【29】部屋が豪華になったらしい
「それでは、失礼します。」
家具配送の人達が帰っていった。
玄関のドアを閉めてリビングへ戻った俺の目に飛び込んできたのは…
「おお〜っ、人気Youtuberのマンションみたいだ…!」
Youtuberと言っても色々だろうが、なんとなくのイメージである。イメージ。
12帖のリビングには、木製で横長のテレビ台に乗った60インチの大きな4Kテレビ。
14万円かそこらで、家電店の店員のおすすめで選んだ。
川口が来た時、ゲームをやるにもとにかく画面が広くてキレイなので、スゲースゲーと言いながら遊んでいたっけ。
70インチもあったんだけど、大きすぎるかな…?と思ったが、もしかしたら買換もアリかもしれない。
「70インチでも8Kにすれば更にキレイで、没入感バツグンの快適なゲームライフが送れるかもしれないな。」
そしてそのテレビの前に、少し距離を置いて白っぽいベージュの革張りソファ。
L字型、3人くらいは余裕でゆったり座れるサイズだ。
ソファの前にはウォッシュをかけた白い木製ローテーブル。飲み物などを置ける。
「ソファに座って料理を食べる時は、ちょっと前かがみにならなきゃいけないかもしれないな。うーん、どうしよう…」
書斎の机が社長用みたいなデカいものになったので、そこで食べてもいいかもしれない。
ノートパソコンにこぼさないよう、気をつけなきゃだけど。
リビングにむかって右の部屋が、書斎。
ノートパソコンの乗った大きな机と、どっかり大きめのPCチェアが置かれている。
引き出しがいくつもある机なので、大概の小物はわざわざ小物入れを買ったりしなくても、ここに仕舞うので問題ないだろう。
リビングにむかって左の部屋が寝室。
ここには、黒い革張りのベッドフレームで、クイーンサイズの大きなベッドが鎮座されている。
一人で寝るには大きすぎる所もあるが、寝ながらゴロゴロ転がっても気にならないからよしとする。
「その内誰か、一緒に寝てくれる恋人ができるかもしれないしさあ…」
…口に出したらちょっとむなしくなったので、その件に関しては忘れる事にした。
「もともと使ってた家具も、ベッド以外は家具配送の人に持っていってもらったし、スッキリだな。」
もちろん、購入した時に引取サービスに申し込んでおいたからであって、引き取り代はかかる。
でも大型家具を自分で粗大ゴミとして出すなんて大変すぎるし、ゴミにするよりリサイクルしてもらった方が良い気がするから、引取サービス万歳だ。
シングルのベッドだけは、廊下の途中の4.5帖の小さい空き部屋に、布団ごと移動してもらった。
「これで誰か友達が泊まっても、ソファで寝てもらったりしないですむな。」
あらかじめ買っておいたシーツや布団、クッション類は家具搬入の日までこの小部屋に入れておいたので、晴れて設置できる。
モンステラの緑の葉のプリントがされている、白いクッションを3つ、ソファに。
(1つだけは、座布団代わりに床に敷いて使っていたので、ほんの少しだけつぶれている)
クイーンサイズにあわせて新規購入したシーツや布団は、ベッドに運んだ。
「うん、布モノが加わると生活感が出て良い良い。」
あとは観葉植物かなんかを設置すると、爽やかで洒落た空気が出そうだ。
季節も初夏な事だし、クッションに合わせてモンステラかなんかの鉢植えを各部屋に置くよう買おうかな。
リゾート感高まりそう。
カーテンは、とりあえずな形で各部屋同じクリーム色の遮光カーテンとレースカーテンを配置してある。
遮光、防寒防暑、防炎、防汚の効果がついたものだ。
閉じるとかなり暗くなり、レースだけでも防熱効果が高い素材だから、日差しの暑さが相当緩和される。
(遮光カーテン一枚だと、明るくしようと開けたら外が丸見え状態になるので、レースとの2重カーテンにすれば明るいままで見えないようになるのだ。)
「まだまだ色んなアイテムが設置できそうだな、この部屋。」
これからはインテリアを扱ってるショップもマメに覗いてみよう。
そしてお洒落だな、と思うものがあったら思い切って買ってしまおう。
「なにせお金はいくらでもあるんだ…!」
ウォークインクローゼットに置いてある、金庫の中には、一千万円のブロックが10個。
家具家電や車、沖縄旅行用の支払いだの、なんだかんだと使っていって、引っ越したあとから今までに600万円以上は使ったと思う。
もはや、万札を何枚使って何枚残っているかなどは数えていない。きりがない。
「かなり使ったつもりでいたけど、バイト代を100倍に増やしたぶんで全部支払えてしまったなあ。むしろ二百万円チョイ余ってるくらいだ。」
二百万円は、百万円は持ち歩き用に財布に入れ、もう百万円はなにかあった時の予備として、机の引き出しの奥に入れてある。
この先、翻訳の仕事のギャラが入ったら、また革袋で増やすだろうから…1億に手を付ける日は来るのだろうか?
「ここが異世界だったら、細かいことを気にせずにドカンと使えたりするんだろうけどなあ。屋敷や船を買ったりとか…」
俺は窓からバルコニーに出て、少しだけムワッとした初夏の空気に包まれる。
バルコニーの手すりに肘を置いて、15階の高さからボーッと街の風景を見下ろしながら、両親がいま子供時代を過ごしているであろう、異世界のバザルモア王国とやらに思いを馳せるのであった。




