【3】一瞬で3千万円入手できたらしい
近所のコンビニATMで貯金をおろしてきた俺は、アパートに帰るなり革袋の前にドッカと腰掛け、財布から札束を取り出した。
32万円。これが俺の預金額だ。
二十代半ばの男の預金にしては少ないかもわからないが、ほっとけ。
一応、この他にそんなに多くないが定期預金もしている。
「定期はATMじゃくずせないから今回は預金分だけだけど…。32万…いっけぇー!」
俺は魔法の革袋に、32枚の1万円札を突っ込んだ。
革袋の紐を締めた途端、袋がモコっと膨らみズシッと重たくなる。
「確かな手応え…こ、これはきたぞ…!!」
震える手で袋を開くと、大きくて長いブロック状の一万円札の束が3つと、100万円の束が2つ入っていた。
「すっげ…多分この長いブロック、一千万円分だよな…それが3つ…こんなの、は、初めて見た…」
とりあえずフローリングの床に正座して、座卓の上に札束を並べてみることにした。
一千万のどでかいブロックが3つ、
百万円の束が先に入手したぶんとあわせて3つ、
あと端数の万冊や千円札がいくらか。
「現実的じゃない光景だなあ…こんなにあると、本物だっていう実感わかないな。ドラマや映画の小道具みたいに見えてくる。」
新品のピン札ではなく、どれもちゃんと使われた気配がある札だ。
透かしもあるし、ニセ札って感じはない。
ナンバーもバラバラで、魔法で同じものをたくさん出した、という訳でもなさそうだ。
「どこからかき集めてきてるんだろうなあ…」
深く考えるとなんだか怖くなってくる。
一般家庭から…じゃないよね?
善良な人の金をくすめることはしたくない。
─どこかに埋められたりして消失したお金や、災害などで焼けたり水没した紙幣とか、悪いことに使われそうになったお金…きっとそんなもののごく一部なんだろうな。うん。
そういう風に俺は思い込むようにした。
考えすぎてはいかん。
第一、神様がからんでることだ。
きっと悪いものではないだろう。
さっそく使おうかと思ったんだけど、感染症の流行で夜中にやってる店があまりない。
キャバクラで豪遊などに興味がないわけじゃないが、無理して飲み屋街で開いてる店を探すというのもしたくない…。
「お金はいっぱい手に入ったけど、感染症が終息しないことには使いみちが限られてきちゃうよなあ、海外旅行もいけないし…」
仕方がないので、取り敢えずさっきATMコーナーでお金をおろしたコンビニに再び行き、欲しい物、食べたいもの、読みたい雑誌をドンドンかごに詰め込んでレジへむかった。
値段を見ずに買い物するなんて初めてかもしれないと思いながら、重い買い物袋を両手に下げて家に戻る。
そして購入した雑誌を読みながら、端から順に食べたり飲んだりした。
高いものはアイスクリーム1つをとっても腹が膨れる。
大した量は飲み食いできない。
「コンビニじゃあなかなか豪遊って訳にはいかないもんだな。胃袋がついていかない。」
食べきれなかったぶんは、明日にまわして冷蔵庫へ。
そしてやはりコンビニで買ってきた、普段なら買わない高めの使い切り入浴剤をバスタブに入れて、風呂に入った。
「明日は銀行に行って定期を解約するぞ。いくら入ってたっけな…100倍にしたら結構な金額になるんじゃないかなあ。」
さらなる現金倍増計画を思い、ニヤニヤしながら入浴を楽しんだ。
だが、どうやら聖女である母がかけてくれた魔法の「プレゼント」はまた別のところで作用していたようで…
後日、ニュースで俺はそれを知ることになる。
なんと、現在世界中を苦しめているあの新型感染症の菌が、変異したものも含めてこの世から消失したのだ─