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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第一章 億万長者になっちゃった!
23/162

【23】どうやら俺は誤解されたらしい


─ピンポーン─



チャイムの音で目が覚めた。



ぼんやりした頭でインターホンに近寄って見ると、小さい画面に知らない女性が映っている。


俺は通話ボタンを押し、


「…はい」


と声を発すると、


『こんにちは!私、フリーメイドカンパニーで契約させていただいた、山岸紗絵と申します。』


という、元気な声が返ってきた。



あ……

あっ…………!


そうだった。

木曜日の正午から、家事代行サービスの「Sae」さんこと山岸紗絵さんに、初めて来てもらう約束の日なんだった!!



はたと振り返ると、昨夜の川口との家飲みのあとが。

床は布団やゴミでごちゃごちゃ、机の上は開いた菓子の袋とゲームソフトでグチャグチャ。


そして俺も、髪も服もぐちゃぐちゃで寝起きの無精髭顔だ。



『─あの?桑野様のお部屋番号、間違ってましたでしょうか…』


紗絵さんが、インターホンの向こう側で不安そうな顔をしている。


「あっ、すみません!いまロック開けますので。」


OPENボタンを押すと、インターホンの向こうで自動ドアが開いた音がする。


「ロック外して少しの間だけ、エレベーターで該当する部屋の階のボタンを押すことができます。何かあったら入口のコンシェルジュに聞いてみてください」


『はい、わかりました。ありがとうございます』



そう言うと、紗絵さんは画面から消えた。

自動ドアの中に入っていったようだ。



「ま、まずいぞこれは!せめてヒゲと髪だけでも…」


俺は風呂の脱衣所に飛び込むと、鏡に向かって急いでヒゲを剃り、手に水をつけて髪をサッサッとなでつけて整えた。

幸い致命的な寝癖はついていないようだ。


歯を磨く時間はなさそうなのでマウスウォッシュを口に含み、うがいだけはすませた。



─ピンポーン─


入口のチャイムが鳴る。

服を着替える時間はないようだ。


諦めて、俺は玄関の扉を開いた。



「こんにちは、フリーメイドカンパニーの山岸紗絵です。よろしくお願いします!」


紗絵さんは扉を開けるなり、深々とお辞儀をした。

肩より長いくらいの焦げ茶色の髪を後ろで綺麗に結んである、キリッとした顔のお姉さんだ。

仕事に使うものが入っているのか、大きな鞄を肩にかけている。


「あ…はい、お願いします。桑野です。中へどうぞ…」


家の中に入ってくると、紗絵さんは鞄の中からルームシューズを出して、履いた。

多分、契約先の家のスリッパを汚すことのないよう、持参しているのだろう。



「プロフにはSaeさんと書いてありましたが…呼び方は山岸さんと紗絵さん、どっちがいいですか?」

「紗絵で結構です!お気づかいありがとうございます。」

「じゃあ紗絵さん…あのう、昨夜散らかしちゃって結構汚れてるんですけど…」


俺のあとを追う形で紗絵さんがリビングに入り、キョロキョロと見渡す。


「全然汚れてないですよ!少し物が出ているだけで、キレイにお部屋を使われていると思います。」


紗絵さんはニコッと笑顔を向けてくれた。

うう、救われる…。


「それでは始めさせていただきますね。使用していい掃除用具などはございますか?」

「あっ、あります。いくつか買っておきました」


基本的な掃除用具や調理用具は家事代行人が持ち込むのではなく、その家庭のものを使う…と、家事代行マッチングサービス『フリーメイドカンパニー』のサイトの契約ルールに書いてあったので

、必要そうなものはあらかじめ渋谷の東急ハンズで買っておいたのだ。



「それでは、自分は書斎で仕事をしてますので…何かあったらすぐ聞いてください。」


そう言って、俺は書斎と呼ぶにはちょっと寂しい「ノートパソコンと机があるだけルーム」に入り、デスクに座った。


大切な親のノートパソコンは、来客中は魔法の革袋とともに納戸の金庫の中だ。


机の上にあるのは、俺がもともと使っていたちょっと古い型のノートパソコンのみ。


もとのアパートから持ってきた本や雑貨は、単に持ってきただけで特に必要としてないのでダンボールに入ったまま納戸の中。


「でかい机が届いたら、ちょっとは雰囲気が変わるかな…」




俺は親の異世界転生物語の続きを「なろう」にアップロードして、時間をつぶした。


今日の話は父・ケイスケの

『異世界に勇者召喚されたけど聖女の嫁ができて戻ってこれた話』

の方だ。


初日から3日間くらいは父と母の話をどちらもいっぺんに配信していたが、物語を膨らましたり繋ぎを考えたりなんだりが思った以上に大変だったので、1日1話、順番に配信することに変えたのだ。


ありがたい事に、すでにどちらの作品もいく人かブックマークをしてくれている人達がいる。


「無理のない範囲でやっていこう」



風呂場の方で、紗絵さんが掃除をする音がカタカタと聞こえる。


─こういうのってなんかいいな。実家にいた頃の休日みたいで、落ち着く…。



リラックスしたのか酒がまだ残っていたのか、気づけば俺は机に突っ伏して眠っていてしまった…。




─ウィーン─


ふ、と掃除機の音で目が覚める。



音がやみ、コンコン…と書斎の扉をやさしくノックする音。


「よろしいでしょうか」


紗絵さんの声だ。


どれくらいの時間、居眠りしてたんだろうか…。


「はい、どうぞ!」


俺はヨダレをたらしてないか心配になって、口の周りを拭って答えた。



扉を開けて、掃除機を手にした紗絵さんが入って来る。


「水まわりとリビングが終わりましたので、こちらのお部屋もお掃除させていただこうかと…」

「あっ、すみません。お願いします。」


紗絵さんが働いていた間グースカ寝ていたのが気恥ずかしくて、なぜか謝ってしまった。


「あの…」


紗絵さんが、なぜかモジモジしながら言いにくそうにしている。


「寝室のお客様を起こすといけないので、あちらはまだ手を付けていませんが…」



寝室のお客様?


「ちょっとだけ扉を開けさせていただいたら…あの、床に脱いだお洋服を置かれてたみたいですので、見てはいけないかなと思ってお部屋に入れず…」


えっ…

エエェェエエエエェェッ?!?!


もしかして、まさか!


俺は寝室へと走り込んだ。


そこには、ちょうど目を覚まして起き上がったという感じで俺のシングルベッドの上にいる川口が──


「おっ、おま…帰ったんじゃなかったのか!」


床で寝てそのまま紗絵さんだったから、気づかなかった…!


「おう、おはよ」


ベッドから降りてくる川口はボクサーブリーフにTシャツといういでたちだ。


「すっ、すみませんっ…!!」


リビングへの扉を振り返ると、俺について寝室に入って来た紗絵さんがなぜか赤くなってペコペコしている。


「あ、あの、こいつ別に住んでる訳じゃなくて」

「は…はヒ!」


紗絵さんの返事がおかしくなってる。


「…?なんだ、お客さんか。スマン」


川口は悠然とした感じで、床に脱ぎ捨てたイージーパンツを拾って履いている。


「わ、私…そういうの…大丈夫ですので!」


紗絵さんは頬を赤くしながら、親指を「グッ」という感じで力強く立てると、


「それじゃ、書斎のお掃除を先にさせていただきますね…!」


と言って、パタパタと部屋から走り去ってしまった。



あ…これ…


なんか、誤解…されてないかな…?



「おい渚、メシどうする?コンビニでなんか買ってこようか」


川口は「我関せず」といった感じの面持ちで、床に落ちてた黒いパーカーを着ながらそう言った。


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