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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第一章 億万長者になっちゃった!
22/162

【22】家飲みはヒヤヒヤするらしい


『うっす。ここすごいな』


水曜日の午後8時。

インターホンのスピーカーから響く友人・川口の声。

小さな画面には、一階エントランスの部屋番号パネル前でカメラを覗き込む川口の姿が映っていた。


川口は背が高いので、パネル上部についてるカメラをかがみ込んで見てる姿勢になっている。

体もいかついから、画面がほぼ覆われて後ろの風景がほとんど見えない。


「いまロック解除するから、ちょっと待って。えーっと…」


俺は慌てながら目で探し、インターホンについてる「OPEN」のボタンを見つけて、押した。

ガーッという自動ドアが開いた音が、インターホン越しに聞こえる。


『まだ慣れてねえのな』


川口は肩で笑った。

画面がゆさゆさする。


「うるせえ。開いたよ。」


川口がエントランスホールに入った気配を確認し、俺はインターホンの画面を切った。




「うす。来たぞ。」


1501号室の玄関。


なにやら物がたくさん入ったコンビニ袋を持って、川口は家に入ってきた。

ダボッとした黒の半袖パーカーにイージーパンツ。そしてDickiesのリュック。


いつも通りのカジュアルな様子に、なんだか俺は安心してしまった。


(大量のお金を手に入れてから、なんだか高級なところに行く事が多くて…俺、気取ってなきゃいけないことが多かったのかもしれないな。)



川口はコンビニ袋を太い腕でヒョイッと差し出し、

「ん。」

と言って俺に渡してきた。


受け取ったらかなり重い。

中には発泡酒のロング缶が何本かと烏龍茶の大きいペットボトルが数本、あと乾き物のツマミが幾種類か入っていた。


「これお土産?ありがとう。」

「飲も飲も。」



川口は、リビングにちんまり置いてある座卓を見つけるとのしのしとそこに近寄り、フローリングの床にどっかりと胡座をかいて座った。


俺はもらったコンビニ袋を座卓の横に置き、中から発泡酒を2本取り出して座卓の上に置くと、川口の向かいに座った。


今夜は川口が時間ができたというので、新居で家飲みする事になったのだ。


沖縄旅行のスケジュールについて話そう、という名目でやって来たが、本当はスケジュールなんてどうでもいいということはわかっていた。


─こいつがかしこまった目的で飲みを提案した時は、別に何か話したいことがあるはずだ。


「ま、飲も」


川口は発泡酒をプシッとあけた。

俺も蓋を開け、互いに缶をコツンと軽くぶつけて乾杯する。


「お疲れ〜」

「うっす」


発泡酒をグビリと飲む。


俺も、正直言って沖縄のスケジュールなんてどうでもいい。

久しぶりに友達と話せるという事こそが、飲み会の目的にほかならなかった。



「それにしてもすげえな、このマンション。」


川口が室内をぐるりと見渡して、言った。


「賃貸だろ?月いくらなんだここ。」

「に…20万…」


本当は50万だけど。


「そんなもんなのか?最上階だぞ」

「えーっと、なんかいわくつきらしくて、借り手がいないって…」


俺は金額については追求されないよう誤魔化すことにした。


「隣の1502号室も空室だっていうし…」


これは本当だ。


川口は眉をひそめ、マジかよと呟いた。


「死人出てるだろ、それ絶対。」

「は、はは〜そうかもね?怖いよね…!」

「まあお前が気にならないんだったらいいけどさ。呪われるなよ?」


川口はコンビニ袋の中からトルティーヤチップスの袋をむんずと取り出し、でっかい手でバリッと開くと、机の上に置いた。


「大丈夫大丈夫…。川口は仕事、何やってんだっけ最近」


自分が聞かれる前に相手に質問するスタイルでいこう。


「駐車場の管理人な。ま、適当にやってるよ。たいして金にはならないけど、気楽。」

「福田は相変わらず実家の店手伝ってるんだっけ?」


沖縄旅行に誘った福田も、川口と同じく高校からの友達だ。


「福田、親父さんが感染症の影響で焼き鳥屋たたんだらしいから、最近は働きに出てる」

「えっ、そうだったのか…大丈夫なの?」

「親父さん、実家で農園継ぐらしいから大丈夫」


「感染症、もう消えたのに…」


俺はポロッと本音の言葉が出てしまい、ハッと口を抑えた。


「お前も感染症の菌が消滅した事、信じてるのか、渚。」

「川口はデマだと思ってるの?」


川口は、なんとも言えない表情で、暗い窓の外を見た。


「わかんね。」


発泡酒をグーッと一気に飲み干す。


「全部消滅するわけ無いとか、変異種は残ってるとか…時期が来たら消えるよう最初から仕組まれた某国の陰謀だって噂すらあるぞ。」


「噂でいっぱいだよね。俺は本当になくなった…ような気がするけど。」


俺は尻すぼみの声でボソボソ喋る。


聖女である母の力が発揮された結果だなんて言えるわけもないから、なんだか気まずくなってしまったのだ。


「そうだといいよな。」


川口は、ほんの少しになったトルティーヤチップスを袋ごとザラーっと口に流し入れ、ポテトチップスの新しい袋をコンビニ袋から出すと、バリッと開けた。


「ハハ…ほんとにね。でもさ、だいぶ緩和された感じあるよね。ここ一ヶ月で」

「政府がまだ菌消滅の確定宣言してなくても、民間は自主的にぐんぐん緩めてるよな」


大丈夫なんだろうか。


いや、菌は聖なる魔法で本当に消滅したんだろうなって感覚はあるけど…調べた訳じゃないけど、なんとなく。


急激な変化で、治安が乱れたりしてないかな。

心配になってきた。


「ここん所、夏の旅行の予約とか凄いらしいぞ。」

「やっぱ混むのかあ…噂が広まりきる前に予約入れておいてよかった〜!」

「予約?抽選で当たったんじゃないのか」


しまった!と俺は口を抑えそうになった。


全額出すというと怪しまれるから、抽選で沖縄旅行が当たったという事にしてたんだった…


「日程の予約はね、当選者が決めないといけないらしいから…」


俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「…そうか。ありがたいな。」


川口が納得してくれたようなので、俺は別のことに話を逸らすことにした。


「それにしてもさーっ!福田の父さん、親の年になってもあとを継ぐとかそういうのあるんだな。」

「農家の祖父さんがやたらと元気らしい。…お前のところはどうなんだ、渚」

「え…えっと、うちは…」


しまった、またまずい方角になったぞ。


「うちは…今、店閉めて旅行に行ってるから…」

「は?なんだそれ。優雅だな。」

「えーっとね、お祖父ちゃんの遺産が入ってきたので、やりたい事をやるって親が言い出して…」

「すごいな、遺産か。だからお前もこんなマンション借りれたのか。」

「そ、そういうこと…」



なんとか誤魔化せたか…?



しかし、毎回こんなんじゃ気が持たないな。


両親から与えられた魔法の革袋や指輪のチートを隠して生きていくのなら、もうちょっと嘘が上手にならなきゃいけないかもしれない…



俺は久しぶりに友と飲んだ楽しさと裏腹に、嘘をつくことの精神的な疲れで普段よりも酒が進み、

したたかに飲んで酔っ払ってしまった。



途中から、家具が届いてから使おうと思って買っておいた夏掛け布団やクッションを床に置き、その上に座ってps4のゲームをしながら飲んでいたのだが、いつの間にか酔っ払って眠ってしまっていた─




朝、横たわったまま目だけ開けると川口の姿がなかったので、適当に帰ったんだろうなと思いそのまま目を閉じると、俺はすぐさま眠りの世界へ戻っていった。


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