ。」
福田も運転席で、腹が苦しいため背もたれに体を預けるようにして、ハンドルを握っている。
アメリカンビレッジから再び国道58号線を北へと進む。
日は落ちて、空はすっかり真っ暗だ。
嘉手納の大きな米軍基地の横を通って進み、読谷村を通る。
このあたりは海から離れた緑が多いエリアなのだが、しばらく北上した時、緩やかな下り道の向こうに、突然パーッと視界の風景が広けて夜の海が見えた。
シーサイドに建つリゾートホテルの灯りがキラキラしている。
「お〜っ!恩納村に着いたんじゃね〜?これ」
「泊まるの、あのホテルか?」
運転席と後部座席から、二人のワクワクがヒートアップしたのが伝わってくる。
「もうちょっと進んだところだったと思うよ。恩納村にはたくさんのリゾートホテルがあるから…ここはまだ端っこの辺り。」
「確かに、ナビはもっと先を指してるなぁ〜。よっしゃラストスパートぉ〜!」
車内のBGMにあわせて福田が口笛を吹く。
時たま調子っぱずれになる音を聞きながら、夜のシーサイドを進んでいく。
恩納村はリゾートホテルだけじゃなく、ホテル宿泊客に向けたレストランや土産物屋なども多い。
日が落ちきった今の時間は、基地の周りと違って灯りが多くキラキラしてるように見える。
国道をしばらく進むと、特徴的な階段状の形をしたホテルのシルエットが見えてきた。
宿泊予約を入れてある、シェラトン沖縄だ。
ロータリーから正面玄関に行き、俺と川口、そして3つのキャリーバッグを降ろした後、係の人の案内で福田は駐車場に車を移動させにいった。
「おお…でかいな。」
ホテルの外観を見上げて、しばらく記念写真を撮ったりなんだりした後、川口が感心したように言った。
「ありがとうな、渚。こんな所に泊まるなんて、薄給アルバイトの俺にはなかなかできない事だ。」
「いやいや、そんな…別に俺自身の財力って訳じゃないし─」
「ウム、それはわかっている。」
「・・・・。」
認めるの早すぎないか?!川口よ。
「しかしな、儲けた時に独り占めするんじゃなく、友達と一緒に使おうと考えてくれるのが、なんというかお前らしいというか…。」
川口はなんだか言いにくそうにモゴモゴすると、尻を掻きだした。
「俺らしい、ってなんだよ?」
「いや……。」
「お荷物、お運びいたします。」
ホテルの係員の人が声をかけてきたので、少ないし、友達を待ってるので自分で運びますと答える。
そうこうしているうちに、駐車場から福田が戻ってきた。
「いやぁ、すげ〜ホテルだよな〜!渚、つれてきてくれてサンキュー!お前みたいな優しい奴と友達やっててほんとよかったわ。」
福田がハイテンションでまくし立てると、川口がコクコクと頷いた。
俺が川口の顔を見上げると、
「ウム、まあ、そういう事だ。」
と言って、照れ臭そうに首のへんをポリポリ掻いていた。
「さ、行くぞ。」
川口は自分のキャリーバッグを引いて、のしのしとエントランスへ歩き始めた。
「おいィ〜、なに川口が仕切ってんだよ〜!」
「まあまあ、福田。俺たちも向かおう。」
俺と福田もそれぞれ自分のキャリーを引き、川口の背中を追った。




