【31】感動させてしまったらしい
「ちょいーっす。」
福田はいつも挨拶の言葉が適当だ。
なんか音出ればいいくらいの感覚でいるんだろうけど、なんかノリがいいから俺もつられた調子で返してしまう。
「ちょいーす福田。今日バイトないんだ?」
「夜勤夜勤。昼過ぎまで寝てこっち来た。」
福田は、アロハシャツにワイドなコットンパンツを履いて、THE NORTH FACEのトートバッグをさげていた。
手には川口の時と同じように、飲み物や菓子類が入ったコンビニ袋。
「えっ、じゃあこの後バイトなんだ?」
「おうよ。バイトの時間まで渚の家行ってみようと思ってさあ。住所だけ聞いてたけど、来た事なかったし──ん?」
福田は紗絵さんの靴に気づいたようだ。
ちょっと声を潜めて言った。
「オレ急に来ちゃってやばかった?」
「あ、いま家事代行サービスの人が来てるから…。」
「家事代行サービスっておま…リッチな事頼んでるなあ〜!このマンションといい、スゲーな。」
「ハハ…まあ取り敢えず上がって上がって。」
俺の後について福田がリビングに入ってきて、料理中の紗絵さんを見てペコッと会釈した。
「なあ渚、これここ置くのでいいか〜?」
彼は手に持ってたコンビニ袋をソファ前のテーブルに置くと、中からレッドブルを取り出して飲み始めた。
俺たち友達間では、だいたいこうやって誰かの家を訪ねるときはコンビニでなにか買って差し入れし、自由に飲み食いする。ついでに相手の家のゲームも勝手に電源をつけて遊ぶ、という暗黙のルール(?)が出来上がっていた。
福田はテーブルの横の床に置いたps4(テーブル上だと何か食うときに邪魔なので、床にした)の電源をつけ、俺はコンビニ袋の中の飲み物をあさった。
レッドブルがもう一本と、麦茶のでかいペットボトルが入ってる。あとはお菓子とおにぎりいくつか。
「あ、福田。夕飯、うちの食べていっていいよ。二人分作ってくれるらしいから」
「え!マジで?やった!」
福田は紗絵さんをチラッと見た。
彼女はこちらを見て「大丈夫ですよ」という感じに頷いて、微笑んでみせた。
「─それにしても、急にどしたん?渚。」
「え?なにが?」
「なにがじゃね〜よ。川口からうっすら聞いてはいたけど、なんで急に富豪になってんの?」
心底不思議だ、という顔で福田が俺の顔を見つめてきた。
これはあれだな。これまでになんとなく構築されてきた「嘘プロフィール」を言うしかないかな。
紗絵さんも聞いてる事だし。
「お金持ちの祖父が死んでさ、遺産がドサッと入ってきたんだよ、親父に。」
「へえ〜、羨ましい…って言ったら流石に悪いかな。じいちゃん亡くなってるんだし。」
「気にしなくていいよ、そんなに会ってなかったし。」
俺は、そのお金で両親が店を閉じ、実家を俺に託して二人で長い旅に出たことを話した。
(うん、半分くらいは事実だ)
「お前の親父さん、度胸あるなあ。いくら遺産が入ったとはいえ、帰ってきてから先のこともあるだろうに。」
「それだけ、母と一緒の時間を過ごしたかったんだと思うよ。もう若くないから…」
「二人の最後の思い出、みたいな感じで?」
「そうだね、両親が出会ったのも旅の途中らしいし──若い頃たくさん二人で冒険をしたみたいなんで、もう一度巡ってみたくなったんじゃないかな。」
グス…
スン…
(?なんの音だ…?)
音の出どころを見てみたら、キッチン。
紗絵さんが泣いて、鼻をすすっていた。
「え?!どうしましたか?紗絵さん!」
「じゅびましぇん…私、そういう話に弱くて…」
あ、半分ウソ半分ホントの両親話にまさか感動してしまったのか──?!
グスン…
ズズッ…
(?!もう一つ音が──)
見ると、福田も鼻をすすっている。
「おま…福田まで、なに感動してんだよ!」
「いや、彼女が泣いてるのみたらつられて我慢できなくなって…オレ涙腺弱いから…」
そう言うと、福田はポケットからティッシュを出してヂーン!と鼻をかんだ。
─なんか変なことになっちまったぞ…。嘘で泣かせるなんて俺に詐欺師の才能が──じゃなくて、なんだかふたりに申し訳ないから、別の話に切り替えよう…。
「紗絵さん、夕飯はいかがですか?」
「ふぇ…?あっ、はい!出来ております!」
紗絵さんから、鍋に入ったできたてポトフと炊飯器の中の炊き込みご飯についての説明を受け、俺と福田は夕飯を食べる事にした。
「それでは失礼いたします。」
紗絵さんは、ペコリとお辞儀をして玄関に向かっていった。
俺が玄関まで見送ると、彼女は頬を少し赤らめながら、花のようなパアッとした笑顔を見せ、
「沖縄旅行、お二人で楽しんできてくださいね♡」
と言って帰っていった。
「川口もいるから二人じゃないんだけど…それを言ったところで焼け石に水だろうな。」
俺はすごすごとリビングに戻り、ポトフを食べることにした。




