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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
157/162

【157】異世界の讃岐うどん屋にて


一見、チェーン店の讃岐うどん屋っぽい店内は、入ってみると全く想像通りの作りだった。


うどんを茹でてる湯気の、独特の香りがする。

よかった、ちゃんとうどんだ。

うどん、って言う名の全く謎めいた食品だったらどうしようかと思った。


奥には、白い作業着と帽子でうどんを茹でている、40歳くらいの店主と若い従業員、各1名ずつ。


見た感じ……日本人に見える。

転移してきた人だろうか。



カウンターの上に天ぷらや刻みネギが並び、セルフで皿に取れるようになっている。


「わ〜!これマジで讃岐うどんじゃん。俺たち日本に戻ってないよねえ…?」


福田が声を出すと、店主がこちらを見て、


「らっしゃい!」


と言った。


「今の日本語だよね、翻訳の指輪をつけてるから判別しにくいけど…」


と、俺たちがひそひそ話してると、店主は驚いた風でもなく、


「日本の方かい?じゃ、讃岐うどんの盛り方、わかるね?」


と、カウンターへ促した。

俺たちはもちろんこの種類の店での流儀は知ってるので、それぞれ


「俺は釜あげうどん」

「じゃあおれはおろし醤油」

「オレ玉子入ってる釜あげうどん〜!」


と、食べたいうどんを告げる。


ユーリは前世ではともあれ、「バザルモア育ちのユーリ」としてはもちろん讃岐うどんは初体験。

オリビアに至ってはもしかしたら一般人のレストラン自体初体験かもしれない。

二人とも戸惑っていたので、まずはシンプルに釜あげうどんを2つ、かわりに頼んであげた。


そして全員、積んであるお盆を1枚手に取り、茹で上がったうどんを店主から受け取る。

そしてカウンターに並んでいる野菜や魚、練り物の天ぷら類から食べたいものをとって、小皿に乗せていく。

うどんに直接乗せるのも自由だ。


見た感じ、日本とはちょっと違う野菜も見受けられるが、まあ天ぷらにしてしまえば大した違和感はなくなるだろう。

ユーリたちには、福田がおすすめの具材を説明してあげてるようである。


最後に会計で、うどんと具との合計をそれぞれ会計してもらう。

レジはないが、消費税のような細かい端数はないシンプルな金額なようなので、従業員の暗算で問題ないようだ。


「釜あげうどん2ソルに、南瓜天、茄子天、かきあげで合計3ソル50ペスです。」


えっと、1ソル百円だったから…てか、1ソルより下のお金の単位もあるんだな。

1ペス=1円くらいだろうから、合計350円ってところか。


物価は、日本の讃岐うどんチェーン店と比べるとだいたい半額くらいってところかな。

富裕層の地域だからかわからないけど、バザルモアよりは高い。


「ごゆっくりどうぞ。」



店内を見てみると、品が良さそうな老夫婦と、中年男性が一人食べているだけだ。空いてるな。

夕飯時になったら混んでくるのだろうか。



5人で座れそうな空いてる席を見つけて、座る。


カウンターを見ると、ユーリとオリビアのぶんの代金を福田が払ってくれている姿が見えた。


「あっ、そうだ。ユーリはお金持ってないんだった。オリビアのぶんまで、悪いな福田。」

「い〜よ気にしないで。もともと渚に増やしてもらったお金だしさあ。」


オリビアにとってうどんと天ぷら皿が乗ったお盆は大きくて重そうなので、川口が運んでやっていた。



さあ、みんなでテーブルを囲み、うどんパーティー開催だ。


「醤油をタラーっとかけて食べるんだよ。このうどんは。」


と言って、備え付けのガラス瓶に入ってる醤油が本当に醤油なのか気になったので、匂いを嗅いでみる。


ん?醤油じゃない…?


「お客さん、魚醤(ナンプラー) だから沢山かけたらちっとばかし甘臭くなっちまうよ。少しにして、あとは塩をふるとかがいいですぜ。」


いつの間にやらテーブルの横に、店長のおじさんが立っていた。


「あーっ、ほんとだ、魚醤(ナンプラー) だぁ〜!」

「うどんにかけるとちょっとベトナム料理っぽくなるな。ネギも長ネギじゃなくてわけぎみたいなタイプだし。」


川口は鶏肉の天ぷらをうどんに乗せ、さっそく食べてみている。

うーん、これはこれで美味そうな気がするぞ。


「長ネギはなかったんだよね、こっちには。もちろん、醤油もね。わけぎみたいなネギがあってよかった。」


店長が、ハハハと笑った。


「その魚醤(ナンプラー) だって、バザルモア産のものだもんな。あっちにはアジア系の食材がものによってあるから…。」

「あ、やっぱり…私、知ってる香りだなと思ったけど、そうだったのね。」


ユーリがクンクンと匂いをかぐ。


「和モノ調味料がないんですね。異世界には。」


と、俺が聞くと


「異世界、か──」


店長は、どこか懐かしそうな顔をして、空中を見た。


「こっちにきて長いから、ここを異世界と呼んでいた感覚すら忘れてたよ。ここの人たちにしてみれば、日本のほうが異世界だからねえ。」

「そういえばそうですね。異世界好み、って言葉もあるくらいだし。」

「ああ、このソルベリー人には特に多いね。金持ちほど異世界にかぶれやすい…おっと、日本語だからバレないけど、こんなこと周りに聞かれたら怒られちまうな。ハハ。」


彼は笑って、帽子をきちんとかぶり直した。


「店長さんはこちらへ来て何年なんですか。」

「俺?まだ4年かそこらだよ。」

「そうだったんですね。」


「まっ、食べちゃってよ。のびないうちに。はい、これサービス。」


カウンターから、小さな緑色の柑橘を切ったものをいくつか小皿に入れて持ってきてくれた。


「すだちってあるだろ。こっちの植物だけど、あれに似てるんだよ。よければうどんに絞って食ってみてな。」


そう言うと彼は、カウンターの中に戻っていった。



──サッパリした性格で、話しやすそうなおじさんだな。

この人になら、異世界転移者とこの国のことについて、具体的な話を聞けるかもしれない。



店長にもらったすだちモドキの柑橘類は、魚醤(ナンプラー) との相性がよく、甘臭さや天ぷらの油っけをおさえて絶妙な味わいへと導いてくれた。


俺たちはうまい、うまいと食べまくり、この店はソルベリーにいるうちは何度も来ることになるかもしれない、と予感したのだった。

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