【17】お姉さん系女子が好きらしい
マンションに帰り、荷物をおろそうとしたが結構な量がある事に気づき、コンシェルジュカウンターに行って台車を借りてきた。
こういう物を貸してくれる所も、このマンションの良い所だ。
折りたたんである台車を開いて床に置き、ゴロゴロ転がしていこうとしたら、コンシェルジュのお姉さんが
「お部屋への運搬、お手伝いいたしましょうか?」
と笑顔で言ってくれた。
「別に一人でも運べるかな」
と思いつつも、なんとなく女性と話をしたかったので、お願いしますと答えてみた。
地下駐車場で買ってきた荷物の袋を台車に乗せる。
安定して乗せにくい軽くかさばる袋は自分の手で持ち、親のノートパソコンと財布を入れたリュックを背負った。
台車はお姉さんが押してくれる。
「ニトリに行かれたんですね。」
袋のプリント文字を見て、コンシェルジュのお姉さんが話しかけてきた。
内見の日にもいた、黒髪を後ろで丸めるみたいにして結っている人だ。20代後半くらいかな。ちょっとタレ目がちで、ナチュラルなメイク。
マスクをしていても、品の良い美人だとわかる。
「はい、今日実家に帰ったもので、道中寄ってきました。」
エレベーターが来て、俺達は台車とともに乗り込んだ。
「まだ引越されてから1ヶ月くらいですもんね。足りないお品とか、色々ご不便ございますでしょう…?」
「はは…なんとかやれてます。大丈夫です」
お姉さんはフフッと微笑むと
「困った事があったらいつでも一階に来てくださいね?」
と軽くお辞儀するようにして、俺の顔をほんの少し覗き込んだ。
俺はなんか、たぶん、だらしない返事をしたんだろうと思う。
─エレベーターの中で、そういう視線を合わせた優しさ攻撃はズルい…!ドキッとしてしまうじゃないか…!
部屋のドアを開け、台車から荷物を運び込むと、お姉さんは「それでは失礼いたします」と言って台車を転がしながら去っていった。
「はぁ〜…このマンション最高…名前聞いておけばよかったかな。」
一階のお姉さん達は数人でシフトを組まされているようで、毎日少しずつ入れ替わる。
中には「お姉さん」と呼んだらいけないかな、というくらい若い感じの女の子もいるが、キチンとしたモカカラーの制服でパンプスを履き、業務をこなしている姿はいかにも「お姉さん」だ。
「…俺、お姉さん好きな性格だったんだな。今まで意識したことなかったけど、そういや好きになった女優やアニメのキャラも、お姉さんタイプだったっけ…」
たまにLINEで会話してるもと同級生の芦田梨亜も、同学年の中ではお姉さんぽいタイプだった。
「LINEで話すだけで、あれから一度も会ってないな…」
今度、食事にでも誘ってみようかな。
車も手に入ったことだし、以前ショッピングモールで再会した時と違い送り迎えもできるし、買い物をしても荷物を運んであげられるぞ。
1ヶ月くらいしかたってないけど、少しだけ自信がついた自分を感じる。
別に自分の力で金を稼いだわけではないが、なんというか、色んなものを見聞して、人生の経験値が上がった感じ…?
「それもこれも、すべて親のおかげなんだけどね…」
俺はリュックからノートパソコンを取り出し、書斎の机の上に置いた。
(書斎と言っても、まだ前のアパートから持ってきた古くて小さいサイズの机と椅子が部屋にちんまりと置かれただけの状態だけど)
「パスワード、思いつく限りの言葉や数字を片っ端から組み合わせて、打ち込んでいってみるか…」
作業のダルさに辟易しないよう、梨亜にLINEでメッセージを送って会話する。
どうやらあちらは仕事が終わったようだ。
《恵比寿で食事?うわー楽しみ》
梨亜はノリ気になってくれたようだ。
《でも私、高い店は無理だよ?》
「大丈夫だよ、うまく選んでおくから」
まあ払わせる気はないんだけど。
《次は私がおごるからね!前回のお礼》
うっ、覚えてたか…気にすることないのに。
…そうだ、いいことを思いついたぞ。
「じゃあ日曜日に。カフェを予約しておくから、そこでおごってもらおうかな。」
《カフェくらいなら大丈夫。じゃあ、日曜にね》
いつものシュールなパンダのスタンプ。
シュールながらもウキウキしてる顔をしてる。
ふと、暗くなった外を見たら、窓ガラスに自分の顔がうつっていた。
シュールなパンダの何倍もウキウキしてる男の顔がそこにあった。
俺は照れくさくなって、カーテンを思い切りジャッ!と閉じた。
ノートパソコンのパスワードは一向にわからず、疲れたので一旦中止。
風呂に入って寝る準備をすることにした。




